両親の愛と、彼の愛
広いスタンの部屋。整ったクローゼットに、広いベッド、大きな机。スタンはその部屋の中央にあるソファーに腰を下ろし、私を手招きする。おずおずとスタンの隣に座ると、待っていましたと言わんばかりにぎゅっと抱きしめられる。
こうして、スタンは隙さえあれば私を抱きしめる。まるで、子供が大切にしている人形を抱えるみたいに。
夜だし、変な気を起こしてはいけない。だが、スタンに限ってはないと思う。そう思って、されるままにしている私。
私を抱きしめたまま、スタンは悩ましげな声を上げた。
「この話をエルザにしてもいいのか、ずっと迷っている。もしかしたら僕はエルザを傷つけるかもしれないし、エルザは落ち込むかもしれない」
スタンを見ると、青色の瞳はしっかり私を捉え、まっすぐに私を見ている。
いくら暗い話であれ、スタンが話そうと決意したものだ。私はそれを聞いて受け入れるべきだと思う。
(それにしても、どんな暗い話なのだろう。
もしかして、スタンには忘れられない恋人がいたとか?
それとも、実は隠し子がいるとか!? )
考えれば考えるほど、パニックを起こしそうだ。
(実は、騎士団長と偽っているだけで、革命軍だとか!?
あぁ……頭が痛くなってきた)
そんな私を不安そうに見て、スタンは告げる。
「エルザの両親の話の続きだよ」
それで、私は内心ホッとした。私が想定した最悪よりは、マシな話に違いない。
私の焦りを知ってか知らずか、スタンは静かな声で話し始めた。低くて甘い声が、スタンの部屋に響いた。
「僕は、ダミアンからエルザの両親の話を聞いてから、色々と調べたんだ。
もちろん僕の両親にも聞いたし、魔術師団の中で知る人にも聞いてみた。それで、少しずつ分かってきたんだ」
私は黙ってスタンを見る。彼の銀色の髪が鈍く輝き、その青色の瞳は穏やかに私を見ている。だが、心なしか切なげにも見える。
「リヴィエール夫妻の『全治全能の石』の話題は、当時一世を風靡していた。革命軍以外にも、皆がそれを欲しいと思ってたんだ。
ある日、この街ユーリが革命軍に包囲された。革命軍はユーリを本拠地とし、首都陥落を計っていたんだ。
そこで、僕の両親が言ったように、エルザのお母さんは身代わりとして革命軍に入った。その代わり、ユーリの街の皆を解放して欲しいと」
私はこくんと頷く。
「革命軍は彼女の取り引きを受け入れ、ユーリからは脱退した。だけど、エルザのお母さんは離さなかった。
彼女に執拗に全治全能の石の在処を吐くように迫ったんだ」
あの日、私が捉えられた時も同じだった。あの時も革命軍は、全治全能の石を手に入れたがっていた。……首都を滅ぼし、全てを手に入れるために。
「妻が帰ってこないから、お父さんはとても心配した。そして、彼女が革命軍に捕まっている情報を手に入れた。
そしてお父さんは全治全能の石をフィリップさんとエルザに預け、革命軍へと乗り込んでいったんだ。
お母さんは最後まで口を開かず、革命軍の拷問によって亡くなった。
そしてお父さんは……全治全能の石によって寿命を奪われ、亡くなった」
「……えっ!? 」
両親は、禁じられた魔法の研究中、事故に巻き込まれて亡くなったと聞いている。スタンの話は、私の聞いた話と全然違う。お父さんが、全治全能の石によって亡くなっただなんて。
お父さんが家を出た後、全治全能の石は私たち兄妹が持っていた。自立した生活が出来るようになるまで、私たちは『神様に頼んで』いたことがあった。お腹がすいたからご飯が欲しいだとか、怪我をして動けないから治して欲しいだとか。当時数回、全治全能の石が眩しく光ることがあった。
「それじゃあお父さんは……」
私とお兄が、全治全能の石に頼み込んだから……その頼みと引き換えに、全治全能の石はお父さんの命を奪っていたんだ。
胸がズキズキ痛む。お父さんを殺したのは私たち兄妹なのだと思うと、私たちはリヴィエールの名を継ぐのに相応しいとは到底思えなかった。
「それが、お父さんの優しさだったんだと思うよ」
スタンは私を抱きしめたまま、静かに告げる。
「きっとご両親は、幼い二人を僻地に残していくことをすごく躊躇ったと思う。だけど、危険な地に連れていくわけにはいかなかったから……だから、せめてもの望みで、全治全能の石を託したんだと思う」
お父さんを思うと涙がこぼれた。
私は自分が置かれた境遇が不幸だと、なぜ自分にだけ両親がいないのかと、卑屈になったこともある。たが、そばにいられない分、両親は私たちを心配し、自分を犠牲にしてまで守ってくれたのだ。
「全治全能の石は、はじめはお父さんの持ち物だった。だけどお父さんが亡くなった後、持ち主が変更された。
だから石はエルザを主人と認め、エルザの寿命を奪っていたんだよ」
スタンは悲しげに告げる。だが、スタンを助けるために私の命が削られたことは、むしろ誇りに思っている。
お父さんも、同じ気持ちだったのかもしれない。
「スタン……」
私はそのシャツにしがみつき、その胸に顔を埋めていた。そしてスタンは、割れ物にでも触れるかのように、そっと大切そうに私を抱きしめる。
「エルザ、愛してるよ」
スタンは愛しげに囁き、私の髪に顔を埋める。
「お父さんが繋いでくれたエルザの命を、これからは絶対に僕が守るから。
残りの命が尽きるまで、ずっと笑って暮らそうね」
大粒の涙が溢れる。それを拭い、大好きなスタンを見上げる。薄暗い室内で、その青色の瞳が優しく私を見つめている。
「だから、次はしっかりと言わせて。騎士の誓いとか、そんなものではない。
一生大切にするから、僕と結婚してください」
私は満面の笑みでスタンを見つめ、
「はい!! 」
元気に返事をしていた。そしてまた、スタンにぎゅっとしがみつく。
次々と涙が溢れるが、これは嬉し涙だ。私はたくさんの人からこんなにも愛をもらい、とても幸せだ。
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