茶虫兄妹の呪文炸裂
地面に降りた瞬間、スタンは大切なものを置くように、そっと私を地面に下ろす。こんな時なのに胸が熱くなる。そんなスタンを、
「団長!! 」
騎士たちは半ば悲鳴のような声で呼んだ。
「団長!魔物が多すぎます!」
「どうしてこんな……」
「あぁ!! グレイがやられてる!! 」
スタンはキリッとした表情で前を向く。そして、やられている仲間のへ駆け始めた。すれ違いざまに剣を引き抜き、グレイさんを襲っている魔物を瞬時に真っ二つにする。次の瞬間には、左側の魔物を倒していた。
「彼、すげぇな」
いつの間にか隣にはお兄がいる。
「あの強さじゃ持て囃されるのは当然っつーか……
それに比べてウチの団長は……」
お兄はそんなことを言うが、お兄が規格違いなだけで、ダミアンは十分強い。大半の魔術師が引き気味なのに対し、彼は魔術師団の最前線に立って魔物を攻撃している。四方八方から激しい火の気が上がっていた。
「フィリップ!」
ダミアンが魔法陣を描きながらお兄に聞く。
「お前らの魔法は、広範囲をカバー出来るか!? 」
「あぁ、もちろん!」
ダミアンはホッとした表情を浮かべ、口早に告げた。ただ、目は敵を捉えて離さない。
「今、この街は魔物に取り囲まれている。
魔物が集中しているのはこの辺りだが、街の裏側は人手が不足している。
ここにいながら、街の周囲全体を攻撃することは出来るか!? 」
「やってみる!」
お兄と私は顔を見合わせて頷いていた。
目の前では騎士たちが魔物と激しい戦いを繰り広げている。その中を、まるで青い矢のようにスタンが駆け抜けていく。そして、魔法が地を、空を眩く照らす。
お兄は特大の魔法陣を描き始める。よく知っている魔法陣だ。私もお兄の斜め後ろから、全く同じ魔法陣を描く。
特大魔法陣は、描画に時間がかかる。魔法陣内に描く呪文も複雑で、一語一句間違えてはならない。それを正確に、素早く描いていく。
そして、お兄と私の魔法陣が重なって白く光る。
「「イクリプス!! 」」
体から凄まじい魔力が放出される。空で煌々と輝いていた月の光が暗くなり、辺りが神秘的な闇に包まれた。そして、四方八方で白く輝く大爆発が起こる。
地面に広大な穴が開き、その範囲にいた魔物は一掃される。だが、人間は何事もなかったかのように動き回っていた。
続いて、新たな魔法陣を描く。
小さい頃からずっと魔法遊びを繰り返してきた私たちは、息ぴったりだ。お兄と同じ特大魔法陣を描き、再びそれらが重なる。それらは水色に輝き、
「「ビーム!! 」」
眩い水色の光線が、首都の周りを一周する。その光線は味方を避け、魔物を真っ二つに切り裂いていく。
こうやってお兄と私は、おそらく『伝説の魔法』と呼ばれるものを次々に放っていった。それで多くの魔物をやっつけることが出来たが、取り逃がしたものもある。上手く私たちの魔法を避けた魔物は、騎士団と魔術師団によってとどめをさされるのだった。
特大の魔法陣を描き、全力で魔法を撃った。そのため、さすがの私もへとへとだった。もう立てないほどに消耗した私の前で、ブルーグレーのマントを翻したスタンが、また魔物を一体倒している。
「まだ魔物はいるか? 」
スタンの声が響き、
「あと残り三体です!! 」
部下が答える。
「それならば、我らで片付けよう」
彼はそう言い、魔物の血で染まった剣を上げた。
スタンの言葉は嬉しかった。全力で魔法を撃った私には、残り僅かな力しか残っていない。そして、まだピンピンしているスタンを頼もしく思う。
お兄がヘタレて、私の隣に腰を下ろす。私もがくっと地面に両膝を突いたときだった。
体に衝撃が走り、目の前が真っ白になった。
何が起こっているのか理解するまでもなく、私の意識は遠のいていった。
意識が完全に途切れる前、
「エルザ!! 」
大好きな彼が私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「スタン……」
彼の名を呼ぶが、その声が彼の耳に届くことはなかった。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




