彼の甘い誓い
私は、人の死に立ち会ったことがない。両親も知らないうちに亡くなっていたし、死とは無関係の場所で生きてきたからだ。
だが、スタンは日々死と隣り合わせで生きている。
「一生償うから……」
スタンはベッドのシーツをくしゃっと握って、決意したように言う。
「この恩は、一生かけて返すから……」
「何言ってるの!? 大袈裟な」
私は努めて笑顔を作る。だが、こんな笑顔、スタンにとっては何の慰めにもならないらしい。
スタンはベッドをするりと抜け出すと、ベッド脇の椅子に座っている私の前に片膝を突いてしゃがみ込む。ブルーグレーのマントがひらりと翻った。
彼は私の左手を大切そうに取り、凛とした声で告げる。
「スタニスラス・シュヴァリエは、いかなる時も剣となり、盾となり……
命尽きるまで、エルザ・リヴィエールを全力で守ることを誓います」
慌てた私は、咄嗟に言っていた。
「いや、大丈夫よ」
「……は!? 」
いつもは穏やかなスタンだが、顔に怒りマークが見え隠れしている。もちろん私は騎士の誓いがどのようなものか知らなかったし、スタンの気持ちを軽くしようとの一心だった。
私が好きで願ったことだし、スタンは罪悪感を持つこともない。
「私を守ってスタンが死んじゃったら、悲しむのは私じゃん」
「でっ、でも!僕は騎士だし、大切な人に命を捧げるのは当然でしょ!?」
まさか誓いを拒否されると思ってもいなかったスタンは、慌てに慌てている。
「スタンは死んじゃだめなの!! 」
「エルザだって!! 」
必死に言い合いをして、そして笑う。
こんな幸せがずっと続きますようにと願わずにはいられなかった。
ずっとずっと、スタンと笑い合っていられますようにと……
再びコホンとロランが咳払いをし、ひいいいっと飛び上がるスタンと私。
(また、人前でやってしまった……)
ずどーんと落ち込む私に、ロランは告げる。
「エルザさんにも姿変のアクセサリーを作っておきましょう。
今回はスタンさんが狙われましたが、エルザさんがリヴィエール家の末裔だと知られれば、エルザさんも狙われるでしょう。
現在の姿が知れ渡っているエルザさんは、日常生活はそのまま過ごされてください。そして、伝説の魔法を使う可能性がある時だけ、姿変してください」
「わかりました。ありがとうございます」
ロランに礼を言う私の隣で、スタンがロランに頼み込む。
「ロラン。僕のとお揃いにしてね」
その瞬間、
「絶対嫌!! 」
声を張り上げていた。スタンはビクッと飛び上がる。
「だって……だって……」
スタンとお揃いのピアスを付けた時の周りの反応を想像すると、恐怖が沸き起こってくる。私はファンに囲まれ、それこそ命がなくなるだろう。
明らかにしゅんとしているスタンに、まあまあとロランが声をかける。
「スタンさん。人気者の君には分からないでしょうが、エルザさんだってたくさん悩んでおられるんですよ。
あなたは勤務中、ストーカーのようにエルザさんを凝視していますが、決して声をかけないのはなぜだか分かっていますよね? 」
「……分かってるよ」
スタンは恨めしそうに頷くのだった。
こんなわけで、元気になった私とスタンは大聖堂を後にする。
「ねえ、エルザ。
そのペンダントは危険だから、僕が持っていることにするよ」
スタンがあまりにも悲しそうだから、渋々それをスタンに渡す。
(……といっても、スタンの寿命が縮まってしまったら困るんだけどなぁ)
だが……
「ゔっ……重い……」
誰よりも力はあるはずのスタンなのに、ペンダントはまるで引きつけられるように地面に落ち、そこから離れない。
(……重い? )
信じられない私が持ち上げると、それはいつものように軽々持ち上がった。
「どうやら、選ばれた人しか持てないようだね」
苦い顔でスタンが言う。
「それならエルザが持つしかないけど……決して使わないで? 」
スタンは悲しげな顔をし、小指を立てる。私は頷きその小指に自分の小指をかけた時……
「スタニスラス様ぁぁぁあああ!! 」
周囲から聞き慣れた黄色い悲鳴が響き渡った。
私は飛び上がり、咄嗟に辺りを見回した。すると、なんと青うちわを持った女性たちに囲まれているではないか!!
(しまった!! 何も考えずに、スタンと一緒に大聖堂を出てしまった!!)
時すでに遅し。このままだと、私はファンから大ひんしゅくを買うだろう。
(こうなったら捨て身だわ!! )
私はさっと青うちわを取り出した。スタンの顔がみるみる青ざめる。そして私は、わざと目をハートにして大声で叫んでいた。
「スタニスラス様ぁぁあああ!!
あなたとゆびきりげんまん出来るなんて、私ッ、最高に幸せですぅぅぅうう!!! 」
スタンはくるっと背を向けて、全速力で逃亡を始めた。その後を、ファンたちが全速力で追いかける。
(ごめん、こうするしかなかったの)
私はスタンとファンたちが消えた大通りを、ずっと眺めていた。
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