命と引き換えに、願いを聞いて
男は私を凝視し、話を続ける。一瞬も視線を逸らされず、居心地が悪いことこの上ない。
「我々は現在、首都奪還を試みている。
この国の首都ニーズが我々の手に落ちれば、我々は理想とする魔術師の国の建国に近付くだろう。
そこで、全治全能の石を使用し、ニーズの首都を破壊したい。
もし貴女が成功すれば、我々は貴女に十分な褒美をやろうと思う。
そうだな……
新たな国の女王なんてどうだ? 」
身震いした。だが、負けてはいられない。
「私が女王になるのなら、今まで通り全ての人に平等な国を作ります。
魔法を使えるか使えないか。それだけで人の価値を決めてはいけないと思います」
私の言葉を聞いた瞬間、男性からは穏やかな空気が吹き飛んでいた。彼はついにプツッとキレたらしく、私の胸ぐらを掴んで怒鳴っていた。
「リヴィエール家の者なのに、貴様はなんと情けない!!
貴様に頼んだ我々が間違いだった。早く石のありかを言え!! 」
絶対に言うはずがない。この人たちの話を聞いていると、彼らに絶対石を渡してはいけないと思う。それと同時に、魔術師でいながら彼らを否定している、ダミアンやお兄を誇りに思った。
彼らも、絶対に石を渡さないだろう。だから私も……
「はやく言え!! 」
男性は魔法陣を描き、火炎が私に襲いかかる。火炎は私の左手を大きく焼く。
次は雷。その次は氷。抵抗したいが、私の両手は手錠によって動かない。指先のみで魔法陣を描こうともするが、すかさず攻撃される。
(こんなところで死ぬわけにはいかない。全治全能の石を渡すわけにもいかない!! )
私は必死に耐える。だが、肌は焼け、髪は切られ、喉は締め付けられ、意識が遠のいていく。
「貴様は意地でも口を開かないつもりか!?
……そうか。もういい。貴様の兄に聞くとし、貴様には死んでもらおう」
私がこのまま死んでしまうと、全治全能の石は奴らの手に渡ってしまう。それもいけない。
こんな時に縋ってはいけない。だが、私は愛しい彼を思い、彼に助けを求めていた。
(スタン……助けて……!! )
その瞬間、胸元のペンダントが青く光る。バレてはいけないと思うのに、それは煌々と強い輝きを放っていた。
「何だ、それは!! 」
男が驚いたように私に歩み寄る。
「それはまさか……」
手を伸ばしてそれを引きちぎろうとした瞬間……素早い閃光が男の後ろで光った。続いてがくっと両膝を突いて倒れる男。彼は痙攣し、地面に崩れ落ちながら泡を吹いている。
その後ろから、
「エルザ!! 」
私を呼ぶ、大好きなその声。
今の彼は、いつもの甘い雰囲気でも、キリッとした騎士モードでもない。ただ必死に、私の名を呼んでいる。
「エルザ!! エルザ、大丈夫!? 」
半ば悲鳴のような声を上げて、周りの男たちを次々に倒していく。まるで青い嵐だった。
「スタン……」
彼を見ると、涙が溢れた。ホッとして、そして、こんな所に呼んでしまった罪悪感に駆られて。
スタンはすごい勢いで敵を圧倒していく。だが、相手は集団だ。味方の危険を察知して、次々と仲間が集まってくる。大軍相手に一人で剣を振るう青い狼目がけて、一斉に魔法を放った。
「スタン!! 」
私が叫ぶのと、彼の体が魔法に撃たれるのは同時だった。灼熱の炎に炙られ、彼の騎士服が溶けていく……
(お願い!スタンを助けて!! )
祈ると、またペンダントは青い光を湛えた。そして、スタンを灼熱から守り、焼けた皮膚を再生させる。
「エルザ!! 」
スタンは私を見て、顔を歪めている。まるで自分の命よりも、私が大切とでも言うように。
「使っちゃ駄目だ!僕のために、使っちゃ駄目だ!! 」
「でも私、誓ったの」
「僕だって誓った!! 」
スタンはそう叫び、私の手錠を剣で切り裂いた。手錠はスパッと半分に割れ、ころんと音を立てて地面に転がる。
「エルザ!! 逃げて!! 」
スタンは叫ぶが、スタンを置いて逃げられるはずがない。
私は自由になった両手で、全速力で魔法陣を描く。複雑な呪文も、攻撃範囲もしっかりと刻み込む。
(この魔法、成功したことはほとんどないの。
でも、こういう時にぴったりだと思う。
どうか、お父さんお母さん、私にリヴィエール家の力をください!! )
複雑な魔法陣を描き終え、私は祈るように告げた。
「破壊神」
魔法陣が暗く鈍く光る。そして、巨大な鎧が出現する。その鎧は四方八方に凄まじい光線を繰り出し、黒いマントの男を一掃していく。天井が崩壊し、どさどさっと土が落ちる。松明の明かりは全て吹き飛ばされ、闇が襲いかかる。
「エルザ……」
スタンが隣にいて、ぎゅっと私の右手を握ってくれる。私はその手を握りしめ、左手で新たな魔法陣を描いた。
「エスケープ」
その瞬間、私たちは洞窟の外へと弾き飛ばされ、ぐしゃっと洞窟が潰れるのが分かった。
(助かった……)
そう思うと同時に、遠くから私たちを呼ぶ声が聞こえてくる。それは恐らく、私たちを探している味方の声だろう。
もう大丈夫だと安心すると、途端に眠くなってきた。
意識が遠のく直前、両親の姿を見た気がした。両親は笑顔で私を見て、手を振っている気がした。
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