新しい地で、新しい職を見つけました
スタニスラスに見惚れているうちに、進軍は終わってしまった。まだまだ熱が冷めきらない空気の中、はっと我に返る。
(私、お兄を探しに来たんだ。
お兄は魔術師団に採用されたって言うから……きっとあの中にいたんだ)
スタニスラスに夢中で、お兄の存在が頭から抜け落ちていた。そして、お兄が進軍したとすれば、お兄の家は留守だ。頼れる人もいない。
現実に突き戻された私は、がっくりと項垂れた。
隣にいる女性は、項垂れている私を見て勘違いしたらしい。
「ご、ごめん、忘れてた。スリースターズがあまりにもかっこよくて!」
「えぇ……分かります」
「それで、あなたは何に困ってるの? 」
そこでようやく、私は女性にお兄の家の住所を書いた紙を見せる。
「私はエルザと言います。ニーズで働き始めた兄の家に行きたいのですが……」
「へぇー」
そう言って彼女は紙に目を落とし、人の良さそうな笑顔で告げた。
「ダイアストリート一丁目ね。ここからそう遠くはないわ。
私が連れて行ってあげる」
こうして私は、とうとうお兄の家まで辿り着くことが出来たのだ。
長旅は大変だった。平和に暮らしていたランダルの地で、突如大軍に襲われた。私は必死でスーツケースに荷物を詰め、魔法陣を描きながら逃げたのだ。両親のいない私が頼れる人はただ一人、最近魔術師団員になったお兄だけだった。
そこで私は魔法でお兄に手紙を送り、無事お兄から住所を聞いたのだ。
またお兄と暮らせると思うと、長旅の疲れも吹っ飛んでしまった。それだけではなく、スタニスラスという推しの存在も、また私の心を元気にさせた。そして私は、歩きながらもスタニスラスのことを考えているのであった。
お兄の家は、意外と立派な石造りの家だった。家の前で、女性に何度も礼を言った。
女性は人の良さそうな顔で笑いながら言う。
「あなた、この街に来たばかりで知り合いもいないでしょ?
何かあったら私を頼ってよ。
私、アリスっていうの。さっきの大通り沿いでカフェしてるんだ」
「アリスさん、ありがとうございます!」
私はまた頭を下げていた。
僻地のランダルとは違い、首都ニーズの人はどこかドライで都会的だと思っていた。だが、アリスさんの優しさや気さくさに救われた。初めて出会った人が、アリスさんで良かったと思う。
「さて……」
私はお兄の家を見上げる。立派な石造りの家からは物音一つせず、お兄が留守であることは容易に想像出来る。留守ということは、家の中にも入れないということだ。
(だけど私、ちょっと魔法使えるからね)
小さな魔法陣を描き、草の魔法を唱える。玄関先の花壇からは勢いよく草が伸び……それはみるみるうちに鍵穴へと入っていく。そして、かちゃりと鍵が開くいい音がした。
扉を開くと、懐かしいお兄の匂いがした。それだけでなく、厳重な結界も張ってある。私は楽々それを解除し、ソファーに倒れ込んだ。そして笑顔で呟いた。
「お兄、ただいま!」
◆◆◆◆◆
せっかく首都まで来たというのに、お兄は不在だ。私はすぐに暇を持て余すこととなる。
テーブルに座りながら色々と考えた。
お兄は魔術師団で仕事をしている。こんな立派な家に住めるのも、魔術師団の給料がいいからだろう。
お兄はお金をいっぱい持っているかもしれないが……前世OLでバリバリ働いていた私は、居候なんて出来ない性分だった。
(私も魔術師団に入るべきかなぁ。
でも、私のお粗末な魔法じゃ、魔術師団に入れないかもしれない。
戦いだって怖いし……)
そんなわけで、仕事探しのためにすぐにアリスさんを訪ねることとなる。
アリスさんのカフェはすぐに見つかった。というのも、店名が『Alice’s cafe』だからだ。
大通りに面した建物の一階にある、小さくて可愛いカフェだった。
ちょうど朝の時間帯で暇だったらしく、
「エルザ」
すぐに笑顔のアリスさんに呼び止められる。そしてアリスさんに事情を話し、仕事を紹介して欲しいと告げると、
「うちで働けばいいじゃん!」
アリスさんにスパッと言われた。
「やりたい仕事が見つかるまで、うちで雇ってあげるよ」
そんな訳で、私はアリスさんのカフェで働くこととなった。
前世では就活に苦労した。なかなか内定をもらうことが出来ず、自暴自棄にもなった。だが、今世の就活は驚くほど楽だった。
就活の厳しさを知っている私は、頑張って働いてアリスさんに恩返ししようと心に決めるのであった。
僻地ランダルで自給自足の生活をしていた私は、お洒落なカフェには馴染めないかもしれない……なんて思ったりもしたが、こんな時に前世の知識が役だった。
「えー!!何これ。超美味いんだけど!」
アリスさんは私の手料理に感動している。決してすごい料理を作った訳でもなく、オムライスやビーフシチューなど、前世のカフェにあったようなものを提案しただけだ。
ランダルで過ごしていた私は知らなかったが、この世界にはオムライスもビーフシチューもないらしい。さらにそれは、『超洒落て、超美味しい料理』と思われるらしい。
(簡単に就職出来て、腕を認められるなんて、幸運すぎるんだけど! )
さらに幸運なこと。それは……
「エルザ、そんな魔法使えるの!? 」
アリスさんはひっくり返りそうになった。というのも、私がいつも通り何食わぬ顔で魔法を使ったからだ。
水の魔法で一瞬にして野菜を洗い、風の魔法で一瞬にして野菜を切り、具材と調味料を入れた鍋を、火の魔法でぐつぐつ温める。
自給自足生活では、これが当たり前だった。だが、どうやら当たり前ではないらしい。
「エルザってすごいね!
何でそんな魔法を何種類も使えるの!? 」
それに対して、物心ついた頃から魔法なんて使えた、としか答えることが出来なかった。
僻地の山奥で暮らしていたため、一般の人々がどのような暮らしをしているか、分からなかった。私には凄い力がある。そんなこと、この時は予想すらしなかったのだ。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




