友人はアイドルと知り合いらしい
スタンと街を出ると、外にはまた人だかりが出来ている。その中央に、ダークレッドのローブを着た人々が集まっていた。
(次は情熱の赤獅子ダミアン率いる魔術師団だね)
ファンとしてうきうきする。そして、お兄がいないかと目を凝らした時……
「お兄がいた!」
私は思わず叫び、人ごみを掻き分けて前列に出る。そして、
「お兄!! 」
叫んでいた。
よく知っているお兄なら、反応してくれるだろう。その『茶虫のフィリップ様』を拝んでやろうとの気持ちでいっぱいだった。
お調子者のお兄は当然、嬉しそうに私に手をあげる。赤ローブ姿のちゃんとしているお兄も、なかなかかっこいい。だが、その隣にダミアンがいて……ダミアンはじっと私を見ていて……
「知り合いか? 」
お兄に聞く。お兄は頷きながら答える。
「俺の妹。僻地からこっちにやって来た」
「!!!?」
衝撃を受ける私。お兄は魔術師団長ダミアンの隣に平然と立っていられるの!? そして、ダミアンとあんなにもフレンドリーに話すの!?
それとともに、もう一つ衝撃を受ける。
(だ……ダミアンに見られてる……
認知されたってこと!? )
アイドルには近付けないはずだった。アイドルと目が合うのは、ファンの思いすごしだ。だが、ダミアンは私を見て、お兄の妹だと認知している。その事実に震えた。
ダミアンはしばらく私を見て、何か口を開く。だが、周りの悲鳴にかき消され、何を言っているのか分からない。そして、思った。
(終わったな、私)
認知されたから、周りのファンからの嫉妬を買うだろう。前世でも、ファンの嫉妬は凄まじいものだった。私はダミアン推しではないのだが、周りからは誤解されているだろうか。でも、スタニスラスに認知されたら、私は恥ずかしくてお姿を拝見出来ない……
私の妄想は、
「スタン!」
なんと、ダミアンが彼を呼ぶ声でかき消される。
(スタン、ダミアンと知り合いなの!? )
咄嗟に振り返ると、スタンは真っ青に青ざめていた。そしておもむろに私の手をぎゅっと握って走り始める。
(スタン、どうしちゃったの!? )
だが、スタンが焦りに焦っているため、されるがままに走るしかなかった。
走る間も、後ろからダミアンの声が降ってくる。
「おい、スタン!逃げるな!!
あとでゆっくり聞かせてもらうからな!!」
どれだけ走ったのだろう。いくら弱々しいスタンといえど、鍛えている騎士だ。体力の限界が近付き、
「スタン……もうだめ……」
足がもつれて転びそうになる。こんな私を、スタンはふわりと抱きとめてくれる。そして罰が悪そうな顔で私を覗き込んだ。
「エルザ、ごめん」
スタンはまるで子犬のようにしゅんとしているが、太陽が後ろから照り付け、その茶色い髪がきらりと光る。スタンの整った顔が近過ぎて、不覚にも真っ赤になってしまった。
そんなスタンは疲れている様子は微塵もなく、彼が立派な大人の男性だと再認識してしまう。
(駄目だ駄目だ。スタンは友達なのに!)
スタンはそっと私の体を離し、しゅんとした上目遣いで言う。
「ごめんね。女の子を全力疾走させるなんて、僕、どうにかしてる」
「そんなことないよ」
私は満面の笑みで彼を見た。
スタンは明らかに、ダミアンと知り合いであることを隠したがっていた。それは私がスリースターズを崇拝しているからだろう。
スタンを安心させたい一心の私は言う。
「スタンは騎士だもんね。ダミアン様や、スタニスラス様と面識があるのも当然だよね?」
「あのね、エルザ……」
スタンは泣きそうな顔で私を見る。そして、決心したように大きく息を吸い込んだ。
「エルザ。僕、実は……」
ドンッ!!
体に大きな衝撃が走った。そして私は後ろに倒れ、尻もちをついている。
「いたたたたた……」
思わず声を上げ、お尻に手を当てながら目を開けると……スタンの姿がない。どうしてしまったのだろう。きょろきょろと周囲を見回すと、黒ずくめの怪しい男性が走り去っていくのが見える。
(何が起こったのだろう……)
ぼーっとその男性を見ていると、
「えっ、エルザ……大丈夫だった? 」
なんと、目の前の噴水のある池から、スタンが這い上がってくるではないか。その服も、茶色い髪も、びしょびしょに濡れている。
「すっ、スタン!? どうしたの!? 」
すると彼は、私の姿を認めてホッとした顔をする。
「今、この街の治安は悪化していてね。スリなんかも多発しているんだよ。
あの男はエルザの鞄を狙っていたからとっさに防御したんだけど、油断してたから突き飛ばされちゃった」
「えっ!? 」
想定外の話だった。あの一瞬で、スタンはどうやって防御力したのだろう。しかも、何がどうなって池に落ちたのだろう。私なんて、ただ尻もちをついて終わっただけなのに。
いずれにせよ、スタンが私を守ってくれたことは確かだった。そして、体を張らせてしまったことに申し訳なさを感じる。
私はスタンに向かって手を広げ、左右に魔法陣を描く。火と風の魔法陣が光り、熱風が飛び出した。それは瞬時にスタンの服や髪を乾かす。
「……え!? 」
ぽかーんとしているスタンに、笑顔で告げた。
「私、少しだけ魔法が使えるの。
助けてくれて、ありがとう」
スタンはしばらく放心状態だった。私が魔法を使えることが、そんなにも意外だったのだろうか。
(そうだよね。人前ではあまりやらないようにしているから)
「もしもーし!! 」
放心状態のスタンを小さく叩いてみたりすると、スタンはようやく放心状態のまま口を開いた。
「え、エルザって、何種類の魔法を使えるの? 」
「え!? 」
「今のは火と風だよね? この前テイクアウトをした時も、風の魔法を使っていたよね? 」
(あぁ、スタンの荷物が重そうで助けたときね。
気付いていたんだ)
だが、それが珍しいとは到底思えない。昔からお兄と二人で暮らしてきた私にとって、魔法があるのはごく普通の生活だ。
「えーと……火と水と、風と草と雷と……五種類かな? 」
笑顔で答える私の前で、
「ぇぇぇええええええ!? 」
まるで地響きが起きそうなほど驚くスタン。そんなびっくりな顔をすると、綺麗な顔が台無しだ。
「ごっ、五種類!?
僕は水属性魔法しか使えないよ!?
五種類全ての属性なんて、ダミアンでも使えないよ!? 」
そう言って、慌てて口を塞ぐ。どうやらダミアンの話はしたくないらしい。だから私は、気になりつつもダミアンの話をスルーする。
「僻地から都会に来たから、普通なのかと思ってた」
「ふ、普通じゃないよ、全然」
それで合点がいった。私の繰り出す魔法を見て、アリスさんのあの驚き様といったら。私の魔法の能力は、実は高いのかもしれない。だが、それを見せびらかすのはやめようと思う。ダミアンに興味を持たれては困るし、何より平穏に過ごしたいからだ。
ファンの敵は、ファン、だ。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




