第70話 絶望の門番との戦い
悠真の影から、無数の猫の形をした黒い獣たちが飛び出し、四人に襲いかかった。それは彼が調査の過程で見てきた、恐怖そのものが実体化したものだった。
「ルナちゃん、翔太さんをお願い!」
美久が光の壁を展開し、獣たちの攻撃を防ぐ。
「はい!」 ルナが月の魔法で翔太の周囲に結界を張った。
「悠真さん!目を覚ましてください!」
ユイが必死に呼びかけるが、悠真には届かない。
「目を覚ますのは君たちの方だ!」
悠真の動きは人間を超えていた。壁を走り、天井に張り付き、予測不能な角度から攻撃を仕掛けてくる。
翔太は結界の中から叫んだ。
「篠田さん!あんたの記録、俺は見た!あんたはただの犠牲者じゃない!最後まで真実を伝えようとしていたじゃないか!」
その言葉に、悠真の動きが一瞬止まる。
「記録...?」
「そうだ!あんたのブログも、動画も、全部!あんたは、誰かを救いたかったんじゃないのか!?」
「うるさい...うるさい、うるさい!」
悠真が頭を抱えて絶叫する。彼の体からさらに濃い瘴気が溢れ出し、コレクターの力が彼を完全に支配しようとしていた。
「今です!」 ユイが叫んだ。 「彼の心が揺らいでる!」
美久とルナは頷き合うと、三人は手を繋いだ。彼女たちの目的は悠真を倒すことではない。彼の魂を、絶望の呪縛から解放することだ。
「合体技『永遠の絆』!」
それは攻撃の光ではない。浄化と癒し、そして共感の光だった。虹色の光が悠真を優しく包み込む。
「ぐ...あああああ...」
悠真の体から、黒い瘴気が煙のように抜けていく。異形化していた体も、徐々に元の人間の姿に戻っていく。
「思い...出した...」
彼は膝から崩れ落ちた。黒かった瞳に、人間らしい光が戻る。
「僕は...ただ、真実が知りたかっただけなんだ...」
涙を流す悠真の体が、足元から透き通り始めた。魂喰いの環との繋がりが断たれたことで、彼の存在そのものが消えかかっているのだ。
「みんな...ありがとう...」
彼は最後の力を振り絞って、中枢制御室の扉を指差した。
「コレクターは...僕と同じ...ただの...寂しい子供なんだ...戦うんじゃない...話を聞いてあげて...」
そう言い残し、篠田悠真の体は光の粒子となって、静かに消えていった。後には、彼が大切にしていたであろう、古びた一台のカメラだけが残されていた。
四人はそのカメラを拾い上げ、固く頷き合うと、コレクターが待つ最後の扉を開けた。




