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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第三章

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夏祭りと、彼の猛アピール

 首都ニーズに来てもうすぐ半年。

 私はすっかり都会暮らしに慣れ、毎日楽しく過ごしている。





「すみません。茶虫パフェ一つと、青狼パフェ四つお願いします」


 いつものように騎士がパフェを買いに来て、


「ありがとうございます」


私は意気揚々とそれを作る。今日の買い出し担当の騎士は、グレイさんだ。そしてグレイさんも他の騎士同様、私とは他人のふりをしていたのだが……


 とうとう黙りきれなかったみたいで、言ってしまった。


「店員さん、知っています?

 ウチの団長が、騎士の誓いを拒否されたらしいですよ? 」


「!!!? 」


 咄嗟に仰け反った私。そして、すかさずアリスさんが飛び出してくる。


「ウチの団長って、スタニスラス様だよね!? 」


「えぇ、まぁ……」


 予想外の人物の登場で、グレイさんの目は泳いでいる。


「スタニスラスほどの人が誓うって、一体誰に? 」


 興味津々のアリスさんに、私ですと言えるはずもない。そしてグレイさんははぐらかそうと必死だ。


「じ……自分もよく分かりませんが……」


 だが、アリスさんの妄想は酷かった。……というより、スタンの誓いを拒否した自分がいかに愚かなのか思い知らされた。


 アリスさんはべらべらと喋る。


「騎士って、生涯一人の人にしか誓わないんでしょう!? そしてそれって、プロポーズよりももっと重いものなんでしょう!? 」


 衝撃が体を走る。


「誓いを拒否されると、その騎士はプライドをへし折られたも同然っていうか……」


 あぁ……私、スタンが意を決して誓ったのに、なんてことをしてしまったのだろう……


「それにしても、スタニスラスの誓いを拒否するだなんて、嘘じゃない!?

 もしそんな人がいるのなら、私がボコボコに殴ってやりたい!! 」


 私です。なんてこと、言えるはずもなかった。

 あれからスタンは全く普通に接してくれているけど、きっと傷ついているのだ。


 アリスさんの鼻息がすごかったため、グレイさんは随分気後れしていた。そして苦笑いして告げる。


「そうそう、きっと自分の聞き間違いでした」




 その瞬間、ばーんとドアが開き、見たことのある人が入ってくる。茶色い髪に清潔なシャツ姿の彼を見て、焦るようにグレイさんは口を開ける。


「あ、団ちょ……」


 その瞬間、彼は笑顔でグレイをスパーンと突き飛ばす。そして、わざとらしく謝った。


「すっ、すみません!! 見えていなくって!! 」


 (あぁ……絶対わざとだ……)

 

 私は頭を抱えていた。

 こんな私、実は先ほどの誓いの拒否の話を引きずっている。スタンに合わせる顔もないのだ。だが、必死に平静を装う。


「いらっしゃいませ。……どうしたの? 」


 そう聞く私に、スタンは笑顔で言う。


「もうすぐ夏祭りでしょ? やっと勤務体制が決まってね」


 そしてスタンは、少し頬を染めて私に言う。


「もし良かったら僕が非番の時間……あの……夏祭りを一緒に……」


 なんだかもじもじするスタンが愛しくて、満面の笑みで頷こうとしていた。


 (デート……だと思っていいんだよね? )




 ……が。


「あら。うちの店も、夏祭りで出店しようと思ってたのよ」


 アリスさんが困ったように言う。


「それなら私も、店に出なきゃいけないですね」


 スタンには申し訳ないが、仕事をサボるわけにはいかない。それは私が前世仕事に燃えるOLだったからかもしれないが……


 だが、アリスさんは寛大だ。


「何言ってんのよ、せっかくの夏祭りよ。仕事なんてせずに、スタンさんとデート楽しんできてらっしゃい!!」


 その言葉が嬉しすぎる。忙しいことは分かっているのに、アリスさんは肝心の時に私を応援してくれるのだから。


「い……いいんですか? この御恩は絶対に返します!」


 深々と頭を下げた時……隣で聞いていたグレイさんが、気まずそうに告げる。


「あっ……でも……

 最近治安が悪いので、非常勤の魔術師も警備に繰り出されるのじゃありませんでした? 団ちょ……」


 スタンが思いっきりグレイさんを睨むから、グレイさんは慌てて言い直した。


「す、スタンさん!! 」


 (そうなんだ。そんなこと知らなかった。)


 だが、騎士団の勤務体制が決まったばかりだ。非常勤の勤務体制が決まるのも、もう少しかもしれない。


「そっかぁ。じゃあ、制服デートでもするかぁ……」


 物騒なことを言い始めたスタンに、


「しません!! 」


私は慌てて拒否をする。

 制服デートというのは、騎士服と魔術師団のローブのことだろう。騎士服=青狼だ。


 (そんなことをすれば、ファンからの集中砲火に合ってしまう……)


 落ち込む私を前に、アリスさんがスタンに聞く。


「スタンさんももしかして、魔術師団の人なの? 」


 すると、言いにくそうに彼は答えた。


「いや……騎士のほうなんですけどね……

 あっ。でも僕は弱いし、下っ端だし……」


 私はグレイさんと苦い顔を見合わせている。


 (本当に、スタンはバレた時、どうするつもりなんだろう。

 ああいう言い方をするから、私だってスタンがスタニスラス騎士団長とは思ってもいなかったのに)




 それなのに、アリスさんは過剰に反応する。


「騎士!? スタンさん、騎士団の人なんだ!!

 すごいわねー!!私、騎士なんかに手ぇ届かないわ……」


「ありがとうございます。……でも、そんなこと全然ないんです」


 にこにこと謙遜するスタン。もう、聞いている私のほうがハラハラしてしまうのだった。

 

 (騎士と聞くだけでこの対応なのに、騎士団長スタニスラスと知った時……

 そんなこと、考えるだけで恐ろしくなるよ)



 挙げ句の果てに、スタンは


「今度勤務中に買い出しに来ますから!」


なんて言い始めて、


「来なくていいから!! 」


慌てて拒否をした。


 (スタニスラスが買い物に来てしまったら、大騒ぎになるでしょう!? )


 秘密の恋を続けるには、頭が痛くなるような苦悩が必要なのであった。



いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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