軍のアイドル、スリースターズ
新しく連載を始めました。
最後まで書き終えているので、順次公開しています。
読んでいただけると嬉しいです!
目の前にいる、白馬に乗った彼から目が離せない。
白銀の髪は陽の光に輝き、精悍な瞳は遠くを見つめている。ブルーグレーのマントは風に靡き、腰に差した剣がきらりと光る。
こんなにも美しくて、眩しくて、強い彼と人生が交わるなんて、予想さえしていなかった……
◆◆◆◆◆
約一時間前……
長旅を終え、私はようやく首都ニーズに辿り着いた。
国境の僻地ランダルで暮らしていた私にとって、首都ニーズは想像もつかない都会だった。
聳える尖塔に、石造りの家々。広い道路には人や馬車が行き交い、洒落た店には人が出入りしている。ゆったりとした時間が過ぎていたランダルとは違い、ニーズの人々はどこかせかせかしていて時間に追われているようだった。
(お兄の家はどこだっけ? )
お兄から届いた手紙を見る。そして首を傾げていた。
僻地で過ごした私には、書かれた住所に辿り着くことは至難の業だった。首都ニーズには迷路のように道が張り巡らされ、両側には様々な建物が立っている。その建物を見上げながら歩いていると、先ほど歩いたばかりの場所に戻ってしまうのだ。
(このままだと、永遠と辿り着かないよ。
みんな忙しそうだけど、街の人に聞いてみよう)
「すみません……」
勇気を出して、前を歩く女性に声をかけてみた。すると彼女は、振り返り様に口走った。
「なに? 早くしないと! ……あなたもスリースターズを観に行くんでしょう!? 」
いきなり意味不明なことを聞かれ、ぽかーんとする私。すると彼女はようやく私が大きなスーツケースを持っていることに気付く。
「あぁ、もしかして外部の人?
今ね、この街のみんなは忙しいんだよ」
「そ、そうなんですね」
その気迫に負けながらも、私はぺこりとお辞儀する。
「忙しいところ、お邪魔してしまってすみません」
彼女は急ぐ足を止めて、まじまじと私を見る。困っている人を置いておくのは、さすがに気の毒に思ったのかもしれない。
「ごめんね。スリースターズを見送ったら、あなたの相談に乗ってあげるから」
そう言うと、再び足速に歩き始めた。その後ろを、私は小走りでついていく。
「スリースターズ? 」
思わず聞き返すと、彼女は目を輝かせて教えてくれる。
「この街の騎士団長スタニスラス様、魔術師団長ダミアン様、大神官ロラン様のことよ。
今から進軍が始まるわ。みんな見に行くの!」
言われるままに、スーツケースを引きずって走る。スーツケースがあまりに重いため、そっと風の魔法で宙に浮かべながら。そんな私のさり気ない魔法に気付く人もおらず、皆が大通りへと向かっている。
首都ニーズの大通りは、田舎者の私にとって想像を絶する広さだった。そこに、想像を絶する人が集まっている。
女性は石段の上に登り、私も隣によじ登った。もちろん、スーツケースは魔法で浮かせておく。
「ここは首都だけど治安が悪くてね。街中にも悪い奴が出るし、郊外には魔物も出る。
スリースターズ率いる首都の軍が、私たちを危険から守ってくださるのよ」
「そうなんですね!」
話を聞いているうちに、遠くから悲鳴が響いてくる。その悲鳴が大きくなるにつれ、大通りの奥から大群が歩いてくるのが見えた。
「ほら、来た!! 」
大群は三列に並んでいた。そして先頭には、三人の白馬に乗った人物。
右側にはダークレッドのローブを着た魔術師。左側は、純白の法衣を着た神官。そして中央はブルーグレーのマントを纏った騎士。その後に、ずらりと騎馬部隊や歩兵隊が続く。
人々は彼らを見て口々に叫ぶ。
「よろしくお願いします!! 」
「頑張ってください!」
だが、純粋に応援しているわけではなさそうだ。
「ロラン様、こっち見てくださぁーい!!」
「ダミアン様!今日もかっこいいですわ!」
「スタニスラス様ーーッ!! 」
魔術師は手を上げて声援に答え、神官は微笑む。だが、中央の騎士は無反応だ。
「ダミアン様もかっこいいけど、クールなスタニスラス様には痺れるわ」
女性は頬を染めて大通りを眺めている。そして私も軍が近付くにつれ、そのかっこよさを目の当たりにすることになる。それはまるで……前世で言う『アイドル』だった。
私には前世の記憶がある。
日本という国に生まれ、OLという仕事をしていた。必死に働いてお金を貯め、それを某アイドルグループの『推し』のために使っていた。彼氏なんていなかったが、『推し』がいれば幸せだった。
そして私は、『推し活』のために遠征中、不慮の事故で命を落としたのだ。
スリースターズに、そのアイドルと似たものを感じた。人々は彼らに狂い、彼らと妄想の中で恋愛するのだ。
私の好みは……そう、騎士団長スタニスラスだ。あのクールで媚びない雰囲気、凛とした佇まい、そして何といっても人並外れた美貌。全てがドンピシャだ。
私は元オタクとして、スタニスラスを推そうと決めたのだ。
こうして、新たな地で私の推し活が始まった。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




