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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第一章

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9/29

騎士の友人は強かった

 その日の昼。私はいつものように、ランチの時間帯で忙しくしていた。……といっても、片手間に料理をし、応援グッズ制作に燃えている。応援グッズを作りながらも、あのスタニスラスの表情を思い出してキュンとしている。こうやって、推しと妄想の恋愛を楽しむのが醍醐味だ。



 ふと店内を見ると、窓際の一人席に客が座ってるいるのが目についた。黒ずくめのその服装に、見覚えがある。


 (あの人、スタンを池に突き落とした人だわ)


 私はつかつかと彼に歩み寄り、声をかけた。


「すみません」


 すると彼は目深に被った黒い帽子の下から、ギロリと私を睨む。その眼力に怯みそうになったが、私も負けない。


 (スタンを池に落とすなんて、許さないんだから!)


「あなた、私の友人を襲いましたよね?

 どうしてそんなことをするのですか? 」


 すると、彼はすっと立ち上がり、人にぶつかりながら店の外へと走り出る。


「待ってください!飲食代も払ってくださいよ!! 」


 無賃飲食にもイラっとさせられ、私は店を放り出して彼を追いかけていた。




 私の魔法はすごいとはいえ、体力は人並みだ。大人の男性に敵うはずもない。男との距離がどんどん離れていき、焦った私は魔法陣を描いていた。


 私の描いた魔法陣からはツタが伸び、縄のように男を縛る。だが、男は持っていた短剣でツタを切り裂き、さらにもう一本の短剣を私に向かって投げた。

 その瞬間、新たな魔法陣を描く私。その速さ、一秒未満。魔法陣の前に大きな氷の盾が現れ、短剣をカンっと跳ね返す。


 (すごい!私、戦えるじゃん!! )


 有頂天になって、新たな魔法陣を描こうとした時だった。




 不意に背後からすごい力で押さえつけられ、両手にがちゃりと手錠をはめられる。


「両手さえ封印してしまえば、魔法は使えない」


 耳元で男性の低い声がし、後ろから蹴りを入れられる。当然防御出来ない私は、無様に地面に倒れていった。

 倒れながら悟った。どうやら、黒い男の仲間が現れたようだ。そして私は、絶体絶命だ。


 顔面を地面にぶつけ、鋭い痛みが走る。口の中も切れたようだ。だが、相手が容赦するはずもない。なんといっても、犯罪者なのだから。そのまま両手にはめられた手錠を持って引き摺られるが、手錠のせいで魔法陣も描けない。


「魔法さえ封じれば、ただの弱い女だ」


「どうする? 奴隷市場にでも売り捌くか? その前に、やっておく? 」


 その言葉にゾゾーッとした。


 (私が犯罪者に立ち向かうなんて、十年早かったんだ。

 私、どうなってしまうのだろう)


「スタン!! 」


 思い浮かんだ、彼の名を呼んだ。

 なぜスタニスラスではなく、彼を呼ぶのか分からなかった。


 胸元の形見のペンダントが、ふわっと青く輝いた気がした……ーーー





「エルザ!! 」


 大好きなその声が聞こえた気がした。だが、その声はいつものふわっとした感じではなく、酷く鋭かった。

 

 私を掴んでいた男の手が離れたと思うと、近くでドサっと何かが倒れる音がする。そして続く打撃音。すぐにまた、ドサっという音と、男の悲鳴。


 (どうしちゃったの!? )


 恐る恐る顔を上げると、目の前に黒尽くめの男が倒れている。そしてその奥には……


「う、うわぁ!! この男、化け物だ!! 」


 かざしている男の短剣を、もう一人の男性が握った。そして彼は血を滴り落としながら、その短剣をぐにゃっとへし折る。茶色の髪が、ふわっと揺れた。


「スタン……」


 彼の名を呼ぶと、安堵と恐怖が襲ってくる。私は身を震わせ、涙を流していた。


「エルザ……」


 スタンはいつもの優しい声で私を呼ぶ。そして、耳元でそっと囁く。


「もう大丈夫だよ」


「でも……スタンの手……」


 スタンの手はざくっと切れ、まだ血が流れている。その血が私につかないよう、スタンは逆の手でそっと私の体を抱きしめる。


「エルザが気にすることはないよ。こんなの、日常茶飯事だから」


「そっか。……スタンは騎士だったもんね」


 その体で抱きしめられると、守られている気分になる。まだまだ怖いが、少しずつ安心してくる。そして、ようやく告げた。


「スタン、ありがとう」


 スタンは安心したように、私の頭に頬を寄せる。その体温が心地よくて、香りにくらっとして……ようやく実感した。


 (私、スタンが好きなんだ)


 普段なら、恥ずかしくてこんなにスタンにくっつくことは出来ない。だけど、今だけはくっつかせて。こうして、甘い夢を見させて……ーーー





 どのくらいそうしていたのだろう。


「あのー……」


 遠慮がちに聞こえる声にはっとした。それはスタンも同様だ。

 彼はさっと私の体を離し、上を見る。すると、そこには数人の騎士が立っていた。


「ロラン様を呼んできましょうか?

 それとも、近くにいる神官を招集しましょうか? 」


「ろ、ロラン!? 」


 思わず素っ頓狂な声を上げた私を見て、スタンはびくっとする。そして、いつもより随分落ち着いてトーンダウンした声で告げた。


「いや、いい。こんなの、擦り傷だから」


 (いや、どう見ても擦り傷ではないでしょう!! )


 それにしても、この騎士たちはスタンを敬っているのだろうか。スタンのほうが立場が上なのだろうか。そして、スタンは大神官ロランを招集する権利があるのだろうか。


 私は、いつも通りのスタンをまじまじと眺めていた。




いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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