第71話 飢餓の主との最終対峙
重い鉄の扉を押し開けた瞬間、想像を絶する光景が四人を待ち受けていた。
扉が開くと同時に、腐臭と甘い香りが混じった吐き気を催すような臭いが襲いかかる。それは、腐った果実と血と、そして絶望の匂いだった。
部屋の中央に聳え立つのは、直径10メートルはある巨大な黒い樹木。
その幹は人間の骨で構成され、無数の顔が苦悶の表情を浮かべたまま埋め込まれている。顔は全て生きているかのように、口を開閉し、無音の叫びを上げ続けている。
枝からは触手のような蔓が垂れ下がり、その先端には培養槽に入った精神体が、まるで禍々しい果実のようにぶら下がっていた。
培養槽の中の人々は、目を開けたまま、永遠の苦痛の表情を浮かべている。
そして、樹木の根元には——
『ようこそ、我が餌たちよ』
飢餓の主——コレクターが、その異形の姿を現した。
顔のない頭部、無数の触手で構成された体、そして体中に埋め込まれた人間の顔。それぞれが異なる時代の、異なる絶望を永遠に叫び続けている。
体の大きさは5メートルを超え、触手の一本一本に目がついている。その目は全て、四人を凝視していた。
部屋に充満する腐臭と絶望の匂いが、四人の鼻腔を襲う。それは死体の臭いよりも遥かに禍々しく、魂そのものが腐敗したような耐え難い悪臭だった。
「うっ...」
翔太が吐き気を催し、膝をつく。胃液が込み上げ、口の中に苦い味が広がる。
『藤原翔太、君をずっと待っていた』
飢餓の主の声は、千の亡霊が同時に囁くような不協和音。鼓膜を直接震わせ、脳髄に響く。
『20万人の承認を求める、その純粋な欲望』 『3日間かけて熟成させた、極上の絶望』 『もうすぐ、最高の収穫ができる』
コレクターの触手が伸び、翔太を捕らえようとする。
触手は黒く、表面にはヌルヌルとした粘液が付着している。その粘液に触れた床が、ジュッと音を立てて溶ける。
翔太の体が、見えない力に引き寄せられ始めた。
足が勝手に前に進み、意志に反して体が動く。まるで、強力な磁石に引き寄せられる鉄のように。
「やめろ!」
美久が陽の光を放つ。金色の光線が飢餓の主に向かって飛ぶ。
しかし、触手の壁に阻まれ、逆に光が吸収されていく。
『無駄だ。私は1000年分の絶望で構成されている』 『君たちの希望など、大海の一滴に過ぎない』
コレクターの体から、黒い瘴気が立ち上る。
それは部屋全体に広がり、四人を包み込もうとする。




