空腹の男性に、オムライスを食べさせてあげました
私の考案したメニューは、飛ぶように売れた。そして一日にして口コミが広まり、次の日にはカフェは人で溢れ返っていた。私はアリスさんと、嬉し涙を流しながら一生懸命仕事をした。私の魔法によって作られる料理を、アリスさんがばたばたと運ぶ。そうやって時間が過ぎ、いつの間にか昼過ぎになっていた。
まるで何かのゲームのように皿を持って走り回っていたアリスさんは、へとへとに疲れている。対してのらりくらりと魔法を繰り出していた私は、意外と元気だ。このままだとアリスさんが倒れるのではないかと心配になった私は、アリスさんに声をかけた。
「人の波が去ったので、アリスさんは休憩してはどうですか?
今の時間帯なら、私一人で何とか出来そうです」
「ほんと!? 助かる」
アリスさんは断ることすら出来ないほど疲れていたのだろう。ふらふらと亡霊のように奥の部屋へと消えていき、どさっと倒れ込む音が聞こえた。
(アリスさんを酷使せず、風の魔法で料理を運べば良かったのかな?
でも、それだったら温かみがないよね)
なんて呑気に考えていると、不意に店の扉が開く。私は笑顔でお客様を迎えていた。
「いらっしゃいませ」
「すみません。テイクアウトってお願い出来ますか? 」
そう聞いたのは、茶色い髪に落ち着いたシャツを着た、素朴な男性だった。歳は私よりも少しだけ上かもしれない。
「テイクアウト、出来ますよ」
メニューを渡しながら、笑顔で彼に告げる。すると彼はホッとした表情になる。そんな彼はどこか疲れた表情をしており、時折りふらっとよろめく。心配になった私は、彼をテーブル席へと案内した。
「出来上がるまで、ゆっくり休まれてください」
彼が再びホッとした表情を浮かべた時……ぎゅるぎゅるぎゅる……どこからともなく、お腹が鳴る音がする。彼は頬を染め、自分の腹部を咄嗟に押さえた。
もしかして……
「お腹空いています? 」
思わず聞くと、彼は恥ずかしそうに答えた。
「そうなんです。……もう三日食べていなくて……」
「三日!? 」
驚きを隠せない。この男性は、三日も食事をせず、何をしていたのだろう。いずれにせよ、それを知ってしまったからには放っておけない。
「すぐに作りますから、待っていてください。
ビーフシチューは品切れなので、オムライスでいいですか? 」
私は袖まくりをし、次々と魔法陣を描いていった。
そして……
「美味しい!美味しすぎます……」
目の前に出されたオムライスを、男性は心底嬉しそうな顔で食べた。その食べっぷりを見ると、思わずくすりと笑ってしまう。
「なんで僕が買い出しに行かなきゃいけないのって思ってたけど、来て良かったー!!
こき使われて良かったー!! 」
「お口に合って何よりです」
笑顔の私に、彼も太陽みたいな笑顔を返してくれる。その笑顔が眩しくて……というよりも、私は気付いてしまった。来た時は憔悴しきって分からなかったが、この男性、かっこいいのだ。このかっこよさ、どこかで見た気がする……といっても、どこで見たのかよく思い出せなかった。
彼は踊り出しそうなほど上機嫌で私に言う。
「また来ていいですか?
僕はスタンって言います!」
「スタンさん!私はエルザです」
「エルザさん、ご馳走様でした!」
スタンさんはまた無邪気な笑みを浮かべる。その笑みが眩しくて、私も釣られて笑顔になる。そして、思わず言ってしまった。
「スタンさんって絶対いい人ですよね。
スタンさんがいれば、周りも明るくなるって言うか……」
スタンさんは一瞬ぽかーんとした表情になる。そして、心底嬉しそうに笑う。
「そんなことないですよぉ。
僕、とっつきにくいとか言われて、一匹狼だなんて呼ばれるんです」
「冗談はやめてください」
初対面のスタンさんと思いっきり笑った。
それにしても不思議だ。初対面なのに、こんなにも打ち解けてしまうだなんて。首都というだけで警戒していたが、アリスさんといいスタンさんといい、ニーズの人たちは皆人懐っこくて優しいのかもしれない。
結局、スタンさんはオムライスのテイクアウトを十個も買って帰った。運びますよと言うが、スタンさんは聞いてくれない。
「女性に荷物を運ばせるなんてとんでもない」
その一点張りで、両腕に袋を下げ、そして両手にオムライスの入ったパックを抱えて出ていく。
(スタンさんのことだから、転んでダメにしてしまうかもしれない)
そう思った私は、そっと風の魔法をかけた。スタンさんの気付かない程度に、風がパックを支えてくれるように。
こうして私は、新しい職場に新しい友人にと、ニーズでの楽しい生活のスタートを切った。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




