シュヴァリエ一家
白馬のエルザは矢のように草原を駆けた。草原はいつの間にか山地になり、登るに連れて辺りの気温が下がってくる。私は後ろからスタンに抱きしめられ、その温もりを堪能した。
そして辺りが夕闇に包まれる頃……遠くに、街の灯りが見え始める。それは首都ニーズよりもずっと小さいが、城壁に囲まれた柔らかな雰囲気の都市だった。
その都市の石造りの道を、白馬のエルザはゆっくり駆けていく。人々は私たちを振り返り、珍しいものでも見るような表情を浮かべた。
そして、辺りがすっかり暗くなる頃、ようやく白馬のエルザは足を止めた。
目の前には、石造りの立派な家が建っていた。煙突からは煙が吹き出し、窓からは明るい光が漏れている。
「エルザ、長旅で疲れたよね。
ここが僕の家、シュヴァリエ家だよ」
シュヴァリエ家は見るからに豪華だ。おそらく、スタンの両親も錚々たる地位の人なのだろう。
(粗相がないようにしなきゃ)
そう気を引き締めるが……
「スタン!! 」
勢いよく扉が開き、家から女性が飛び出してくる。その髪はスタンと同様白銀色に輝いている。
女性に続いて、ラフなシャツを着た男性も飛び出してくる。
「スタン、お帰り!! 」
女性はそう言って、彼女よりもずっと背の高いスタンを見上げて笑う。
「あなたの噂は日々日々聞いているわ。ニーズで頑張ってるのね、スタン」
その目を細めた笑顔は、スタンそっくりだ。おそらくスタンのお母さんだろう。
そして、彼女はスタンの隣に突っ立っている私を見て、丁寧に頭を下げた。
「息子から聞いているわ。
あなたがスタンを懇意にしてくれているなんてとても嬉しいわ、エルザさん」
(……え!? )
予想外の反応に、私はスタンのお母さんをまじまじと見つめていた。
「リヴィエール夫妻のお嬢さんと結婚だなんて、うちも鼻高々だな」
彼女の後ろに立っている、スタンのお父さんらしき男性も頬を緩めて私を見下ろしている。そして、予想外の歓迎を受けて固まっている私を見て、スタンにそっくりな、少しだけ年上の男性が笑顔で告げた。
「ほら。エルザさんも困ってるでしょう?
僕たちこのユーリの街に住む者は皆、リヴィエール夫妻に助けてもらってるんだから」
私は、そんな話聞いていないよとでも言うように、スタンを見上げる。スタンは口元を緩めながら、そっと私の髪を撫でる。
「相変わらず弱々しい息子だけど、これからもスタンをよろしくね、エルザさん」
スタンのお母さんは、スタンによく似た明るい笑顔で私を見ていた。
それから、私は館に招き入れていただいて、スタンの両親からいろんな話を聞いた。そしてその話を聞くたびに、私の知らない両親の顔が見え隠れする。
記憶の中に少しだけ残っている、優しいお母さん。お父さんは知的で、難しい魔法をたくさん教えてくれた……
私にとってはただの父母なのに、世間からは大魔法使いと呼ばれ、ユーリの街に至っては恩人だ。
「この街が革命軍に狙われていたから……
だから、あなたのお母さんがこの街を守るために身代わりとなって、革命軍へ入ってくれたのよ」
「あなたたちリヴィエール一家の幸せを奪ったのは、我々この街の人間なんだ」
心底申し訳なさそうな顔をする二人に、私は笑顔で告げていた。
「それが、母の本望だったのだと思います」
そして、私はそんなにも素晴らしいお母さんを、今や誇りに思っている。
「それにしても、スタンもいい子を見つけたわね」
「あぁ。倅にはもったいない」
彼らはそう言って私を褒めてくれるが、ニーズの街でのスタンの活躍をしないだけだろう。スタンは憧れの騎士団長で、今日もファンにハートの目で見られている。
「思い返せば、スタンは日々剣術に明け暮れ、女性には興味がなかったものね。
次男だから家業を継ぐことも出来なく、ニーズの騎士団に入って……それから、女嫌いが増した気もするけど」
「そうだな。スタンは一生結婚しないだろうと、諦めてまでいたんだがな」
そうやって笑い合う両親に、
「もう!うるさいよ!! 」
スタンは真っ赤な顔で怒っている。そんな仲良し家族を見て、気付いたら笑いが込み上げてきた。
私の両親が生きていたら、私も今頃こうやって皆で笑い合っていたかもしれない。それでも、街のために体を張ったお母さんや、お母さんを必死に助けようとしたお父さんが誇らしい。
今や私は胸を張って言える。私の両親は、偉大な魔法使いリヴィエール夫妻だと。
美味しい料理を食べ、楽しい話に花を咲かせる。時間はあっという間に過ぎ、スタンの両親にもう寝る時間だよと促された。
(私はどこで寝るのだろう。
まさか……スタンと同室? なわけ、ないよね)
私は数回、スタンと寝室を共にしたことがある。騎士団宿舎のゲストルームで、だ。その時はいずれもスタンに抱きしめられ、その温もりを感じて眠っていた。
だから万が一同室であったとしても、何も起こらないのは分かっている。
階段を上がると、スタンは優しい瞳で私を見つめる。そして、優しい声で囁いた。
「もう夜も遅い。でも……僕からも、ちゃんとエルザに伝えなきゃいけないことがあるんだ」
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