第9話 最初の試練 - 猫としての生存本能
転生翌日 ニャンタジア大陸の森
一晩、草原で過ごした後、ユイは深刻な問題に直面していた。
「お腹...すいた...」
人間だった時は、コンビニやスーパーで簡単に食べ物が手に入った。でも、猫の体では、お金も使えないし、店もない。野生の世界で、自力で食べ物を見つけなければならない。
最初に試したのは、草を食べることだった。でも、猫の体は草を消化できないようで、すぐに吐いてしまった。苦い味が口の中に残り、胃がむかむかする。
次に、小川の水を飲んだ。猫の舌で水を飲むのは難しかった。人間のように口を付けて飲むことができず、舌で少しずつすくい上げる必要がある。効率が悪く、なかなか喉の渇きが癒えない。
「こんなに大変だったんだ...」
そして、最大の問題は歩くことだった。四本の足をどう動かせばいいのか分からない。右前足と右後足を同時に出してしまい、バランスを崩して転ぶ。左右の協調が取れず、よたよたと不格好な動きになる。
「人間の時は、二本足で簡単に歩けたのに...」
尻尾のバランスも難しい。感情によって勝手に動いてしまい、コントロールできない。嬉しい時はピンと立ち、怖い時は足の間に巻き込まれる。
そんな時、声が聞こえた。
「君、大丈夫?」
振り返ると、一匹の茶トラ猫がこちらを心配そうに見つめていた。琥珀色の瞳が優しく光っている。年齢は若そうだが、野生の猫特有の警戒心は感じられない。
(え......今、この猫が喋った?)
そして驚くべきことに、その言葉が完璧に理解できた。人間だった時と同じように、意味がすんなりと頭に入ってくる。
「あ、気がついたんだね」
茶トラ猫が安心したように尻尾を振った。
「君、昨日からずっと草原で眠ってたから心配してたんだ」
「あの...私...」
ユイが口を開くと、やはり「にゃあ」という猫の鳴き声が出た。しかし、不思議なことに茶トラ猫には通じているようだった。
「君、記憶がないの?」
茶トラ猫は首をかしげた。耳がぴくりと動く。
「私は生粋の猫じゃないんです...私、実は人間だったんです」
「人間?」
茶トラ猫が驚いた表情を見せた。目を丸くして、一歩後ずさる。
「ということは...転生者?」
「転生?」
「僕はトラ。この森で暮らしてるんだ。君の名前は?」
「佐藤......ユイ」
「ユイちゃんか。変わった名前だね。でも、いい響きだ」
トラは優しく微笑んだ。猫の顔で微笑むという表情が、不思議と自然に見える。
「まずは、猫として生きる基本を教えてあげる」




