第68話 魂喰いの環、最終局面への突入
地下施設最奥部 中枢制御室への廊下 深夜2時
四人の足音が、薄暗い廊下に不気味に響く。
壁から滲み出る黒い液体が、まるで生き物のように蠢き、腐敗した肉の臭いが鼻を突く。液体は粘性が高く、触れると皮膚が焼けるような痛みを感じる。空気は重く、呼吸するたびに肺が締め付けられるような感覚に襲われる。
廊下の照明は点滅を繰り返し、影が不規則に踊る。天井からは何かが垂れ下がっているが、それが配線なのか、それとも別の何かなのか、暗くて判別できない。
『警告:素材収穫まで残り15分』 『藤原翔太:魂の成熟度99%』 『最終段階移行準備完了』
機械的な音声が頭蓋骨に直接響くように鳴り響き、翔太の顔から血の気が引いた。手が震え、額には脂汗が浮かぶ。呼吸が浅くなり、心臓が早鐘を打つ。
「もう時間がない...」
翔太の声が震える。喉がカラカラに乾き、言葉を発するのも苦しい。3日間の飢餓の影響で、立っているのがやっとの状態。
「大丈夫です」
ユイが小さな体で翔太の足元に寄り添った。柔らかい黒い毛皮の感触が、わずかに翔太の緊張を和らげる。
「私たちが必ず止めます」
しかし、ユイ自身も恐怖を感じていた。翻訳能力が、この先に待つ存在の邪悪さを感じ取っている。
廊下の奥から、地鳴りのような音が響いてきた。
ドン...ドン...ドン...
それは巨大な心臓の鼓動のようでもあり、何千もの亡者の呻き声のようでもあった。音が近づくたびに、壁の黒い液体が脈動する。
美久のアミュレットが激しく脈動し、熱を帯びる。金色の光が明滅し、警告を発している。
「この先に...とてつもなく邪悪な存在がいます」
彼女の肌に鳥肌が立ち、背筋を氷のような悪寒が走った。1000年前の記憶が、断片的に蘇る。
ルナの月の魔法が、空気中の魔力濃度を感知する。銀色の光が数値を表示する。
「通常の1000倍以上の負のエネルギーです」
銀色の光が彼女を守るように包むが、それでも圧倒的な邪気に押し潰されそうになる。
「みんな、手を繋いで」
美久が提案する。
「一人では、この邪気に飲み込まれてしまう」
四人は手を繋いだ。人間の手、猫の前足、猫人間の手、そして震える配信者の手。
温もりが伝わり、恐怖が少し和らぐ。
廊下の先に、巨大な扉が見えてきた。
黒い鉄でできた扉には、無数の顔が彫刻されている。苦悶の表情を浮かべた顔、顔、顔。
そして、扉の中央には文字が刻まれていた。
『歓迎 最後の晩餐へ』




