囚われの茶虫妹
(うう……頭痛い……)
私はうっすら目を開く。
目の前には、ぼんやりとした松明の明かりと剥き出しの岩壁。そして、その前に数人の人間の影が見える。どうやら私は、どこかの洞窟の中にいるようだ。
ズキズキ痛む頭を押さえようと手を上げるが、私の両手は何かに引っ張られ、自由に上げることが出来なかった。
(なんだろう……)
動かない両腕を見ると……なんと、そこには鈍く光る黒色の手錠が付いている。おまけに、その手錠には大きな鎖が付けられ、鎖の先には巨大な重石が置かれている。
それを見て、ようやく気付いた。
(私、捕まったんだ)
だが、誰に? あの場には、周囲に怪しい者はいなかったはずだが。
私が目を覚ましたことに気付くと、遠くの人影が動きを止めた。そして、ゆっくりこちらへ歩いてくる。
私は半ば怯えた目で、その人影を見ていた。
遠くから魔法を撃つことは得意だ。だが、こうも近くに来られると、魔法陣を描いている間にやられてしまう。そもそも、手錠のせいで魔法陣すら描けない。
近付くにつれ、相手の姿が見えるようになる。彼らは全員黒いマントを身につけ、胸元には紋章のようなマークを付けている。先頭のものが指導者なのだろうか。四十代半ばほどの彼は黒い髭を生やし、その鋭い眼光で私を見ていた。
彼は、その荒々しい姿からは考えられないほど穏やかな声で、彼は私に告げた。
「手荒なマネはしたくなかった。だが、貴女に怪しまれ攻撃されてはいけないと思い、こうさせてもらっている」
私は恐怖で怯えた顔で、彼らを見ている。
「貴女が、大魔法使いリヴィエール家の末裔という情報をもらった」
私は両親との約束や、ダミアンの話を思い出す。このいかにも悪そうな人たちに、本当のことを言ってはいけない。口をぎゅっと閉じた。
「貴女が何を言わなくても分かるのだよ。貴女が『伝説の魔法』を使っているところを拝見させてもらったから」
私は最後の抵抗で、彼を睨んだ。
革命軍が、魔術師の王を擁立しようとしている。そのため、リヴィエール家の者を探している。ダミアンはそう言っていた。だから彼らが名乗らなくても、『革命軍』という名が頭に思い浮かぶ。
私は彼を睨みながら、注意深く質問をする。
「あなたは私を捕らえて、何を狙っておられるのですか? 」
彼は静寂の中、ふっと笑った。そして、相変わらず穏やかな口調で話し始める。
「貴女は知っているだろうか。昔、この地は魔術師が国家を治めていた。人々は魔法によって統率され、魔術師が頂点の平和な国家だった。
だが、数百年前……当時奴隷とされていた魔力を持たない者の大反乱が起こり、魔術師は首都から追放された。
それから……魔術師は、酷い扱いを受けてきた。魔術師から以前の権威は奪われ、魔力を持たない者と同列の扱いを受けるようになった」
私は黙って彼の話を聞く。
かつて魔術師中心の国家が存在したことは、書物で読んだことがある。魔術師以外の者をあまりにも軽視したため、その国家が滅亡したという話も知っている。だが、私はそれに何の疑問も抱かなかった。
今、私には、魔術師以外の知り合いがたくさんいる。全く魔法を使えない騎士も知っているし、アリスさんだって然りだ。スタンですら、魔法では私に敵わない。だが、それで彼らを見下すことは出来ない。彼らには彼らの良さがあり、彼らも尊重されるべきだと強く思う。
髭の男性は強い瞳で私を見ながら告げる。
「我々は、魔術師の復権を切に願っている。そして、貴女はその魔術師の中でも名家の末裔だ。
我々とともに魔術師の地位向上を目指し、共に歩まないか? 」
男性の話を聞き、周りの人物も皆、首を縦に振っている。だが、私は絶対に振りたくない。
(魔法が使えるか否かだけでその人を判断するのは、間違っている)
私がうんともすんとも言わないものだから、男性は次第に苛立ってきているようだった。穏やかだった口調にも、棘が見え隠れし始める。
「貴女が私たちと共に戦えば、貴女の地位は保証する。
そう、我々には、貴女ほどの名家の血筋が必要だ。
共に、魔術師による国家を作ろうではないか!? 」
歯向かうのが怖い。今の私は両腕に手錠をはめられている上、怪しい動きをすればすぐに攻撃される距離にいる。実際、彼らの多くは腰に剣を携えている。
だが、このままおとなしく従った場合、スタンやダミアン、アリスさんなど多くの人を裏切ることとなる。
私が何も言わないため、男の苛立ちはさらに大きくなる。目を見開き、脅迫するかのように私に告げた。
「我々には、貴女の存在と同じくらい、『全治全能の石』を欲している。
貴女は在処を知っているな? 」
(出た、全治全能の石)
もちろん私はそれを知っているし、今も首元にほんの少し重さを感じている。両親の形見のこの石を、絶対に渡してはいけないと思う。
私はその質問には答えず、逆に質問を返していた。
「全治全能の石とは、何の石ですか?
あなたたちは、その石を使って何をしようと思うのですか? 」
気味の悪い沈黙が続く。男たちは身動き一つせず、じっと私を見ていた。
(もしかして、質問が気に食わなかった? )
そう思い始めた時、彼は再び口を開く。
「全治全能の石とは、使う者の願いを全て叶えてくれる石だ。死人を生き返らせること以外、全て。
ありとあらゆる呪いを解除し、怪我を治し、全てを破壊することも出来る」
(私の命と引き換えに、だ)
どうやら全治全能の石は、私の想像以上の能力を持っているらしい。ただ呪いを解除し、怪我を治すだけではなさそうだ。
私はぐっと息を呑んだ。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




