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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第三章

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推しが忠誠を誓った話

 グレイさんの言う通り、数日後に非常勤の魔術師にも通達があった。魔術師団員として、夏祭りの警備に当たるという通達だ。だが、それは紙切れ一枚の手紙であり、無視することも容易そうではあった。

 しかも、警備の内容もさすが非常勤。ただ魔術師団のローブを着て祭りに参加し、怪しい人がいれば正規の団員に通報するという、生優しいものだった。


 (言い換えれば、初めから期待されていないということだよね)


 ただ、今の私には、騎士や魔術師の知り合いがたくさんいる。彼らが毎日治安維持をしていることも知っているため、夏祭りは警備に参加しようと思う。


 



 そうこうしているうちに、夏祭りの日となる。


 広場にはステージが作られ、大きな櫓みたいなものも出来ている。騎士たちも、正規の魔術師団員たちも朝早くから忙しそうに駆け回っていた。


 ダミアンは、相変わらずファンを伴って闊歩していた。そして、すれ違う部下たちに指示を出している。


 ロランは、祭り会場の救護室にて待機している。わざと怪我をしたと言い、ロランの治療を求めるファンが列を成している。


 そしてスタンは……



「い、いたよ。スタニスラス様」


 そんな声が耳に入り、私は居ても立っても居られない。ミーハーな女性の後ろから、遠くにいるスタンを見ている。


 ブルーグレーのいつもの騎士服を着た彼は、いつものように歓声もものともせず、ゆっくりこちらへ歩いてくる。私はささっとものかげに隠れた。


 こうやって周りからきゃあきゃあ言われているのを見ると、改めてすごい人と知り合ってしまったと思う。いや、知り合いだけでなく、今の私たちの関係は恋人だ。

 ……恋人? お互い特別な感情を持ってはいるが、交際していると言ってもいいのだろうか。私、スタンの誓いを拒否してしまったのに……考えれば考えるほど気持ちが沈む。


「スタニスラス様ぁぁああ!! 良かったら、このお菓子食べてくださいッ!! 」


 前世の私のように、手作りのお菓子まで渡そうとする猛者が出てくる。


 (あー……迷惑なやつだ……)


 内心ため息をつく。そして、絶対零度の青狼スタニスラスのことだ。それすら黙殺するに決まっている。


 そう思ったが……


「悪いが、受け取れない」


 彼はピシャリと言い放った。


 (えっ!? 騎士モードのスタンが、ファンと話すことなんてあるんだ)


 思わずファンたちの後方から、彼のほうを覗き込んでしまった。


「私には忠誠を誓った人がいる。

 彼女の作るもの以外、口にするつもりはない」


 そして、真っ赤な顔で見ている私を見て、愛しそうに目を細めた。


 ピシャァァァアア!!! と、頭に雷が落ちた気分だった。もちろんその言葉は嬉しいが、それよりもツッコミどころは多数ある。


 (結局、忠誠を誓ったことになってるの!?

 しかも、それ、交際宣言しちゃっているようなものじゃん!!)


 嬉しい。ファンをものともせず、毅然とした態度を取ってくれているのはとても嬉しい。だが、ファンにバレた時のことを考えると、ゾッとする。



 色んな意味でドキドキしている私とは違い、ファンは悲痛な叫び声を上げる。なかには泣き出してしまう人もいる。


「そ……その人は、どんな人なんですか!? 」


 震えながら聞くファンに、彼は相変わらず冷静に告げた。


「何事にも一生懸命で、人を助けるためには自分の命すら惜しまない。

 とても料理上手で、使命感にも溢れており、私の全てを受け入れてくれている」


 (……え!?

 スタン、私のこと、そんな風に思っていたんだ)


 だが、スタンの言うほど私は出来た人間でもない。スタンの話を聞くと、どんなに神格化されてしまったのかと驚くばかりだ。

 スタンは強いしかっこいいし、人気者だし。それに比べて私なんて……といつも卑屈になっている。


「そんな人に敵うはずないじゃん!! 」


 どんな人物を思い描いているのだろう。ファンが悲痛な声を上げるが、スタンは静かに告げた。


「私だって、彼女には敵わない」


 (そんなこと、全然ないのに……)


 素直にスタンの言葉は嬉しかった。顔が真っ赤になって、しゃがみ込んで顔を押さえている。だが、同時に不安でもあった。スタンの言う『彼女』が私だとバレた時……皆は何を思うのだろう。





 絶対零度の青狼スタニスラス騎士団長が忠誠を誓ったという話は、瞬く間に広まった。そしてそれがおそらく恋人であろうと誰もが噂している。人々は悲痛な叫び声を上げているのだった。


 そして、私といえば……


「悪いねぇ。結局、店を手伝ってもらうことになって」


「いいんです。どうせ暇なのですから!」


 非常勤の魔術師団員の仕事は、『ただ制服を着て祭りに参加し、危険があれば正規団員に知らせる』こと。つまり、『好きにしていい』ということだった。

 騎士団長のスタンは、もちろん本気の警備の仕事がある。そのため、彼の勤務中は一緒にいられない。だから私は、指示通り魔導師団のローブを着て店頭に立っている。


「エルザちゃん、魔導師団だったんだねー!」


 多くの常連さんに言われ、


「非常勤なんですけどね、えへへ」


なんて返すやり取りが延々と続いた。そして内心、ホッと胸を撫で下ろしている。


 (私が茶虫妹ということも、メテオを放ったことも、スタンに忠誠を誓われたということも、バレていない)


 お客さんの多くは私が非常勤の魔術師だと聞き、二言目にはこう言う。


「魔術師団なんてすごいのね!

 あっ、でも、非常勤の魔術師ってすごく楽でダミアン様にも会えるって聞くよね。

 いいわよね、エルザちゃん!」


「そ、そうなんですぅ。……あっ、ダミアン様推しうちわ、いかがですか!? 」


 なんて言って、ここぞとばかりに赤うちわを押し売りしていた。



 何事もなく過ぎ去っていく夏祭り。

 私はいつものように会場のテントの下で忙しく魔法を使う。もちろん、バレないようにテントの一番奥で小さな魔法陣を描きながら。



いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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