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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第三章

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お店屋さんに憧れる騎士団長

 忙しくしていると、この店にもスタニスラス騎士団長の噂が飛び込んでくる。


「ねぇ、エルザ知ってる? 」


 会計をしながら、アリスさんが私に言う。私は料理を作りながらアリスさんに耳を傾けた。


「スタニスラス、恋人がいるらしいよ? 」


 その瞬間、吹き出しそうになる。


「ででででもッ!! 恋人と限ったことではないんじゃないですか!? 」


 私は必死だ。


「ほ、ほら!誓いを拒否されたなんて、グレ……騎士さんが言っていたし!! 」


 慌てて付け加える。そして、それがまた私の胸を締め付ける。騎士の誓いがどのようなものか知っていれば、あの時拒否なんてしなかった。彼のプライドをへし折ることなんてしなかった。


「そうよね……色んな噂が広まってるから、何が本当か分からないわね」


 悩ましげにアリスさんは言う。


「でも、スタニスラスに恋人がいるなら、きっととても美しい人なんでしょうね」


 (やっぱりそうなるよね……)


 私なんかが恋人ですと出て行ってしまったら、「何あの女」「普通のくせに生意気な」「スタニスラス様の横に立つな」なんて言われるに決まっている。考えれば考えるほど、釣り合わないと思ってしまうのだった。


 アリスさんだって、態度を変えるかもしれない。あんたなんていらないと、退職させられるかも……


 悪い妄想ばかりが流れていった時だった。





「エルザ、お待たせ!遅くなってごめんねぇ」


 大好きなその声が聞こえる。


 (このタイミングで来ちゃうの!? )


 意気消沈して彼を見ると、彼はいつもの私服……ではなく、騎士服を着ているではないか。だが、茶髪姿に変装している。そして、騎士団長の紋章は外してある。


「す……スタン。……大丈夫なの、色々? 」


 びっくりして聞いた私に、彼はいつもの笑顔で答える。


「大丈夫じゃないかもぉ。

 勤務時間外も制服でいなきゃいけないのはエルザと同じだし……

 でも、僕はエルザに会いたくて会いたくて仕方がなかったんだよぉ」


 そうやって、子犬のように全力で嬉しそうな顔で見ないで欲しい。これでもいいかと思ってしまうから。

不覚にも真っ赤になってしまう私を見て、アリスさんがいいよねぇ、なんて言う。


「そういえば、スタニスラスには恋人がいるとか、誓いを拒否されたとか噂が回ってるじゃん。

 スタンさんもエルザに誓ったの? 」


 私は思わずアリスさんを凝視していた。

 今、なぜこのタイミングでスタンに聞いてしまったのだろう。私はスタンにちゃんと謝らなきゃいけないと思っていたのに、タイミングが悪すぎる。


「……えっ!? 」


 案の定、スタンは挙動不審だ。だから慌てて言う。


「ご、ごめんスタン。気にしないで」


 そして話題を変えようと必死に探したのだが……



「それはもちろんです」


 スタンは口元を緩め、幸せそうに笑う。


「エルザに拒否権なんてありません。

 エルザが何と言おうと、僕はエルザと共にいると決めたんです」


 (……は!? めちゃくちゃ開き直っている)


 あんぐりと開いた口が塞がらない。心配した私が馬鹿みたいにすら思う。だが、スタンのまっすぐな言葉を聞いていると、スタンに会ってしまうと、ファン全員を敵に回してもスタンと一緒にいたいと思ってしまう。


「ふふ、ありがとう」


 思わず笑ってしまう。だが、誓いの件はやはり謝ろうと思うのであった。




「それじゃあエルザ、スタンさんとデートに行ってらっしゃい」


 アリスさんは笑顔で送り出してくれるが、店の前には延々と行列が出来ている。……というのも、前世の記憶を持つ私が、屋台といったらこれでしょと提案したかき氷が大人気なのだ。これはただのかき氷ではなく『推し氷』という名前だ。もちろん味は、スタニスラスのブルーハワイ味、ダミアンのイチゴ味、ロランのレモン味、そして茶虫のチョコレート味だ。

 もちろん、推し氷の他に、スリースターズ&茶虫グッズも売られている。


「アリスさん……本当にいいんですか? 」


 聞くと、


「いいっていいって!」


アリスさんは笑顔で言うが……


 (良くないよね、これ)


 こんな状態で店を放り出すのは罪悪感いっぱいだ。だが、スタンが目を輝かせて変なことを言い始めたのだ。


「僕、ずっとお店屋さんに憧れてたんだよね!

 僕もちょっとだけしてみていい? 」


「「えっ!? 」」


 私とアリスさんは、驚きの表情でスタンを見る。優しいスタンのことだから、気を遣ってくれているのかと思ったが……

 その目は本当にキラキラしていて、まるでおもちゃを前にした子供のようだ。


「……えっ? 本当にいいの、スタン? 」


 アリスさんが心底申し訳なさそうにスタンに聞くが、スタンは目を輝かせたままこくこくと首を振る。

 そんなわけで、急遽スタンが出店を手伝ってくれることになったのだ。


 スタンが手伝ってくれるのは嬉しいが、何だか嫌な予感がする。この店にスタニスラスがいると知ったら……しかも、変装していることがバレたら……どうすればいいのだろう。

 私は魔法陣を描きながら、そんなことばかり考えていた。


いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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