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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第三章

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祭りの後の大パニック

 特大の花火が打ち上がり、火の粉がきらきらと落ちていった。それが消え、辺りは静寂に包まれる。遠くから人々の歓声が聞こえている。


 祭りはもう終わりだ。だが、祭りが終わってから、治安は一気に悪くなる。街には酔っ払いが溢れ返り、若い女の子を襲う。もちろん犯罪者や、留守を狙った空き巣も頻繁する。だから、警備の者はこれからが本番だ。



「エルザ、僕はもう行かなきゃ。

 家まで送ってくよ」


「お兄も警備で、家には誰もいないよ? 」


 私は半ば期待していた。もちろん、すごい期待ではない。


 (せめて、騎士団にでも連れていってくれればなぁ……)


 スタンは私を見て、愛しそうに笑う。目がふにゃあっと細くなり、口角が上がる。


「それじゃあ、騎士団まで連れて行こうか?

 でも僕は勤務になっちゃったから、もう変装は使えない」


 彼は切なげに呟くと、ピアスの飾りを引っ張った。それは耳元からプツッと取れ、スタンは青いもやに包まれる。そして瞬く間に銀色の髪が夜空に煌めいた。


「うーん……それなら無理かなぁ? 」


 美しすぎる本当の姿の彼を見て、真っ赤になる。だが、彼は困ったように私に告げた。


「もうそろそろ決心してよ。

 僕もそろそろ、エルザを連れて堂々と歩きたいよ」


 (その言葉は嬉しい。でも……)


 街の人々の反応を想像するだけで怖い。

 前世でも、アイドルに恋人がいることが発覚すると、恋人やアイドル自身が叩かれていた。結婚なんてすると、人気がガタ落ちだ。私のせいで、スタンにそのようになって欲しくない。





 その時、突如として鐘が鳴った。危険を知らせる鐘の音だ。そして、遠くから魔物の鳴き声が聞こえる。

 私はスタンと顔を見合わせていた。


「エルザ。危険だから家に帰って!」


 スタンはそう叫び、人々が慌てて走り始めた近くの道を指さす。


「大通りを人とともに帰ったら、悪人にも会いにくい。騎士もたくさんいる」


「でも……」


 私は、赤く光る魔石を取り出した。


「私も招集されているみたい」


 (非常勤の魔術師が招集されるということは、強敵なの!? )


 もちろん、招集されたからには行かないわけがない。以前の戦いで分かった。私は魔術師として確かに力があるし、人の役に立てるはず。見捨てられている非常勤魔術師の中では、トップクラスに出来るだろう。


 それなのに、


「駄目だよ」


スタンは泣きそうな顔をする。


「エルザに何かあったら、僕は生きられない」


「そんなことないよ!! 」


 私はスタンをしっかり見つめ、その手を握っていた。


「私は、スタンに釣り合う人間になりたいの。

 私を行かせて!! 」




 沈黙が舞い降りる。私たちの沈黙とは裏腹に、大通りは大パニックとなっていた。人々は危険を知らせる鐘の音に恐れ慄き、全速力で家へ走っている。子供の泣き叫ぶ声だってする。


「……分かった。でも、約束して?

 ロランの言う通り、必ず姿変すること。敵の近くには近付かないこと」


 私はこくりと頷き、ロランからもらったブレスレットに飾りを付けた。……スタンとお揃いの飾りだった。


 その瞬間、私の髪が金色に輝き、目が赤色に染まる。スタンは驚いて私を見て、愛しそうに笑った。


「可愛い。でも、普段通りのエルザのほうがいい」


 そして急に真剣な顔になり、少し緊迫した声で告げた。


「僕は大至急現場に向かう」


 そのまま、いきなりお姫様抱っこされる。体をふわっと持ち上げられ、目の前には大好きなスタンの顔。そのままスタンは軽く額にキスをして、走り始めようとする。


 (わぁ……なんだかお姫様になった気分)


 真っ赤な顔を覆いながらも、このままスタンの邪魔をしていてはいけないと思う。私はスタンの体から離れているほうの手で、すっと魔法陣を描いた。すると魔法陣からは勢いよく風が吹き出し、スタンの体が浮かび上がる。


「!? 」


 バランスを崩したスタンは、私を抱く手にさらに力を込めた。そのままスタンの体は空高く上がり、ニーズの街を一望する。


 驚くことに、ニーズの街は魔物に取り囲まれていた。人間よりもずっと大きな魔物の影があちこちに見え、所々火柱が上がったり雷が落ちたりしている。


「どうして……?

 こんなに魔物に囲まれること、今までなかったよ」


 スタンの声が掠れている。


「エルザ、僕をあそこに運んで。

 きっとあそこには、フィリップさんもいる」


 スタンはとりわけ多くの魔物が集まっている場所を指さす。そこでは頻繁に魔法が発動され、その部分だけ昼間のように明るく輝いている。


 私は頷き、魔法陣に書かれた呪文の文字を変える。すると、風の向きが変わり、私たちをスタンの指差したほうへと運び始める。


「ありがとう、助かったよ」


 スタンは甘く囁き、また額にキスをした。顔がぼうっと熱くなる。


「でも、エルザ。絶対に無茶しないでね? 」


 無茶も何もない。私をお兄のもとへ運ぶということは、そういうことだろう。私は全力で魔法を撃ってもいいということだ。




いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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