形見のペンダントの秘密
静まり返った部屋の中、私はスタンの手を握って震えている。涙がぽたぽたとシーツに垂れた。
「エルザさん……」
遠慮がちに私の名を呼ぶロラン。
「エルザさんは、リヴィエール家の末裔だとお聞きしました」
また出た、リヴィエール家。私は確かにリヴィエール家の子だが、両親のように偉大な魔法使いでもない。禁断の石のありかさえ知らない、リヴィエール家を名乗る筋合いもない庶民だ。
でも……
(どうか、大切なスタンをもとに戻してください。
私、スタンのためになら、何だってします。
たとえ……この命が消えてしまっても。
スタン……大好きだよ。
ずっとずっと、大好きだよ!! )
ひたすら祈る私の胸元で、形見のペンダントが明るく光った。かつて犯罪者に捕まった時も光った気がしたが、今日は青く明るくはっきりと光る。
(……え!? )
眩く美しいその光に戸惑っていると……
「エルザ」
弱々しい、大好きな彼の声が聞こえた。
「スタン!? 」
ベッドに横たわる彼を見ると、彼はその瞳をうっすら開けていた。
「スタン!! 」
彼の名を呼ぶと、新しい涙がどんどん溢れてくる。
「エルザ……おいで」
甘く優しい声で名前を呼ばれる。呼ばれるままに、スタンの胸に飛び込んだ。
スタンの体温に、その香りに、大きな体に酔う私を、スタンは離さないようにきつく抱きしめる。
「エルザ……」
寝起きのような、少し掠れたその声。
「エルザが助けてくれたんだね」
「助けただなんて……そんな……!! 」
だが、気を許すとまた不安が湧き起こる。
スタンがいなくなった世界だなんて、私にはもう耐えられない。気付いたら、こんなにもスタンに依存していた。
再び溢れる涙は、つーっと私の頬を伝う。そしてスタンは……流れる涙にそっと口付けをする。
「!!? 」
息を呑む私からそっと唇を離し、次はおでこをコツンと合わせる。
(な……なに!?)
動揺して真っ赤になってしまう私を見るスタンも、真っ赤な顔をしている。
やがて、彼は甘くて微かに震えた声で、私に告げた。
「醒めない夢の中で、エルザの声が聞こえたんだ。
僕だって好きだよ、エルザ」
その優しい瞳は今にも泣きそうで、弱々しく口元を歪めている。
「大好きだよ……エルザ」
(さっきの私の願い、聞こえていたんだ……)
その言葉を言われるのが怖かった。スタンは人気者だし、私なんかが敵う相手でもない。だが、実際に言われると、心がすーっと軽くなる。
前にも一度言われたが、あの頃よりもその「好き」の重さは増している。今回の「好き」は、紛れもなくその「好き」なのだろう。
「知ってる」
照れ隠しに言うと、また頬を染めるスタン。かっこいいのに、強いのに、その少年みたいな反応は反則だ。そうして私は、またさらにスタンにはまり込んでしまう。
私は至近距離でその美しい顔に見入っていた。整った顔に、すらりと高い鼻。愛しげに私を見る、青い瞳。
(やっぱり、顔面偏差値高すぎる……)
あまりの美貌にくらっとするが、スタンはゆっくりと顔を近付けた。
(これってまさか……)
そう思った時……
「コホンッ……」
近くで咳払いが聞こえた。そして私たちは、慌てて手を緩め、ばばっとお互いから離れる。
(ろ……ロランの存在、忘れてた)
「ろ、ロラン!! いるなら早く言ってよ!! 」
思いっきりうわずっている声のスタンに、ロランは全く動じずいつもの調子で告げる。
「私はずっとここにいましたが? 」
(スタンが気付かなかったのは仕方がない。
だけど私は知っていた……)
恥ずかしさのあまり、顔を覆う私。ロランの前でスタンといちゃいちゃしてしまって、最低だ。
だが、ロランがいなかったら、私はどうなっていたのだろう。考えるだけで、真っ赤になって倒れてしまいそうだ。
私たちは思いっきり動揺しているのに、ロランは全く平常心だ。先ほどまでと同様、淡々と話を始めた。
「エルザさん。あなたが全治全能の石を持たれていたのですね」
「えっ!? 」
私は驚愕し、胸元を見る。青く強く輝いていたその石は、今や元通りの灰色に戻っている。
(形見のペンダント……全治全能の石だったんだ……)
その事実に驚きを隠せない。
ぽかーんとしてロランを見るスタンと私。そして、ロランは交互に私たちの顔を見ながら話し始めた。
「スタンさんのかけられた禁断の術を解除出来るのは、全治全能の石のみです。
ただ、全治全能の石の効力は、完全には知られていません。術の解除以外にも、力を秘めている可能性があります」
「あっ、そうでした!」
私は思わず口走った。
「前に犯罪者に襲われた時、スタン助けてと必死で願ったんです。
そうしたら、本当にスタンが来てくれた……」
「僕もあの時不思議だったんだよ。
気付いたら、いきなり目の前にエルザが倒れてて!」
スタンと視線がぶつかり、思わず二人で吹き出した。だが、ロランは尚も神妙な面持ちだ。
「そういった効力もあるのですね。
ですが……申し上げにくいのですが……
全治全能の石は、使用するたびに持ち主の命を消費していきます。全治全能の石こそが、禁断の術の最大の産物とも言われています」
(えっ……それじゃあ……)
私は二度、このペンダントを光らせた。それよりも遥か昔……お父さんがいなくなった頃にも、数回光らせたことがある。
私の寿命はこの石により、少しずつ削られているのか。
だが、それでもいいと思った。死んでもいいからスタンをもとに戻してと願ったのは、他でもない私なのだから。
それでも、スタンにとっては良くないことだ。彼は青ざめ、顔を歪めて私を見る。
「エルザ!……僕のせいで……」
そして、騎士団長とは思えないほど弱々しい声で告げる。
「僕のせいで、エルザは死んでしまうかもしれない……」
「何言ってるの。スタンのために死ねるなら、本望だよ」
気にさせないようにわざと笑うが、スタンは悲痛な叫び声を上げる。
「死なないでよ!! 」
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