アイドルと目が合うのは錯覚です
次の日。
カフェで忙しくしていると、出陣の鐘が鳴った。人々は当然のように大通りに集まる。私とアリスさんも、当然のように仕事を放り出して外へ出た。
「この土地も首都なのに物騒だよね」
隣でアリスさんがぼやく。
「スリースターズ率いる軍が守ってくれるから、私たちもちゃんと応援しなきゃね」
「そうですね!」
そう話している間にも進軍が始まる。悲鳴とともに、遠くから隊列が現れる。先日と同じように、最前列には各団団長。そして、その後に団員が続く。
今度こそお兄を探そうと思ったのに、私の瞳はやはりスタニスラスに釘付けになってしまう。スタニスラスは周りを見もせず、伏目がちに下を見ている。その姿はやはり神々しいが……
「スタニスラス、病んでるのかな」
アリスさんがひそひそと私に告げる。
「いつも以上に見られたくない、俺に関わるなオーラ満載だよ」
「疲れてるのでしょうか? 」
(そうだよね。連日の勤務で絶対に疲れている。お兄だってへとへとだったもん。
スリースターズ、とりわけスタニスラスを元気付けるために、私に出来ることはないだろうか)
必死に考えて、ふと思いついた。前世では、ライブの時などに推しを応援する、『応援グッズ』があったのだ。応援グッズを広めれば、スタニスラスも元気を取り戻すかもしれない。
推しが精神的に弱っていると、ファンも辛いのだから。
それから私は、店の仕事を片手間に、凄まじい勢いで応援グッズを作った。もちろん、前世の知識を総動員だ。
無数の魔法陣で料理を作り、さらにハサミで切ったり糊で貼ったり。そんな私を、へとへとになりながらアリスさんは驚いて見ている。
「エルザ、どこでそんな魔法を習ったの!? 」
私はいつもの勢いで仕事をしていたが、ふとスタンの言葉を思い出した。私の魔法の能力は、どうやら高いらしい。
「アリスさん。私の魔法のことは、黙っていてくださいね」
苦笑いして彼女に告げる。
「魔術師団から変な勧誘が来ても困るから!」
そんな私に、アリスさんは肩で息をしながら聞いた。
「えっ!? エルザ、魔術師団に入りたくないの?
入ったら、ダミアンはもちろんスタニスラスにも会えるかもしれないよ? 」
「ううん、会いたくないんです」
ぽつりと溢した。
「推しは遠くから見ているのが、一番いいんです」
皆は私を理解出来ないだろうが、私は前世の記憶を持つ。前世では、推しを苦しめてまで応援することは禁忌だった。だからこれが、私の信念だ。
そんなわけで、とうとう完成した応援グッズ。
青色の狼、赤色の獅子、黄色の虎を描いたうちわに、キラキラのビーズを付ける。ビーズは込められた魔力により、それぞれのテーマカラーに輝く。
ライブの時に振るペンライトも準備した。これももちろん魔力で光る。
その他、光るヘアゴムやアクセサリー。光る狼、獅子、虎の耳グッズまで。
これらの応援グッズは瞬く間に売れ、いつの間にか街中はピカピカ光る応援グッズで溢れていた。そして、カフェには応援グッズを求めて長蛇の列が出来ている。
「ここはカフェなのに!商売上がったりよ!」
なんて言いながらも、アリスさんは上機嫌だ。そんなアリスさんやファンたちの期待に応えられるよう、私は全力でグッズを作り続けた。
◆◆◆◆◆
二日後。
朝から街は三色に光り輝いていた。人々は自分の推しのアイテムを持っているが、勢力は拮抗していた。それだけ、スリースターズの三人は人気が高いということだ。
『Alice’s cafe』は、今やファンショップとして有名になってしまったらしい。もちろんカフェが本業で、土産程度にファングッズを売っているのだが……
だから、カフェにはスリースターズの動向がいち早く入るようになっていた。
朝早くカフェに駆け込んできた女性が、頬を染めて言う。
「軍が魔物退治を終え、もうすぐ帰ってくるんだって!」
「「なんですって!? 」」
アリスさんと私は口々に叫び、応援グッズを手に外へ飛び出した。
大通りはすでに大勢の人で賑わっており、その多くが光る応援グッズを持っている。
「これで、スタニスラス様も元気が出るかなぁ」
なんてぼやいた時だった。
遠くから歩いてくる三人の人影が見えた。
ダークレッドのローブの魔術師団長ダミアンに、白い法衣姿の大神官ロラン、そして、ブルーグレーの騎士服にマントを翻すスタニスラス。
「よりにもよって、三人揃ってお出ましだね!」
アリスさんがはしゃぐ。というのも、行きの進軍こそあるが、帰りは各々の都合で帰ってきているようだ。怪我人だっているだろうし、後片付けもあるに違いない。だから、このスリーショットを見られるのは幸運なのだ。
輝く応援グッズを持つ人々を見て、ダミアンとロランは驚いている。ダミアンは赤色の光りを放つ人に向けて笑顔で手を振り、ロランは黄色の光へ手を挙げる。完璧なファン対応だ。
(やっぱりこの人たち、アイドルだわ)
だが、スタニスラスは……スタニスラスは相変わらず無表情だ。
(こういうクールなところがツボなのよ)
ダミアンとロランが神対応をするから、赤と黄色担当の人は盛り上がっていた。それに比べ、普段と変わらない青担当は盛り下がっている。ここは青担当として士気を高めないと!!
変な使命感に燃えた私は、周りと同様、いや、それ以上にペンライトを振り回した。おまけに、青色に光る狼の耳を装着している。
私の大袈裟な動きが視界に入ったのか、とうとうスタニスラスが視線を上げた。青担当がざわめく。そして私はドキッとする。
(決して、認知されようとは思ってない!
私はただ、周りの青担当の士気を高めたくて……)
だけど、時すでに遅し。スタニスラスはその綺麗な瞳でこっちを見たのだ。
(ひぇーーッ!! )
真っ赤になってしまう私。慌てて人の陰に隠れようとしたが……
スタニスラスは、こっちを見て、微かに微笑んだ気がした。そしてその微笑みに、皆が……そう、赤担当も黄担当も悲鳴をあげる。
「す、スタニスラス様が優しい顔をしたーーッ!? 」
「ええっ!? 今、笑ったの!? 」
だけど私は、胸がドキドキして腰を抜かしている。もう、スタニスラスの姿すら見えない。
(目が合うのは錯覚。目が合うのは錯覚)
ずっと呪文のように心の中で唱えていた。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。
気に入っていただけたら、ブックマークと評価をしていただけると嬉しいです!
とても励みになっています!!




