騎士団長は、結婚したい
スタンは困った顔で、ダミアンとロランを見た。だが、二人ともこくりと首を縦に振る。
「本当にいいの? 」
何度も確認するスタンに、イラついたようにダミアンが言う。
「煮え切らない男め。
ハッキリしない男は嫌われるぞ!? 」
その瞬間、スタンは二つのペンダントを、スパッとひと斬りで真っ二つに割った。青黒いペンダントからは禍々しい霧がシューッと吹き出し……そしてやがて、ただの黒い石となった。
それを見ていると、ホッとしたような少し悲しいような気持ちに襲われる。
(形見は無くなったけど、両親の思い出は胸の中に生きているよ)
「これで、革命軍が全治全能の石を求めることも無くなったな。
もう、この世には存在しないのだから」
安心したようにダミアンが告げた。
それから、私たちはいろんな話をした。
皆が私たちを見つけてから現在に至るまで、たくさんの話を。
洞窟から飛び出した私たちを見つけたのは、騎士たちだった。彼らは大急ぎで神官を呼び、ロランが駆けつけた。ロランは魔法陣によって私たちを大聖堂へ飛ばし、治療を行う。
神官の中では、紛れもなくロランの力が一番強い。そのロランが必死に治療して、体の傷は何とか治癒した。だが、どう頑張っても焦げた髪だけは戻らなかった。
それを知ったスタンが、ロランに怒り狂っていたらしい。ロランがいなかったら、私たちは死んでいたかもしれないのに。
ダミアンとお兄が、革命軍が使っていた洞窟を調査した。生き埋めにされた人が多数おり、皆で救助をした。捕まった者は現在、牢屋に閉じ込めてある。
革命軍の中には、軍で楽しく過ごしているダミアンとお兄を見て、考え方を改めた者もいるとのことだ。すぐに解放とはいかないが、遠い未来、彼らがこの軍のためにその力を使ってくれればいいと思っている。
「エルザが正しい心を持った人で良かった。
スタンもいい相手を見つけたな」
ダミアンは裏表のなさそうな笑顔で私を見ている。そんなダミアンを見ながら、ふと思った。
私はダミアンが大の苦手だったが、今やとても信頼していることに気付く。
(不思議だな。あんなに嫌だったのに……)
ダミアンをぼーっと見ていると、頬を膨らませたスタンに聞かれた。
「エルザ、なんでダミアンのほう見てるの? 」
「えっ!? 」
咄嗟の質問にどぎまぎする私。こんな私をまた抱きしめ、好きだ好きだというように頬ずりし、甘い声で囁くスタン。
「ダミアンがいい男なのは分かるけど、エルザを一番愛してるのは僕だよ?
僕以外の男を、そんな目で見ないでよ」
「まさかスタン、嫉妬してるの!?」
思わず聞くと、彼は恥ずかしげもなく言い放つ。
「当然じゃん。嫉妬するに決まってるじゃん!
エルザは可愛いから、そうやって男が寄ってきて……」
「ちょっと待って……」
私は震える声で、スタンに告げていた。
「その言葉、そっくりそのままスタンに返したいよ」
元はと言えば、スタンは絶対零度の青狼スタニスラスだ。初めて出会ったその日から、ファンにきゃあきゃあ騒がれていた。異性が寄ってくるのは、むしろスタンのほうだ。
複雑な顔をする私の前で、スタンは急に背筋を伸ばし、お兄を見る。そして、真剣な顔で告げた。
「フィリップさん。僕は、エルザが人気者すぎて不安です。
エルザとの結婚の許可をいただけますか? 」
「「えっ!? 」」
お兄と私の声がハモっている。
予想外の言葉を聞いた私は大慌てだ。
「ち、ちょっと待って。なんでいきなりそこまでぶっ飛んだわけ?
あっあのね、スタン!私たちはまだまだキスだってしていないのに……」
そう言って、さらに恥ずかしくなって口を押さえる。
(キス!? スタンとキス!?
そんなことをした、私、くらくらして倒れてしまいそう)
だが、スタンはすでにその気らしい。そのゾッとするほど綺麗な顔で、にやっと笑った。
「キス? してるよ? 」
(……えっ!? )
まさか、ほっぺにチュとか、おでこにチュのあれのことを言っているのだろうか。それだけで、もちろんドキドキしてしまうことには変わりないが……
深く考え込む私に手を伸ばすスタン。そしてそのまま、そっと唇を重ねた。柔らかい唇の感触とスタンの甘い香りに、頭がくらくらする。倒れてしまいそうなほど、顔が熱い。
スタンがそっと唇を離すと、皆が真っ赤な顔でこっちを見ている。ダミアンに至っては、目を両手で覆い、その隙間から見ているほど。
(み……みんなの前でするなんて!
ファーストキスだったのに!! )
「スタンの馬鹿ぁぁああ!! 」
私は大声が、青い空に響き渡っていた。
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