第48話 祭り後の異常事態
祭りの翌朝 祢古町全域 朝6時
朝靄が町を包む中、異様な静寂が支配していた。
いつもなら早朝から商店の準備音や、新聞配達のバイクの音が聞こえるはずなのに、今朝は不気味なほど静かだった。鳥のさえずりさえ聞こえない。まるで、町全体が深い眠りに落ちているかのよう。
美久は不安に駆られて、朝一番に町を見回っていた。足音だけが、静寂な町に響く。
「おかしいわ」
各家を訪ねて回るが、誰も出てこない。ドアをノックしても、呼び鈴を鳴らしても、返事がない。
恐る恐る、鍵の開いていた佐藤会長の家に入ってみると、住民たちは全員、深い眠りについていた。
佐藤会長は居間のソファで、山田さんは台所の椅子で、まるで突然意識を失ったかのように眠っている。起こそうとしても、なかなか目を覚まさない。体を揺すっても、頬を叩いても、反応がない。
「これは通常の疲労ではありません」
ルナが診断する。手をかざして月の魔法で調べると、青白い光が住民たちの体を包む。
「精神エネルギーが著しく低下しています」
「まるで、魂の一部が抜き取られたような状態」
ようやく目を覚ました住民たちも、様子がおかしかった。
佐藤会長が、ぼんやりとした表情で呟く。
「昨日...何かあったっけ?」
「祭り?ああ、そういえば...」
山田さんも混乱している。
「楽しかったような...でも思い出せない」
「写真を撮ったはずなのに、カメラの中身が空っぽ...」
記憶が曖昧になっているだけでなく、大切な記憶まで失われ始めていた。
高橋さんが青ざめた顔で言う。
「妻の名前が...出てこない」
鈴木青年団長も震え声で。
「息子の顔が...ぼやけて見える」
「昨日まで普通だったのに...」
ユイが翻訳能力で住民たちの心を読むと、恐ろしい事実が判明した。
彼らの心の中に、巨大な「穴」が開いている。感情や記憶が保存されているはずの場所に、ぽっかりと空洞ができている。そして、その穴の奥から、微かに子供の笑い声が聞こえてくる。
『ごちそうさまでした』
『とってもおいしかった』
『もっとたべたい』




