第57話 真の祢古町への侵入
扉を開けた瞬間
重い石の扉が完全に開くと、想像を絶する光景が広がっていた。
地下に、もう一つの町が存在していた。
しかし、それは廃墟だった。
朽ち果てた建物、割れた窓、錆びた看板。瓦礫が道を塞ぎ、至る所に大きな穴が開いている。
まるで、核戦争の後のような荒廃した風景。
空気は重く、息をするのも苦しい。腐敗臭と、甘い香りと、そして何か金属的な臭いが混じり合っている。
しかし、完全に無人というわけではなかった。
建物の影から、緑色に光る無数の目がこちらを見つめている。
そして、声が聞こえる。
子供の声、大人の声、老人の声。全てが混じり合った、不協和音のような声。
『きた』
『ごはんが きた』
『1000ねん まってた』
『やっと おなかいっぱいに なれる』
ユイの翻訳能力が、恐ろしい真実を告げた。
「この存在たち...元は人間です」
「1000年前から、ここに閉じ込められて」
「感情を食べることでしか、生きられなくなった人たち」
美久が震えた。
「なんて...なんて恐ろしい」
その時、廃墟の奥から、一人の人影が現れた。
若い男性のようだが、顔は見えない。暗闇に隠れて、輪郭だけがぼんやりと見える。
ただ、手にはカメラを持っていた。現代的なデジタルカメラ。
「やっと...やっと誰か来てくれた」
男性の声は、絶望に満ちていた。涙で濡れているような、震え声。
「助けて...ここから出して...」
「もう3日も...食べ物も水もない...」
「死にたくない...」
三人とナイルは顔を見合わせた。
この男性は、明らかに最近ここに迷い込んだ人間だ。
「あなたは、誰?」
美久が尋ねると、男性が答えた。
「藤原...藤原翔太」
「ゴーストハンター系YouTuberの...」
「配信者です...」
その瞬間、周りの存在たちがざわめいた。
『あたらしい ごはん』
『フジワラ おいしそう』
『でも まだ じゅくしてない』
『もうすこし まとう』
翔太が震え上がる。
「この声...ずっと聞こえてるんです...」
「『お前は餌だ』って...」
「もう...精神が持たない...」
ユイが前に出た。
「大丈夫、私たちが助けます」
「でも、まず」
ユイは周りの存在たちに向かって叫んだ。
「みんな、聞いて!」
「私たちは、あなたたちを救いに来ました!」
「もう、飢える必要はありません!」
しかし、返ってきたのは嘲笑だった。
『うそつき』
『みんな そういって たべられた』
『おまえたちも ごはん』
『コレクターさまの ごちそう』
その時、地面が大きく震えた。
廃墟の中心から、巨大な何かが立ち上がってくる。
それは、建物よりも大きな、異形の存在だった。
「来た...」
ナイルが震え声で言った。
「コレクターが...目覚めた」




