第65話 ユイの単独潜入と翔太との遭遇
地下通路から廃校舎へ
ユイは翔太の絶叫を聞いて、全速力で走った。
小さな猫の体だが、その速度は驚異的だった。壁を蹴り、天井を這い、最短距離で廃校舎へ向かう。
地下通路から地上へ抜ける隙間を見つけ、体を押し込む。狭い通気口を通り、壁の隙間を抜け、ついに廃校舎にたどり着いた。
理科室で、翔太が子供たちに捕まっているのを発見した。
黒い蔓に絡まれ、今にも意識を失いそうになっている。
「やめて!」
ユイが叫ぶ。小さな体から、想像を超える大きな声が響く。
子供たちが振り返った。
「あ、デザートが自分から来た」
「黒猫、美味しそう」
「でも、小さいから、みんなで分けよう」
「私は食べ物じゃない!」
ユイが翻訳能力を戦闘用に転換した。
子供たちの心の奥底にある、かすかな人間性を呼び覚まそうとする。
『みんな、思い出して』
『あなたたちも、かつては普通の子供だった』
『家族がいて、友達がいて、夢があった』
『お母さんの温もり、お父さんの優しさ』
『楽しかった日々を、思い出して』
周平の動きが一瞬止まった。
瞳の緑色の光が、僅かに薄れる。
「家族...?」
記憶の断片が、蘇り始める。
『お母さん...僕を探してた...』
『300年前...まだ覚えてる...』
その隙に、ユイは翔太の蔓を噛み切った。
小さな牙だが、必死の力で噛み続ける。黒い液体が口の中に広がり、苦い味がする。それでも噛み続ける。
プツン!
蔓が切れ、翔太が解放される。
「逃げて!」
翔太とユイは、理科室から脱出した。
しかし、すぐに子供たちが我に返る。
「逃がさない!」
「ごはんが逃げる!」
追いかけっこが始まった。
廃校舎の中を、必死に逃げ回る。




