友人に、推しについて熱く語る
気付くとお昼を回っていた。急激にお腹が空いていることに気付いた。だが、一緒にランチに行ける知り合いもいない。もちろん、スタンの職場も見つけていない。
(パンでも買って帰ろうかなぁ)
なんて思った時……
「エルザ!」
聞き覚えのある声がした。振り返ると、そこにはスタンが立っている。諦めたところだったが、まさかスタンに会えるだなんて。
「あっ、スタン!」
嬉しくなってスタンに駆け寄る。
「スタン、探したんだよ!? 」
「……え? 」
なんだかスタンは少し動揺している。だから私は告げた。
「今日、お店休みなの。でも、遊んでくれる友達もいなくって。同居しているお兄も仕事だし。
私、この街に越してきたばかりだからさぁ!」
スタンは少し考えてから、いつもの太陽みたいな笑顔で答えた。
「じゃあ、僕が街を案内してあげるよ」
「ほんと!? ありがとう!! 」
願ってもいない幸福だ。スタンがいてくれるから、とっても有意義な休日になりそうだ。
だが、ふと思った。彼にも生活があるだろう。私の街歩きに付き合わせてもいいのだろうか。
「スタンはお仕事とか、ないの? 」
聞くと、スタンは少し曇った顔をする。そしてまた笑顔で答えた。
「勤務明けでさ。ちょうど僕も暇になったんだよ」
「そうなの!? スタンって、どこで働いてるの? 」
ようやく聞けた私に、スタンはまた少し動揺した顔をする。あまり聞いてほしくないのだろうか。
「僕さ……実は騎士の仕事してて……」
「えーッ!? 騎士!? 」
予想外の仕事に驚きを隠せない。
スタンはほわっとしているし、強そうでもないし。強い騎士なんてものは、一番予想外の職業だ。
私はくすくす笑いながら言う。
「スタンって優しいし、騎士なんて出来るの? 」
「出来ないかもぉーっ」
スタンもくすくす笑う。
騎士ってもっと近付き難い人だと思っていた。そう、数時間前のスタニスラスのように。だが、スタンはとっても馴染みやすい。
「仕事中のスタンも見てみたいなあ」
思わず言うと、
「だ、駄目それは!! 」
スタンはとても焦っている。焦りすぎて挙動不審だ。そこまで見られたくないというのだろうか。
スタンは焦りに焦って、半ば裏返った声で伝える。
「ほ、ほら!騎士の仕事って舐められたらいけないから、ちゃんとしてろって先人の教えがあってさ……」
「あー!じゃあ私が気安く手を振ったり近寄っても、迷惑かけちゃうってわけね」
先ほどのかっこいい騎士たちを思い出し合点がいく私に、さらに焦るスタン。
「め、迷惑なんてそんなことないんだよ!!
僕だってエルザが良かったら手を振りたいし、昼休憩にオムライスとか買いに行きたいよぉー!! 」
そう言って頭を抱え込んでしまう。
騎士の仕事というのは、そんなにも公私混同してはいけないものだろうか。いずれにせよ、スタンを遠目から探し、陰ながら応援するしかないと思ってしまう。騎士服姿のスタンも、今の柔らかな雰囲気とは違うんだろうなぁ。
なんて考えた私は、ふと数時間前の出来事が頭に思い浮かび、唐突にスタンに聞いていた。
「スタンは、絶対零度の青狼、スタニスラス騎士団長と知り合いなの? 」
すると、スタンは驚くほど飛び上がる。まるで、魔法でも使ったのではないかというほどのジャンプ力だ。そして、震える声で弱々しく言う。
「な……なに?絶対零度って、なに? 」
「あぁ、スタニスラス騎士団長、怖いのね」
スタンも可哀想に。スタニスラスにこっぴどくこき使われているのだろう。想像して笑う私を見て、スタンはなんだかもじもじしている。
「あ……あのね……」
そして何か考えたあと、彼は少し震えながら私に聞いた。
「か……彼のこと、どう思ってるの? 」
「どうって……」
先ほどのかっこいい姿を思い出す。スタニスラスは稀に見る美形だし、騎士服姿もキマっている。だが、私みたいな小物に関わる存在でもない。私はファンとして、陰から応援するのみだ。
「推しだからね」
私の言葉に、
「推し!!? 」
素っ頓狂な声を上げる。それではっと気付いた。この世界には『アイドルオタク』なんて用語も、『推し』なんて用語もないのだ。だから私は、スタンに推しについて説明する。
「アイドルグループの中で、自分が推している人のことだよ。
私はスリースターズのなかで、スタニスラス様が一番好きかなぁ」
私の話を聞いて、スタンはその茶色い髪をぐしゃぐしゃに掻きむしる。私が騎士団長の推しということが分かり、下っ端の自分と比べているのかもしれない。だから、私は慌てて付け加えた。
「あっ、でも、私は馴染みやすいスタンのほうが好きよ?
スタニスラス様はかっこよすぎて目の保養っていうか……」
その言葉は、スタンにとって何の慰めにもなっていないらしい。さらに髪を掻きむしり、抜けてしまうのではないかと思うほどだ。
(スタンはそこまでスタニスラスに苦しめられているんだね)
なんだか哀れに思う。だが、スタニスラスのファンは辞められない。
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