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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第一章

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青狼、赤獅子、黄虎、そして茶虫

 次の日。


 相変わらずカフェは繁盛している。忙しく働きながらも、私はアリスさんに提案する。


「デザートもメニューに加えたらどうですか?

 コーヒーじゃなくて、甘いものを食べたい人もいると思います」


 何を隠そう、前世の知識だ。前世では、カフェでは様々な甘いものが売られていた。

 さらに、前世の私の特技といったらお菓子作りだ。

 前世アイドルオタクだった私は、推しにせっせとお菓子を作って送っていた。推しが食べてくれていると思っていたが、推しがファンからもらった手作りのものには手をつけないことを知ってから、死にたくなったのは秘密だ。


 そんなわけで、私は勇んでデザート作りに取りかかる。

 小麦粉を練ったり、生クリームを泡立てたり。もちろん、ふんだんに魔法を使ってそれらを作る。出来上がったものは、ショートケーキにマカロン、クッキー……


 (さて、誰か試食してくれないかなぁ)




 ちょうどその時、店の扉が開いた。そして、


「エルザさぁーん!」


聞き覚えのある声がした。


 扉を見ると、なんと昨日会ったばかりのスタンさんが立っている。スタンさんは嬉しそうに小躍りしながら、私のほうへと近寄ってきた。


「エルザさぁーん!昨日の味が美味しすぎて、今日も来ちゃいましたぁ」


「ありがとうございます!ちょうど良かった」


 私はスタンさんに焼きたてのマカロンを渡す。この世界にマカロンもないのだろう。スタンさんは目が点だ。


「何ですか、これは? 」


「マカロンです。試作品ですが、良かったら食べてみませんか?

 もちろんお代は不要です」


 スタンさんの目がキラキラ輝いていて、眩しいばかりだ。そして満面の笑みでマカロンを口に運ぶスタンさん。


「んんんん美味しいッ!!

 何このサクサクと、あまーい味は!

 絶妙に口に残る感触、クセになりますねーッ!! 」


「もう、スタンさん大袈裟。食レポですか!? 」


 思わず言ってしまうと、スタンさんはぽかーんとして呟く。


「食レポ? 」


 いけないいけない。私としたことが、前世の推しの食レポを思い出してしまった。美男が美味しくものを食べる姿、眼福ですよねー……というのは置いておいて……


「何でもないです。ありがとうございます」


 笑顔でスタンさんに告げる。そして返されるスタンさんの笑顔に、また胸が熱くなる。


「あ、エルザさん」


 スタンさんは思い出したように私に告げる。


「もし良かったら、僕のことはスタンって呼び捨ててください。

 僕、友達も少なくて……エルザさんと仲良くなりたいなって」


「ほんと!? 」


 私は嬉しすぎて、スタンさん……いや、スタンの手を握っていた。その手をスタンもぎゅっと握り返してくれる。


「じゃあ友達ね、エルザ!」


 スタンは満面の笑みを残し、試作品のケーキとマカロンを大量に持って帰った。代金を払おうとするスタンを必死で止め、笑顔で見送ると……


「春ね」


 アリスさんがニヤニヤ笑っている。


「春!? 」


 びっくりする私と、さらに笑うアリスさん。


「なかなかの好青年じゃない。

 ……でも、どこかで見たことあるような……」


「……ですよね。私もそう思います」


 それでもやはり、どこで見たのか思い出せないのであった。





 こうして楽しく忙しい一日が過ぎ、家に帰る。するとなんと、今まで暗かった家に明かりがついているではないか。


 (お兄が帰ってきたんだ!! )


 私はまた、笑顔になる。そして意気揚々と扉を開けた。


「お兄、ただいまーッ!! 」



 広い部屋。きちんと片付けた部屋。そこには、無造作にダークレッドのローブが脱ぎ捨ててある。その奥には靴……靴下……鞄……そして一番奥にはソファーの上に寝そべった、半裸の男。

 私は慌てて彼に駆け寄る。


「ちょっとお兄、何してんのよ!

 なんで脱いでるの!? 」


「あー、エルザ……」


 お兄は疲れ切ったように薄目を開ける。そしてその瞳に私をとらえた。


「よく来たな!俺、すげー嬉しいけど……すげー疲れてる」


 だらしないのも相変わらずだ。魔術師団に入るものだから、お兄がキリッとした魔術師になっているかもしれないと不安だった。だが、お兄はお兄でしかない。


「仕事? 」


 その顔を覗き込む私に、お兄はぼやく。


「あぁ。今回大群でな、三日戦ってようやく倒した。

 多くの騎士たちが深傷を負ったから、俺たち魔術師が残って後始末したんだ」


「そっか……」


 お兄はお兄でしかないが、魔術師なんだと思い知る。そして魔術師団と言ったら……


「ダミアン様って知ってる? 」


「あぁ……」


 宙を見ながらお兄は答えた。


「知ってる。騎士団長のスタニスラス、大神官のロランと一緒に持て囃されてるんだろ? 」


 スタニスラスと聞いてドキッとする。お兄は私がスタニスラス推しだと知ると、どう思うのだろう。

 だが、お兄はへらへらと笑う。


「ダミアンもすげーけど、俺様だってすごいからな。

 むしろ、俺様を持て囃せ!

 絶対零度の青狼スタニスラス、情熱の赤獅子ダミアン、聡明叡智の黄虎ロランに……」


「昼寝坊の茶虫、フィリップお兄だね」


「誰が虫だ!? 」

 

 私たちは笑い転げていた。

 久しぶりに会うお兄との時間が楽しくて、ここまで来て良かったと我ながら思う。

 私はこれからニーズに住み、ニーズで楽しく生きていくのだ。


いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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