第72話 翔太の決死の抵抗
中枢制御室 戦闘開始
翔太の体が、培養槽へと引き寄せられていく。
皮膚が引っ張られるような感覚、内臓が裏返るような吐き気、そして魂そのものが体から剥がされていくような激痛。
見えない手が、体の内側から引き裂こうとしているかのよう。
「うわああああ!」
翔太が絶叫する。その声は、ガラスを引っ掻くような甲高い悲鳴となって室内に響き渡った。
しかし、翔太は最後の力を振り絞って叫んだ。
「俺は...餌なんかじゃない!」
声帯が裂けそうなほどの大声。
「俺は藤原翔太だ!」 「確かに承認欲求に取り憑かれた、ダメな配信者だった!」 「数字ばかり追いかけて、本当の繋がりを知らなかった!」 「でも...でも今は違う!」
翔太の目から涙が溢れる。塩辛い涙が頬を伝い、唇に触れる。
「ユイさんが助けに来てくれた!」 「美久さんも、ルナさんも!」 「初めて...初めて本当の仲間ができた!」 「それが俺の希望だ!」
その瞬間、翔太の体から眩い光が放たれた。
それは絶望ではなく、希望の光だった。
白く、温かく、そして力強い光。
光は培養槽への引力を断ち切り、翔太を解放する。
『ぐああああ!』
飢餓の主が初めて苦悶の声を上げた。触手が痙攣し、黒い血のような液体が噴き出す。
その液体が床に落ちると、ジュウジュウと音を立てて溶けていく。
「効いてる!」
ユイが叫んだ。
「希望の光が、絶望を打ち消している!」
しかし、コレクターはすぐに体勢を立て直した。
『面白い...久しぶりに抵抗する獲物だ』 『だが、それも無駄なあがきだ』
触手が倍の数に増え、四方八方から襲いかかる。
「今よ!」
美久が号令をかけた。
三人は完璧な連携で攻撃を開始した。
美久の陽の光が、部屋全体を黄金色に染める。
その光は温かく、優しく、そして圧倒的に力強い。1000年前の陽の巫女の力が、完全に覚醒する。
アミュレットが眩く輝き、美久の髪が金色に変わる。背後に、巨大な太陽の幻影が現れた。
「陽光浄化!」
金色の光が波動となって広がる。
触れた瞬間、培養槽の中の精神体たちが、わずかに反応を示す。瞼が動き、指先がピクリと震える。
「みんな、聞いて!」
ユイが翻訳能力を最大限に発動させた。
小さな体から、想像を超える強い波動が放たれる。それは、言葉を超えた、魂の叫びだった。
『あなたたちは一人じゃない!』 『1000年の苦しみ、もう終わりです!』 『一緒に、この呪いを終わらせましょう!』
ユイの声が、培養槽の中の無数の精神体に届く。
彼らの瞳に、僅かな光が宿り始めた。
『助けて...』 『出して...』 『もう...疲れた...』
培養槽の中から、微かな声が響き始める。
ルナが月の魔法で、巨大な銀色の槍を作り出す。
「月光穿撃槍!」
月の力を凝縮した槍が、空中に複数出現する。それぞれが、違う軌道を描いて飛ぶ。
槍が空気を切り裂く音が響き、飢餓の主の体の各所を貫いた。
ズドン!ズドン!ズドン!
黒い血が噴水のように噴き出し、床を汚す。その血は酸のように床を溶かし、煙を上げる。
『ぐおおおお!』
飢餓の主が怒り狂う。
無数の触手が、槍のように鋭く尖り、四人に向かって襲いかかる。
空気を切る音、肉を抉る音、骨を砕く音が入り混じる。
美久が光の盾を展開し、攻撃を防ぐ。
ルナが時間を遅くし、触手の動きを鈍らせる。
ユイが仲間たちの位置を翻訳し、完璧な回避を可能にする。




