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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第三章

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囚われの茶虫妹

 (うう……頭痛い……)


 私はうっすら目を開く。

 目の前には、ぼんやりとした松明の明かりと剥き出しの岩壁。そして、その前に数人の人間の影が見える。どうやら私は、どこかの洞窟の中にいるようだ。

 ズキズキ痛む頭を押さえようと手を上げるが、私の両手は何かに引っ張られ、自由に上げることが出来なかった。


 (なんだろう……)


 動かない両腕を見ると……なんと、そこには鈍く光る黒色の手錠が付いている。おまけに、その手錠には大きな鎖が付けられ、鎖の先には巨大な重石が置かれている。

 それを見て、ようやく気付いた。


 (私、捕まったんだ)


 だが、誰に? あの場には、周囲に怪しい者はいなかったはずだが。



 

 私が目を覚ましたことに気付くと、遠くの人影が動きを止めた。そして、ゆっくりこちらへ歩いてくる。

 私は半ば怯えた目で、その人影を見ていた。


 遠くから魔法を撃つことは得意だ。だが、こうも近くに来られると、魔法陣を描いている間にやられてしまう。そもそも、手錠のせいで魔法陣すら描けない。




 近付くにつれ、相手の姿が見えるようになる。彼らは全員黒いマントを身につけ、胸元には紋章のようなマークを付けている。先頭のものが指導者なのだろうか。四十代半ばほどの彼は黒い髭を生やし、その鋭い眼光で私を見ていた。


 彼は、その荒々しい姿からは考えられないほど穏やかな声で、彼は私に告げた。


「手荒なマネはしたくなかった。だが、貴女に怪しまれ攻撃されてはいけないと思い、こうさせてもらっている」


 私は恐怖で怯えた顔で、彼らを見ている。


「貴女が、大魔法使いリヴィエール家の末裔という情報をもらった」


 私は両親との約束や、ダミアンの話を思い出す。このいかにも悪そうな人たちに、本当のことを言ってはいけない。口をぎゅっと閉じた。


「貴女が何を言わなくても分かるのだよ。貴女が『伝説の魔法』を使っているところを拝見させてもらったから」


 私は最後の抵抗で、彼を睨んだ。


 革命軍が、魔術師の王を擁立しようとしている。そのため、リヴィエール家の者を探している。ダミアンはそう言っていた。だから彼らが名乗らなくても、『革命軍』という名が頭に思い浮かぶ。


 私は彼を睨みながら、注意深く質問をする。


「あなたは私を捕らえて、何を狙っておられるのですか? 」


 



 彼は静寂の中、ふっと笑った。そして、相変わらず穏やかな口調で話し始める。


「貴女は知っているだろうか。昔、この地は魔術師が国家を治めていた。人々は魔法によって統率され、魔術師が頂点の平和な国家だった。


 だが、数百年前……当時奴隷とされていた魔力を持たない者の大反乱が起こり、魔術師は首都から追放された。


 それから……魔術師は、酷い扱いを受けてきた。魔術師から以前の権威は奪われ、魔力を持たない者と同列の扱いを受けるようになった」


 私は黙って彼の話を聞く。



 かつて魔術師中心の国家が存在したことは、書物で読んだことがある。魔術師以外の者をあまりにも軽視したため、その国家が滅亡したという話も知っている。だが、私はそれに何の疑問も抱かなかった。


 今、私には、魔術師以外の知り合いがたくさんいる。全く魔法を使えない騎士も知っているし、アリスさんだって然りだ。スタンですら、魔法では私に敵わない。だが、それで彼らを見下すことは出来ない。彼らには彼らの良さがあり、彼らも尊重されるべきだと強く思う。




 髭の男性は強い瞳で私を見ながら告げる。


「我々は、魔術師の復権を切に願っている。そして、貴女はその魔術師の中でも名家の末裔だ。

 我々とともに魔術師の地位向上を目指し、共に歩まないか? 」


 男性の話を聞き、周りの人物も皆、首を縦に振っている。だが、私は絶対に振りたくない。


 (魔法が使えるか否かだけでその人を判断するのは、間違っている)


 


 私がうんともすんとも言わないものだから、男性は次第に苛立ってきているようだった。穏やかだった口調にも、棘が見え隠れし始める。


「貴女が私たちと共に戦えば、貴女の地位は保証する。

 そう、我々には、貴女ほどの名家の血筋が必要だ。

 共に、魔術師による国家を作ろうではないか!? 」



 歯向かうのが怖い。今の私は両腕に手錠をはめられている上、怪しい動きをすればすぐに攻撃される距離にいる。実際、彼らの多くは腰に剣を携えている。

 だが、このままおとなしく従った場合、スタンやダミアン、アリスさんなど多くの人を裏切ることとなる。



 私が何も言わないため、男の苛立ちはさらに大きくなる。目を見開き、脅迫するかのように私に告げた。


「我々には、貴女の存在と同じくらい、『全治全能の石』を欲している。

 貴女は在処を知っているな? 」


 (出た、全治全能の石)


 もちろん私はそれを知っているし、今も首元にほんの少し重さを感じている。両親の形見のこの石を、絶対に渡してはいけないと思う。

 私はその質問には答えず、逆に質問を返していた。


「全治全能の石とは、何の石ですか?

 あなたたちは、その石を使って何をしようと思うのですか? 」


 気味の悪い沈黙が続く。男たちは身動き一つせず、じっと私を見ていた。


 (もしかして、質問が気に食わなかった? )


 そう思い始めた時、彼は再び口を開く。


「全治全能の石とは、使う者の願いを全て叶えてくれる石だ。死人を生き返らせること以外、全て。

 ありとあらゆる呪いを解除し、怪我を治し、全てを破壊することも出来る」


 (私の命と引き換えに、だ)


 どうやら全治全能の石は、私の想像以上の能力を持っているらしい。ただ呪いを解除し、怪我を治すだけではなさそうだ。

 私はぐっと息を呑んだ。



いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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