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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第二章

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形見のペンダントの秘密

 静まり返った部屋の中、私はスタンの手を握って震えている。涙がぽたぽたとシーツに垂れた。


「エルザさん……」


 遠慮がちに私の名を呼ぶロラン。


「エルザさんは、リヴィエール家の末裔だとお聞きしました」


 また出た、リヴィエール家。私は確かにリヴィエール家の子だが、両親のように偉大な魔法使いでもない。禁断の石のありかさえ知らない、リヴィエール家を名乗る筋合いもない庶民だ。


 でも……


 (どうか、大切なスタンをもとに戻してください。

 私、スタンのためになら、何だってします。

 たとえ……この命が消えてしまっても。


 スタン……大好きだよ。

 ずっとずっと、大好きだよ!! )



 ひたすら祈る私の胸元で、形見のペンダントが明るく光った。かつて犯罪者に捕まった時も光った気がしたが、今日は青く明るくはっきりと光る。


 (……え!? )


 眩く美しいその光に戸惑っていると……


「エルザ」


 弱々しい、大好きな彼の声が聞こえた。


「スタン!? 」


 ベッドに横たわる彼を見ると、彼はその瞳をうっすら開けていた。


「スタン!! 」


 彼の名を呼ぶと、新しい涙がどんどん溢れてくる。


「エルザ……おいで」


 甘く優しい声で名前を呼ばれる。呼ばれるままに、スタンの胸に飛び込んだ。

 スタンの体温に、その香りに、大きな体に酔う私を、スタンは離さないようにきつく抱きしめる。


「エルザ……」


 寝起きのような、少し掠れたその声。


「エルザが助けてくれたんだね」


「助けただなんて……そんな……!! 」


 だが、気を許すとまた不安が湧き起こる。

 スタンがいなくなった世界だなんて、私にはもう耐えられない。気付いたら、こんなにもスタンに依存していた。


 再び溢れる涙は、つーっと私の頬を伝う。そしてスタンは……流れる涙にそっと口付けをする。


「!!? 」


 息を呑む私からそっと唇を離し、次はおでこをコツンと合わせる。


 (な……なに!?)


 動揺して真っ赤になってしまう私を見るスタンも、真っ赤な顔をしている。

 やがて、彼は甘くて微かに震えた声で、私に告げた。


「醒めない夢の中で、エルザの声が聞こえたんだ。

 僕だって好きだよ、エルザ」


 その優しい瞳は今にも泣きそうで、弱々しく口元を歪めている。


「大好きだよ……エルザ」


 (さっきの私の願い、聞こえていたんだ……)



 その言葉を言われるのが怖かった。スタンは人気者だし、私なんかが敵う相手でもない。だが、実際に言われると、心がすーっと軽くなる。


 前にも一度言われたが、あの頃よりもその「好き」の重さは増している。今回の「好き」は、紛れもなくその「好き」なのだろう。



「知ってる」


 照れ隠しに言うと、また頬を染めるスタン。かっこいいのに、強いのに、その少年みたいな反応は反則だ。そうして私は、またさらにスタンにはまり込んでしまう。


 私は至近距離でその美しい顔に見入っていた。整った顔に、すらりと高い鼻。愛しげに私を見る、青い瞳。


 (やっぱり、顔面偏差値高すぎる……)


 あまりの美貌にくらっとするが、スタンはゆっくりと顔を近付けた。


 (これってまさか……)


 そう思った時……


「コホンッ……」


 近くで咳払いが聞こえた。そして私たちは、慌てて手を緩め、ばばっとお互いから離れる。


 (ろ……ロランの存在、忘れてた)




「ろ、ロラン!! いるなら早く言ってよ!! 」


 思いっきりうわずっている声のスタンに、ロランは全く動じずいつもの調子で告げる。


「私はずっとここにいましたが? 」


 (スタンが気付かなかったのは仕方がない。

 だけど私は知っていた……)


 恥ずかしさのあまり、顔を覆う私。ロランの前でスタンといちゃいちゃしてしまって、最低だ。

 だが、ロランがいなかったら、私はどうなっていたのだろう。考えるだけで、真っ赤になって倒れてしまいそうだ。




 私たちは思いっきり動揺しているのに、ロランは全く平常心だ。先ほどまでと同様、淡々と話を始めた。


「エルザさん。あなたが全治全能の石を持たれていたのですね」


「えっ!? 」


 私は驚愕し、胸元を見る。青く強く輝いていたその石は、今や元通りの灰色に戻っている。


 (形見のペンダント……全治全能の石だったんだ……)


 その事実に驚きを隠せない。


 ぽかーんとしてロランを見るスタンと私。そして、ロランは交互に私たちの顔を見ながら話し始めた。


「スタンさんのかけられた禁断の術を解除出来るのは、全治全能の石のみです。

 ただ、全治全能の石の効力は、完全には知られていません。術の解除以外にも、力を秘めている可能性があります」


「あっ、そうでした!」


 私は思わず口走った。


「前に犯罪者に襲われた時、スタン助けてと必死で願ったんです。

 そうしたら、本当にスタンが来てくれた……」


「僕もあの時不思議だったんだよ。

 気付いたら、いきなり目の前にエルザが倒れてて!」


 スタンと視線がぶつかり、思わず二人で吹き出した。だが、ロランは尚も神妙な面持ちだ。


「そういった効力もあるのですね。

 ですが……申し上げにくいのですが……

 全治全能の石は、使用するたびに持ち主の命を消費していきます。全治全能の石こそが、禁断の術の最大の産物とも言われています」


 (えっ……それじゃあ……)


 私は二度、このペンダントを光らせた。それよりも遥か昔……お父さんがいなくなった頃にも、数回光らせたことがある。

 私の寿命はこの石により、少しずつ削られているのか。


 だが、それでもいいと思った。死んでもいいからスタンをもとに戻してと願ったのは、他でもない私なのだから。


 それでも、スタンにとっては良くないことだ。彼は青ざめ、顔を歪めて私を見る。


「エルザ!……僕のせいで……」


 そして、騎士団長とは思えないほど弱々しい声で告げる。


「僕のせいで、エルザは死んでしまうかもしれない……」

 

「何言ってるの。スタンのために死ねるなら、本望だよ」


 気にさせないようにわざと笑うが、スタンは悲痛な叫び声を上げる。


「死なないでよ!! 」


いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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