お店屋さんに憧れる騎士団長
忙しくしていると、この店にもスタニスラス騎士団長の噂が飛び込んでくる。
「ねぇ、エルザ知ってる? 」
会計をしながら、アリスさんが私に言う。私は料理を作りながらアリスさんに耳を傾けた。
「スタニスラス、恋人がいるらしいよ? 」
その瞬間、吹き出しそうになる。
「ででででもッ!! 恋人と限ったことではないんじゃないですか!? 」
私は必死だ。
「ほ、ほら!誓いを拒否されたなんて、グレ……騎士さんが言っていたし!! 」
慌てて付け加える。そして、それがまた私の胸を締め付ける。騎士の誓いがどのようなものか知っていれば、あの時拒否なんてしなかった。彼のプライドをへし折ることなんてしなかった。
「そうよね……色んな噂が広まってるから、何が本当か分からないわね」
悩ましげにアリスさんは言う。
「でも、スタニスラスに恋人がいるなら、きっととても美しい人なんでしょうね」
(やっぱりそうなるよね……)
私なんかが恋人ですと出て行ってしまったら、「何あの女」「普通のくせに生意気な」「スタニスラス様の横に立つな」なんて言われるに決まっている。考えれば考えるほど、釣り合わないと思ってしまうのだった。
アリスさんだって、態度を変えるかもしれない。あんたなんていらないと、退職させられるかも……
悪い妄想ばかりが流れていった時だった。
「エルザ、お待たせ!遅くなってごめんねぇ」
大好きなその声が聞こえる。
(このタイミングで来ちゃうの!? )
意気消沈して彼を見ると、彼はいつもの私服……ではなく、騎士服を着ているではないか。だが、茶髪姿に変装している。そして、騎士団長の紋章は外してある。
「す……スタン。……大丈夫なの、色々? 」
びっくりして聞いた私に、彼はいつもの笑顔で答える。
「大丈夫じゃないかもぉ。
勤務時間外も制服でいなきゃいけないのはエルザと同じだし……
でも、僕はエルザに会いたくて会いたくて仕方がなかったんだよぉ」
そうやって、子犬のように全力で嬉しそうな顔で見ないで欲しい。これでもいいかと思ってしまうから。
不覚にも真っ赤になってしまう私を見て、アリスさんがいいよねぇ、なんて言う。
「そういえば、スタニスラスには恋人がいるとか、誓いを拒否されたとか噂が回ってるじゃん。
スタンさんもエルザに誓ったの? 」
私は思わずアリスさんを凝視していた。
今、なぜこのタイミングでスタンに聞いてしまったのだろう。私はスタンにちゃんと謝らなきゃいけないと思っていたのに、タイミングが悪すぎる。
「……えっ!? 」
案の定、スタンは挙動不審だ。だから慌てて言う。
「ご、ごめんスタン。気にしないで」
そして話題を変えようと必死に探したのだが……
「それはもちろんです」
スタンは口元を緩め、幸せそうに笑う。
「エルザに拒否権なんてありません。
エルザが何と言おうと、僕はエルザと共にいると決めたんです」
(……は!? めちゃくちゃ開き直っている)
あんぐりと開いた口が塞がらない。心配した私が馬鹿みたいにすら思う。だが、スタンのまっすぐな言葉を聞いていると、スタンに会ってしまうと、ファン全員を敵に回してもスタンと一緒にいたいと思ってしまう。
「ふふ、ありがとう」
思わず笑ってしまう。だが、誓いの件はやはり謝ろうと思うのであった。
「それじゃあエルザ、スタンさんとデートに行ってらっしゃい」
アリスさんは笑顔で送り出してくれるが、店の前には延々と行列が出来ている。……というのも、前世の記憶を持つ私が、屋台といったらこれでしょと提案したかき氷が大人気なのだ。これはただのかき氷ではなく『推し氷』という名前だ。もちろん味は、スタニスラスのブルーハワイ味、ダミアンのイチゴ味、ロランのレモン味、そして茶虫のチョコレート味だ。
もちろん、推し氷の他に、スリースターズ&茶虫グッズも売られている。
「アリスさん……本当にいいんですか? 」
聞くと、
「いいっていいって!」
アリスさんは笑顔で言うが……
(良くないよね、これ)
こんな状態で店を放り出すのは罪悪感いっぱいだ。だが、スタンが目を輝かせて変なことを言い始めたのだ。
「僕、ずっとお店屋さんに憧れてたんだよね!
僕もちょっとだけしてみていい? 」
「「えっ!? 」」
私とアリスさんは、驚きの表情でスタンを見る。優しいスタンのことだから、気を遣ってくれているのかと思ったが……
その目は本当にキラキラしていて、まるでおもちゃを前にした子供のようだ。
「……えっ? 本当にいいの、スタン? 」
アリスさんが心底申し訳なさそうにスタンに聞くが、スタンは目を輝かせたままこくこくと首を振る。
そんなわけで、急遽スタンが出店を手伝ってくれることになったのだ。
スタンが手伝ってくれるのは嬉しいが、何だか嫌な予感がする。この店にスタニスラスがいると知ったら……しかも、変装していることがバレたら……どうすればいいのだろう。
私は魔法陣を描きながら、そんなことばかり考えていた。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




