第81話 翔太の地域密着配信
同日午後 祢古町商店街
翔太は、新しい配信スタイルを確立していた。
『祢古町の日常』というタイトルで、町の変化を記録している。
かつては100万人を目指していた登録者数も、今は10万人程度で満足していた。しかし、その10万人は熱心なファンで、毎回の配信を楽しみにしている。
「みなさん、こんにちは。翔太です」
商店街を歩きながら、自撮り棒でカメラを構える。
「今日は、八百屋の山田さんのお店を紹介します」
「実は今日、特別なお客さんが来てるんです」
画面に映ったのは、昔ながらの八百屋。
色とりどりの野菜が並び、手書きの値札が温かみを感じさせる。
店の奥で、大きな体の猫人間——ボスが、真剣な表情でトマトを選んでいた。
「これ、新鮮か?」
ボスが一つ一つ、トマトを手に取って確認している。
「今朝採れたばかりだよ」
店主の山田さんが答える。80歳を超える山田さんは、最初ボスを見て驚いたが、今では普通に接している。
「じゃあ、これを3個」
「あと、キャベツも頼む」
「はいよ」
山田さんが手際よく野菜を袋に入れる。
「ボスさん、今日は何を作るんですか?」
翔太がインタビューする。
「トマトソースのパスタだ」
ボスが少し照れくさそうに答える。
「シロコに教わったレシピでな」
「地下にいた頃は、缶詰ばかりだったが」
「新鮮な野菜が買えるのは、幸せだ」
視聴者のコメントが画面に流れる。
『普通に買い物してる』
『猫人間も料理するんだ』
『なんか、ほっこりする』
『山田さん、優しいなぁ』
翔太が振り返って、カメラに向かって話す。
「これが、今の祢古町の日常です」
「特別なことじゃない、普通の買い物風景」
「でも、1ヶ月前には考えられなかった光景です」
商店街を歩いていると、他にも変化が見られた。
パン屋の前で、猫人間の子供が母親とパンを選んでいる。
「このメロンパン、美味しそう!」
「一つだけよ」
洋服屋では、猫人間用の服——尻尾用の穴が開いたズボンが売られ始めていた。
「需要があるんですよ」
店主が説明する。
「意外と売れてます」
翔太は数字を追わなくなった。
代わりに、町の小さな変化を丁寧に記録することに専念している。
「今日の配信は以上です」
「明日は、猫人間の子供たちの学校見学を取材予定です」
「それでは、また明日」
配信を終えて、翔太は満足そうに微笑んだ。
視聴者数は少ないが、みんな真剣に見てくれている。
それが、何より嬉しかった。




