第51話 深層への第一歩
地下通路 第一階層
通路は予想以上に深く、複雑だった。
石造りの壁は湿っていて、ところどころに黒いカビが生えている。天井からは水滴が落ち、ピチョン、ピチョンという音が響く。足元は滑りやすく、一歩間違えれば転倒しそうだ。
美久がアミュレットの光で道を照らす。金色の光が、暗闇を押し返していく。
壁には古い文字や絵が刻まれている。
「これは...」
美久が壁画を見て驚いた。
人間と猫族が、何かに「捧げ物」をしている絵。
その「何か」は、巨大な口のような形をしていた。口の中には、渦巻く闇があり、その奥に無数の目が光っている。
「まるで、生け贄の儀式」
ルナが青ざめる。
「しかも、自発的に捧げているように見える」
「まるで、それが当然のことのように」
さらに進むと、部屋のような空間があった。
石の机と椅子、そして古い本棚。埃にまみれているが、かつては誰かが生活していた場所のようだ。
そこには、古い日記帳が残されていた。
表紙は革製で、ところどころ破れている。恐る恐る開いてみると、子供の字で書かれていた。
『せんせいが いった』
『いいこは たべられないって』
『だから ぼくは わるいこに なった』
『でも たべられた』
ユイが震えた。小さな体が、恐怖で震える。
「これ...子供の日記?」
「しかも、かなり昔の」
ページをめくると、さらに恐ろしいことが書かれていた。
『もう 300ねん』
『ずっと おなかすいてる』
『だれか ごはん ちょうだい』
『ともだちも たべちゃった』
『でも まだ おなかすいてる』
美久が口を押さえる。
「300年前から、ここに閉じ込められている子供がいる?」
ナイルが暗い表情で言った。
「いえ、もう子供ではない」
「300年も飢餓状態が続けば、人格も、魂も、全てが歪んでしまう」
「今では、ただ『食べる』ことしか考えられない、哀れな存在に...」




