リヴィエール兄妹のこれから
眩しい朝の光。体はすうっと軽い。そして、温かい手……
目を開けると、目の前にはスタンの顔。美しくて切なげで、思いっきり飛び上がりそうになった。
「お、おはよ、スタン!! 」
私はかろうじてそう告げ、状態を起こす。酷く消耗していたはずなのだが、体は驚くほど軽い。
(まさか私、死んじゃったの? )
そう思ったが、そうではないようだ。
「エルザ!! 」
スタンはその青い瞳に涙をいっぱいため、子供のように口をへの字にして私に抱きつく。
「ちょっと待って、スタン。
何があったの? ここはどこ? 」
すると、聞き覚えのある新たな声がした。
「ここは大聖堂です。あなたは酷く消耗し、三日間眠られました」
「三日間!? 」
私は飛び上がる。そして叫んでいた。
「仕事行かなきゃ!! 」
前世バリキャリOLの私からしたら、無断欠勤は絶対にしてはいけないことだ。ただでさえ忙しい職場なのに、三日間も店を開けてしまったのだ。
「大丈夫です。『Alice’s cafe』には、あなたが重大な事件に巻き込まれ、療養中であることをお伝えしています。
アリスさんも大層心配しておられました」
「重大な事件……」
その言葉を反芻し、ようやく思い出した。
私は恐らく革命軍に捕まり、命の危険に瀕していたのだ。そこでスタンが助けてくれて……どうなったのだろう。
ぐるっと辺りを見回すと、私は白いベッドに横たわっているのが分かった。隣には、私に抱きついているスタン。ベッド脇には、相変わらず穏やかな表情のロラン。前方にはダミアンとお兄もいる。
(うわっ!スリースターズと茶虫が揃ってる!! )
密かに興奮してしまったのは言うまでもない。
だが、私たちが洞窟から脱出した後、どうなったのだろう。
「スタンさんから話は聞いている。
偉かったな、全治全能の石を奴らに手渡さなくて」
お兄が私の頭を撫でる。だが、髪の感触がいつもと違い、動揺を隠せない。そして窓に反射した自分の姿を見て、飛び上がりそうになった。
腰まであった茶色い髪は、今や肩上までの長さとなっている。
(そうだ。魔法で攻撃されて、髪が焦げてしまったんだ)
スタンはあんなに美しいというのに……髪だけが私の取り柄だったのに……この姿じゃますます自分が惨めになる。
泣きそうな私の頬に、スタンはそっと頬を寄せた。そして、泣きそうな声で告げる。
「全力で守ると誓ったのに、エルザに辛い思いをさせてしまった。
僕は騎士失格だ」
もちろんそんなことはない。私は一縷の望みをかけ、スタンを呼んだのだ。そして、私たちは今こうしてここにいる。
「スタンはそんなに落ち込むな。じめじめした男は嫌われるぞ」
ダミアンが笑いながら言う。そしてそのまま、私に聞いた。
「エルザは、もし良かったら、何があったか教えてくれないか?
あの夏祭りの夜、急にお前の姿が消えて、俺たち皆必死で探してたんだ」
それで私は、捕まってからのことを事細かく説明した。皆は私の話を、時には青ざめ、時には怒りながら聞く。
「相手は革命軍で間違いないな。スタンの証言もあるし」
ダミアンは唸る。
「そもそも、魔術師中心の差別国家を擁立するなんて、頭がおかしいとしか思えない。
エルザが断固として拒否してくれて良かった。これで彼らも、エルザを引き込むのは絶望的だと分かっただろう」
「そうですね。
エルザさんと茶虫さんは、革命軍に関わることを恐れ、リヴィエールの名を隠されていました。
だが、今後はリヴィエールの名は革命軍にとって脅威になるに違いありません」
「あぁ。絶対に革命軍に入らないリヴィエール兄妹が軍のバックについていると分かると、首都奪還も諦めるだろうな。
……何しろ、リヴィエール兄妹は首都に集められた魔物を一掃し、エルザに至っては革命軍を殲滅してしまったから」
ダミアンとロランが頷きながら話し、スタンも私を抱きしめたまま頷いている。そしてふふっと笑い、私の頬にキスをする。それだけで私は真っ赤になる。
「これにて、とりあえずは一件落着でしょう。
ですが、エルザさんは全治全能の石を使い過ぎました」
ロランは浮かない顔で告げる。
「私たちの推測からすると、エルザさんの寿命は、この石によって十五年ほどは削られています」
「十五年!? 」
スタンは素っ頓狂な声を上げる。そして、縋るようにロランに聞く。
「どうにかならないの? エルザはまだまだ生きなきゃならない。
出来ることなら、僕の寿命を十五年削って欲しい!」
そして、ぽつりと付け加えた。
「忠誠を誓ったのに、エルザ一人守れない僕なんて、生きる価値はないんだよ」
だが、私は違うと思う。
私は首都に来て、毎日楽しい日々を過ごしてきた。ピンチの時は助けてもらったし、今もこうして元気にしている。これも全部、スタンのおかげだ。
「スタン。この石、斬って? 」
私はペンダントを外し、それを机の上に置いた。こんな私を、皆が驚いたように見ている。
そんな彼らに、私は笑顔で告げる。
「人の生死は、石に決められるものではないと思うの。寿命が尽きたら穏やかに眠る、それが人間らしいと思うの。
それでも、この石を持っていたら、これからも願ってしまう。
この石のせいで、人間らしい生き方が出来なくなる」
「でも……形見でしょ? 」
スタンの声は震えていた。
スタンは優しい。こんな時まで、両親を失った私の心を心配してくれるのだから。だが、私は今、大切なみんなに囲まれて、とても幸せだ。
「お父さんやお母さんも、今となってはこれを壊して欲しいと思うな。
革命軍もこれを狙っているんだし」
私の言葉に、お兄も頷く。そして、首にかかる瓜二つのペンダントを外し、私のそれの隣に置く。
「スタンさん、俺のものも一緒に、お願いします」
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