第76話 魂喰いの環、完全崩壊
飢餓の主が消滅した瞬間、魂喰いの環全体が崩壊を始めた。
ゴゴゴゴゴ...
地響きが起こり、天井が崩れ始める。
巨大な黒い樹木が、根元から崩れ始める。骨で出来た幹が砕け、培養槽が次々と割れていく。
パリン!パリン!パリン!
ガラスの破片が飛び散り、緑色の液体が床に広がる。
『警告:魂喰いの環崩壊』
『全エネルギー解放』
『退避を推奨』
機械音声が響く中、解放された精神体たちが、光となって空へと昇っていく。
「みんな、ありがとう」
「やっと自由になれる」
「1000年間、お疲れ様」
口々に感謝の言葉を残しながら、精神体たちが成仏していく。
300年前の画家が言う。 「やっと、絵が描ける」
200年前の詩人が言う。 「やっと、詩が詠める」
100年前の音楽家が言う。 「やっと、音楽を奏でられる」
みんな、本来の自分を取り戻していく。
周平たち子供も、体が光り始めた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん」
周平が四人を見つめる。涙で顔がぐしゃぐしゃだ。
「ありがとう。やっと、お腹いっぱいになれた」
「心が...満たされた」
「もう、飢えなくていいんだね」
最後に、周平が言った。
「また...どこかで...会おうね...」
子供たちも、安らかな表情で光となって消えていった。
その光の群れの中に、四人は見知った顔を見つけた。篠田悠真だった。彼はもう苦悶の表情ではなく、憑き物が落ちたような穏やかな笑みを浮かべていた。
悠真は、同じく光となったヒロシや周平たちに手を差し伸べ、まるで兄のように彼らを導いているようだった。彼は最後に四人に向き直り、声なく唇を動かした。
ユイの翻訳能力が、その最後のメッセージを読み取る。
『ありがとう。君たちなら、本当の「繋がり」を作れる』
悠真は満足そうに頷くと、他の魂たちと共に天へと昇っていった。彼の探求の旅は、こうして本当の意味で終わりを告げたのだった。
しばらくすると、地下施設全体が激しく振動し始めた。
天井が崩落し、壁が崩れ、床が抜ける。
大地震のような揺れが、全てを破壊していく。
「逃げましょう!」
美久が叫んだ。




