表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
79/95

第79話 小さな統合の始まり

魂喰いの環崩壊から2週間後 祢古町役場 朝9時


春の穏やかな朝、祢古町の小さな役場に関係者が集まっていた。


会議室は20人も入ればいっぱいになる広さ。古い木造建築特有の軋む音が時折響き、窓から見える桜並木は五分咲きで、鳥のさえずりが心地よく聞こえてくる。テーブルには、シロコが朝4時から起きて作ったという手作りクッキーと、美久が淹れた挽きたてのコーヒーが並んでいる。クッキーからはバターとバニラの香りが漂い、コーヒーの湯気が朝の光に照らされて金色に輝いていた。


参加者は、町長の田沼、商店会長の佐藤、美久、ユイ、ルナ、クロード長老、そして防衛省から派遣された黒田大佐。それぞれの表情には、期待と不安が入り混じっている。


「では、これからの祢古町について話し合いましょう」


町長の田沼が穏やかに切り出した。60代の温厚な男性で、この町で生まれ育ち、町の歴史を誰よりも知っている人物だ。彼の祖父の代から、実は猫人間の存在を知っていたという。


「魂喰いの環が消えて、地下の猫人間たちも、古代王国の方々も、もう隠れる必要はなくなりました」


「しかし、問題は山積みです」


田沼が資料を開く。そこには、具体的な課題が列挙されていた。


・住民票の問題(猫人間の戸籍をどうするか)

・教育の問題(子供たちへの説明)

・仕事の問題(猫人間の就労)

・住居の問題(地下街の今後)

・医療の問題(猫人間の診療)


クロード長老が黒い毛並みを整えながら発言する。


「私たちも、できれば地上で普通に暮らしたいです」


「しかし、300年以上地下で暮らしてきた者にとって、太陽の光は眩しすぎます」


「段階的な移行が必要でしょう」


佐藤会長が現実的な意見を述べる。彼は商店街の顔役として、住民の反応を一番よく知っている。


「正直なところ、町の人たちの反応は半々です」


「『面白い』『一緒に暮らしたい』という人もいれば」


「『怖い』『今までのままがいい』という人もいます」


美久がアミュレットを無意識に触りながら提案する。


「私の猫カフェを、交流の場として使ってもらえませんか?」


「最初は、理解ある常連さんだけを招待して」


「少人数から始めて、徐々に輪を広げていく」


「お茶を飲みながら、自然に交流できる場所にしたいんです」


ユイが美久の膝の上で付け加える。


「私も翻訳で協力します」


「猫語と人間語の架け橋になれれば」


黒田大佐が、防衛省からの公式見解を伝える。


「政府としては、祢古町を『異文化共生特区』として申請する準備があります」


「ただし、条件があります」


彼は書類を取り出した。


「月に一度の定期報告」


「問題が発生した場合の即時連絡」


「そして、他地域への無断での拡大禁止」


「つまり、あくまで祢古町限定の実験ということです」


ルナが銀髪を揺らしながら発言する。


「古代王国としても、全員が一度に来るわけではありません」


「まず、私のような若い世代から」


「興味がある者だけ、少しずつ」


「シロウ皇帝も、急激な変化は望んでいません」


会議は2時間に及んだ。


具体的な計画が次々と決まっていく。


第1段階(1ヶ月):猫カフェでの小規模交流

第2段階(3ヶ月):商店街での試験的な共同営業

第3段階(6ヶ月):学校での異文化教育開始

第4段階(1年):正式な共生社会への移行


「焦らず、でも確実に」


田沼町長がまとめる。


「これが、祢古町の方針です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ