表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/95

第8話 気づいたら猫でした

時間不明 場所不明 ニャンタジア大陸


暖かい。


それが、ユイが最初に感じたことだった。


全身を包み込むような、母親の胸に抱かれているような、深い安らぎ。痛みはない。恐怖もない。ただ、静かで穏やかな暖かさだけがあった。ふわふわとした毛布に包まれているような、でも毛布よりもずっと心地よい感触。まるで、羊水の中に浮かんでいるような、原初的な安心感。


(私......生きてるの?)


恐る恐る目を開けてみると、そこには見たこともない光景が広がっていた。


透き通るような青い空。綿菓子のようにふわふわした白い雲。そして、自分の周りに広がる緑の草原。風が運んでくる花の香りは甘く、鳥のさえずりが空気中に響いている。太陽の光は暖かく、でも刺すような強さはない。まるで、絵本の中の世界のような完璧な美しさ。


草の感触が体に心地よい。一本一本の草が、柔らかいクッションのように体を支えている。風が吹くたびに、草が優しく体を撫でていく。どこかで小川のせせらぎが聞こえ、その音が心を落ち着かせる。


(ここは......天国?)


ユイは起き上がろうとして、愕然とした。


自分の手が——手のはずのものが——小さな、黒い毛に覆われた前足になっていた。肉球のプニプニとした感触、鋭い爪の先端、指というより足指の形。これは確実に、猫の足だった。


「にゃ......にゃあ?」


自分の口から出た声に、ユイは更なる衝撃を受けた。人間の言葉ではなく、確かに猫の鳴き声だった。喉の奥から響く、高い音程の声。でも、その声には確実に自分の意思が込められている。喉の振動の仕方が、人間とは全く違う。


(嘘でしょ......私、猫になってる?)


恐る恐る近くの小川を覗き込むと、水面に映っていたのは小さな黒猫の顔だった。金色に光る瞳、ピンク色の小さな鼻、そして首元に見覚えのない不思議な模様。ひげがぴくぴくと動くのも感じられる。耳が自然に動いて、周囲の音を捉えようとしている。


首元の模様は複雑で美しく、まるで古代の紋章のようだった。それは確実に、生まれつきのものではない何か特別な印のように見えた。金色の線が複雑に絡み合い、太陽の光を受けると微かに光る。


(夢......よね?これは夢......)


しかし、草の柔らかい感触、風の涼しさ、花の香り、鳥の声、全てが現実のようにリアルだった。肉球で地面を踏む感覚も、尻尾を振る時の重心の変化も、全てが新鮮で確実な現実だった。四本の足で立つ時のバランス感覚、今まで経験したことのない視界の低さ、全てが本物だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ