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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第二章

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彼の甘い誓い

 私は、人の死に立ち会ったことがない。両親も知らないうちに亡くなっていたし、死とは無関係の場所で生きてきたからだ。

 だが、スタンは日々死と隣り合わせで生きている。


「一生償うから……」


 スタンはベッドのシーツをくしゃっと握って、決意したように言う。


「この恩は、一生かけて返すから……」


「何言ってるの!? 大袈裟な」


 私は努めて笑顔を作る。だが、こんな笑顔、スタンにとっては何の慰めにもならないらしい。

 スタンはベッドをするりと抜け出すと、ベッド脇の椅子に座っている私の前に片膝を突いてしゃがみ込む。ブルーグレーのマントがひらりと翻った。


 彼は私の左手を大切そうに取り、凛とした声で告げる。



「スタニスラス・シュヴァリエは、いかなる時も剣となり、盾となり……

 命尽きるまで、エルザ・リヴィエールを全力で守ることを誓います」



 慌てた私は、咄嗟に言っていた。



「いや、大丈夫よ」


「……は!? 」


 いつもは穏やかなスタンだが、顔に怒りマークが見え隠れしている。もちろん私は騎士の誓いがどのようなものか知らなかったし、スタンの気持ちを軽くしようとの一心だった。

 私が好きで願ったことだし、スタンは罪悪感を持つこともない。


「私を守ってスタンが死んじゃったら、悲しむのは私じゃん」


「でっ、でも!僕は騎士だし、大切な人に命を捧げるのは当然でしょ!?」


 まさか誓いを拒否されると思ってもいなかったスタンは、慌てに慌てている。


「スタンは死んじゃだめなの!! 」


「エルザだって!! 」


 必死に言い合いをして、そして笑う。

 こんな幸せがずっと続きますようにと願わずにはいられなかった。

 ずっとずっと、スタンと笑い合っていられますようにと……




 再びコホンとロランが咳払いをし、ひいいいっと飛び上がるスタンと私。


 (また、人前でやってしまった……)


 ずどーんと落ち込む私に、ロランは告げる。


「エルザさんにも姿変のアクセサリーを作っておきましょう。

 今回はスタンさんが狙われましたが、エルザさんがリヴィエール家の末裔だと知られれば、エルザさんも狙われるでしょう。


 現在の姿が知れ渡っているエルザさんは、日常生活はそのまま過ごされてください。そして、伝説の魔法を使う可能性がある時だけ、姿変してください」


「わかりました。ありがとうございます」


 ロランに礼を言う私の隣で、スタンがロランに頼み込む。


「ロラン。僕のとお揃いにしてね」


 その瞬間、


「絶対嫌!! 」


声を張り上げていた。スタンはビクッと飛び上がる。


「だって……だって……」


 スタンとお揃いのピアスを付けた時の周りの反応を想像すると、恐怖が沸き起こってくる。私はファンに囲まれ、それこそ命がなくなるだろう。


 明らかにしゅんとしているスタンに、まあまあとロランが声をかける。


「スタンさん。人気者の君には分からないでしょうが、エルザさんだってたくさん悩んでおられるんですよ。


 あなたは勤務中、ストーカーのようにエルザさんを凝視していますが、決して声をかけないのはなぜだか分かっていますよね? 」


「……分かってるよ」


 スタンは恨めしそうに頷くのだった。





 こんなわけで、元気になった私とスタンは大聖堂を後にする。


「ねえ、エルザ。

 そのペンダントは危険だから、僕が持っていることにするよ」


 スタンがあまりにも悲しそうだから、渋々それをスタンに渡す。


 (……といっても、スタンの寿命が縮まってしまったら困るんだけどなぁ)


 だが……


「ゔっ……重い……」


 誰よりも力はあるはずのスタンなのに、ペンダントはまるで引きつけられるように地面に落ち、そこから離れない。


 (……重い? )


 信じられない私が持ち上げると、それはいつものように軽々持ち上がった。


「どうやら、選ばれた人しか持てないようだね」


 苦い顔でスタンが言う。


「それならエルザが持つしかないけど……決して使わないで? 」


 スタンは悲しげな顔をし、小指を立てる。私は頷きその小指に自分の小指をかけた時……


「スタニスラス様ぁぁぁあああ!! 」


 周囲から聞き慣れた黄色い悲鳴が響き渡った。




 私は飛び上がり、咄嗟に辺りを見回した。すると、なんと青うちわを持った女性たちに囲まれているではないか!!


 (しまった!! 何も考えずに、スタンと一緒に大聖堂を出てしまった!!)


 時すでに遅し。このままだと、私はファンから大ひんしゅくを買うだろう。


 (こうなったら捨て身だわ!! )


 私はさっと青うちわを取り出した。スタンの顔がみるみる青ざめる。そして私は、わざと目をハートにして大声で叫んでいた。


「スタニスラス様ぁぁあああ!!

 あなたとゆびきりげんまん出来るなんて、私ッ、最高に幸せですぅぅぅうう!!! 」


 スタンはくるっと背を向けて、全速力で逃亡を始めた。その後を、ファンたちが全速力で追いかける。


 (ごめん、こうするしかなかったの)


 私はスタンとファンたちが消えた大通りを、ずっと眺めていた。





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