第58話 真の祢古町
真の祢古町 廃墟の入り口 深夜
扉を開けた瞬間、想像を絶する光景が四人の目に飛び込んできた。
地下に広がる廃墟の町は、朽ち果てた建物が延々と続き、割れた窓ガラスが僅かな光を乱反射させている。空気は重く、カビと腐敗の匂いが鼻を突く。そして、どこからか聞こえる水の滴る音が、不気味なリズムを刻んでいた。
街灯の残骸が、まるで墓標のように立ち並び、錆びついた看板が風もないのにギィギィと揺れている。足元には瓦礫が散乱し、一歩踏み出すたびにガラスの破片を踏む音が響く。
「これが...真の祢古町」
美久が息を呑んだ。声が震え、アミュレットが不安そうに明滅している。
しかし、その時、ナイルが突然苦しみ始めた。
「うっ...私のハーモニー・コアが...」
ナイルの体から、エネルギーが強制的に吸い出されていく。それは目に見える光の帯となって、廃墟の奥へと流れていった。虹色の光が、まるで生き物のように蠢きながら、闇の中へ吸い込まれていく。
体が痙攣し、膝が崩れ落ちる。顔面蒼白になり、額には脂汗が浮かぶ。
「これ以上ここにいると、私自身が魂喰いの環の一部になってしまう」
ナイルの瞳が一瞬、完全な虚無に染まった。黒い穴のような瞳が、三人を見つめる。
「もうダメだ...私の意識が...乗っ取られる...」
声が変わり始める。ナイルの声に、別の何かが混じる。子供のような、老人のような、性別も年齢も分からない声。
『ナイル...おいで...』
『こっちは...たのしいよ...』
『みんな...いっしょ...』
「ナイル様!」
美久が陽の巫女の力を発動させた。金色の光がナイルを包み込み、強制的に地上へと転送する。
アミュレットが激しく光り、空間が歪む。一瞬の閃光の後、ナイルの姿が消えた。
「これで彼は安全です。でも...」
美久が振り返る。
「私たちだけで進むしかないということですね」
ルナが厳しい表情で言った。月の杖を強く握りしめ、周囲を警戒する。
三人は覚悟を決めて、廃墟の奥へと進んでいった。
一歩進むごとに、空気が重くなり、呼吸が苦しくなる。まるで、見えない何かに押し潰されそうな圧迫感。




