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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第一章

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友人はアイドルと知り合いらしい

 スタンと街を出ると、外にはまた人だかりが出来ている。その中央に、ダークレッドのローブを着た人々が集まっていた。


 (次は情熱の赤獅子ダミアン率いる魔術師団だね)


 ファンとしてうきうきする。そして、お兄がいないかと目を凝らした時……


「お兄がいた!」


 私は思わず叫び、人ごみを掻き分けて前列に出る。そして、


「お兄!! 」


叫んでいた。


 よく知っているお兄なら、反応してくれるだろう。その『茶虫のフィリップ様』を拝んでやろうとの気持ちでいっぱいだった。


 お調子者のお兄は当然、嬉しそうに私に手をあげる。赤ローブ姿のちゃんとしているお兄も、なかなかかっこいい。だが、その隣にダミアンがいて……ダミアンはじっと私を見ていて……


「知り合いか? 」


 お兄に聞く。お兄は頷きながら答える。


「俺の妹。僻地からこっちにやって来た」


「!!!?」


 衝撃を受ける私。お兄は魔術師団長ダミアンの隣に平然と立っていられるの!? そして、ダミアンとあんなにもフレンドリーに話すの!?


 それとともに、もう一つ衝撃を受ける。


 (だ……ダミアンに見られてる……

 認知されたってこと!? )


 アイドルには近付けないはずだった。アイドルと目が合うのは、ファンの思いすごしだ。だが、ダミアンは私を見て、お兄の妹だと認知している。その事実に震えた。


 

 ダミアンはしばらく私を見て、何か口を開く。だが、周りの悲鳴にかき消され、何を言っているのか分からない。そして、思った。


 (終わったな、私)


 認知されたから、周りのファンからの嫉妬を買うだろう。前世でも、ファンの嫉妬は凄まじいものだった。私はダミアン推しではないのだが、周りからは誤解されているだろうか。でも、スタニスラスに認知されたら、私は恥ずかしくてお姿を拝見出来ない……




 私の妄想は、


「スタン!」


なんと、ダミアンが彼を呼ぶ声でかき消される。


 (スタン、ダミアンと知り合いなの!? )


 咄嗟に振り返ると、スタンは真っ青に青ざめていた。そしておもむろに私の手をぎゅっと握って走り始める。


 (スタン、どうしちゃったの!? )


 だが、スタンが焦りに焦っているため、されるがままに走るしかなかった。

 走る間も、後ろからダミアンの声が降ってくる。


「おい、スタン!逃げるな!!

 あとでゆっくり聞かせてもらうからな!!」





 どれだけ走ったのだろう。いくら弱々しいスタンといえど、鍛えている騎士だ。体力の限界が近付き、


「スタン……もうだめ……」


足がもつれて転びそうになる。こんな私を、スタンはふわりと抱きとめてくれる。そして罰が悪そうな顔で私を覗き込んだ。


「エルザ、ごめん」


 スタンはまるで子犬のようにしゅんとしているが、太陽が後ろから照り付け、その茶色い髪がきらりと光る。スタンの整った顔が近過ぎて、不覚にも真っ赤になってしまった。

 そんなスタンは疲れている様子は微塵もなく、彼が立派な大人の男性だと再認識してしまう。


 (駄目だ駄目だ。スタンは友達なのに!)


 スタンはそっと私の体を離し、しゅんとした上目遣いで言う。


「ごめんね。女の子を全力疾走させるなんて、僕、どうにかしてる」


「そんなことないよ」


 私は満面の笑みで彼を見た。

 スタンは明らかに、ダミアンと知り合いであることを隠したがっていた。それは私がスリースターズを崇拝しているからだろう。

 スタンを安心させたい一心の私は言う。


「スタンは騎士だもんね。ダミアン様や、スタニスラス様と面識があるのも当然だよね?」


「あのね、エルザ……」


 スタンは泣きそうな顔で私を見る。そして、決心したように大きく息を吸い込んだ。


「エルザ。僕、実は……」



 

 ドンッ!!



 体に大きな衝撃が走った。そして私は後ろに倒れ、尻もちをついている。


「いたたたたた……」


 思わず声を上げ、お尻に手を当てながら目を開けると……スタンの姿がない。どうしてしまったのだろう。きょろきょろと周囲を見回すと、黒ずくめの怪しい男性が走り去っていくのが見える。


 (何が起こったのだろう……)


 ぼーっとその男性を見ていると、


「えっ、エルザ……大丈夫だった? 」


なんと、目の前の噴水のある池から、スタンが這い上がってくるではないか。その服も、茶色い髪も、びしょびしょに濡れている。


「すっ、スタン!? どうしたの!? 」


 すると彼は、私の姿を認めてホッとした顔をする。


「今、この街の治安は悪化していてね。スリなんかも多発しているんだよ。

 あの男はエルザの鞄を狙っていたからとっさに防御したんだけど、油断してたから突き飛ばされちゃった」


「えっ!? 」


 想定外の話だった。あの一瞬で、スタンはどうやって防御力したのだろう。しかも、何がどうなって池に落ちたのだろう。私なんて、ただ尻もちをついて終わっただけなのに。

 いずれにせよ、スタンが私を守ってくれたことは確かだった。そして、体を張らせてしまったことに申し訳なさを感じる。




 私はスタンに向かって手を広げ、左右に魔法陣を描く。火と風の魔法陣が光り、熱風が飛び出した。それは瞬時にスタンの服や髪を乾かす。


「……え!? 」


 ぽかーんとしているスタンに、笑顔で告げた。


「私、少しだけ魔法が使えるの。

 助けてくれて、ありがとう」


 スタンはしばらく放心状態だった。私が魔法を使えることが、そんなにも意外だったのだろうか。


 (そうだよね。人前ではあまりやらないようにしているから)


「もしもーし!! 」


 放心状態のスタンを小さく叩いてみたりすると、スタンはようやく放心状態のまま口を開いた。


「え、エルザって、何種類の魔法を使えるの? 」


「え!? 」


「今のは火と風だよね? この前テイクアウトをした時も、風の魔法を使っていたよね? 」


 (あぁ、スタンの荷物が重そうで助けたときね。

 気付いていたんだ)


 だが、それが珍しいとは到底思えない。昔からお兄と二人で暮らしてきた私にとって、魔法があるのはごく普通の生活だ。


「えーと……火と水と、風と草と雷と……五種類かな? 」


 笑顔で答える私の前で、


「ぇぇぇええええええ!? 」


まるで地響きが起きそうなほど驚くスタン。そんなびっくりな顔をすると、綺麗な顔が台無しだ。


「ごっ、五種類!?

 僕は水属性魔法しか使えないよ!?

 五種類全ての属性なんて、ダミアンでも使えないよ!? 」


 そう言って、慌てて口を塞ぐ。どうやらダミアンの話はしたくないらしい。だから私は、気になりつつもダミアンの話をスルーする。


「僻地から都会に来たから、普通なのかと思ってた」


「ふ、普通じゃないよ、全然」


 それで合点がいった。私の繰り出す魔法を見て、アリスさんのあの驚き様といったら。私の魔法の能力は、実は高いのかもしれない。だが、それを見せびらかすのはやめようと思う。ダミアンに興味を持たれては困るし、何より平穏に過ごしたいからだ。

 ファンの敵は、ファン、だ。



いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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