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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第二章

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推しと朝チュン

 部屋に残された私は、ダミアンから聞いた衝撃の事実で頭がいっぱいだった。そして、大軍に襲われたのも偶然ではないと知ると、今さらながらに恐怖に襲われる。

 私はリヴィエール家の者だけど、大魔術師として生きてきた訳ではない。平凡に暮らし、スリースターズの追っかけをする、ただの女の子だった。それなのに私の周りは目まぐるしく変化し、今この状況にいる。




「エルザ、家まで送ってくよ。

 ……あ、もちろん変装してね」


 スタンはピアスの飾りを取り出すが……


「スタン、わがまま言ってもいい? 」


振り絞る私の声は震えていた。


「……一人になりたくない」




 それには、もちろん邪な理由などない。ただ単に、一人になるのが怖かったのだ。


 (山奥で一人で暮らしていたのに、この賑やかな街で一人になるのが怖いだなんて……)




 スタンは頬を染め、口元をきゅっと結んで額に手を当てる。


「あのね、エルザ。

 エルザは気にしてないだろうけど、僕だって一応男で……」


「そんなの、とっくに気にしてるよ!! 」


 スタンに告げるとともに、ぽろぽろと涙が溢れていく。

 私はこうもスタンが好きなのだ。スタンに焦がれて止まないのだ。だが、泣いているのはそれが理由ではない。一人になるのが怖くて、自然と体が震えるのだ。


 (分かってよ、スタン……)

 



 スタンは遠慮がちに私に手を伸ばす。そしてまた、そっと私を包んでくれる。


「泣かせてごめんね。今夜はずっと、エルザといる。


 エルザ、辛かったね。ずっと一人で抱え込んでいたんだね。

 僕は、エルザのこと、何も知らなかった。両親が亡くなったことも、大軍に追われたことも……」


 甘く優しい声。こうやってぎゅっとされ、諭されるように囁かれると、彼が男性であることを意識しないはずがない。

 そして、泣いてスタンを困らせてしまったことに、罪悪感を感じる。


「エルザ、もう一人じゃないんだよ」


 スタンの男らしい手が、そっと私の涙を拭う。


「この街にはフィリップさんもいるし、ダミアンも僕もいる。

 僕はエルザの支えになりたいんだよ」



 見上げると、神々しいほど美しいスタン。彼は優しく私に微笑みそっと告げた。


「寂しくなったら、いつでも僕のところにおいで」



 こうして私は、スタンと一夜を明かした。もちろん関係を持つことはなく、ふかふかのベッドに横になり、スタンの胸に顔を埋めて眠った。


 眠っている私の唇に、スタンがそっと自分の唇を重ねたことなんて、私は知るはずもなかった……


 



 そして翌朝……


 目を開けると、スタンの顔が間近にあってびっくりした。その瞳は閉じられ、銀色の髪がはらりと顔にかかっている。


 (綺麗……)


 思わず髪に触れようとすると、その青い瞳がぱっちりと開く。そしてそれは幸せそうに私を捉える。


「おはよう、エルザ」


 スタンはふにゃっと笑い上体を起こした。シャツの胸元が少し開いており、立派な胸元が覗いている。


「うわっ。推しと朝チュンしちゃった」


 真っ赤な顔で思わず言うと、


「推し!? 朝チュン!!? 」


いつもの調子で飛び上がるスタン。こうして、私はまた日常へと戻っていく。


 (ファンにバレたら殺されちゃうな)


 そう思いながらも、ファンとして禁忌を犯し続ける自分に驚くばかりだ。

 まさか、自分がスタニスラスに本気で惚れるはずがないと思っていた。そして、スタニスラスの瞳には、私が映ることはないと思っていた。だが、彼はしっかりと私を見ている。


「エルザ、送るよ。今日はこのまま送ってもいい? 」


「だっ、駄目だよ!! 私、ファンに殺されるよ。

 あっ、でも騎士モードのスタンを見るのは眼福……」


 うっとりする私を見て、スタンは苦笑い。


「じゃあ、やっぱり騎士モードで家まで送るよ」


「そ……それはやめて!! 」


 私は真っ赤な顔で叫んでいた。


 



 部屋を出ると、爽やかな笑顔の騎士たちに囲まれた。


「団長、おめでとうございますッ!! 」


 騎士たちは口々に叫び、中には薔薇の花びらを撒き散らす者までいる。

 そして私は、すぐに勘違いされていることに気付いた。


「あの……」


 真っ赤な顔で彼らに告げる。


「何もないんです……」


「「「は!? 」」」


 騎士たちは私とスタンの顔を交互に見る。そして苦笑いを浮かべる。


「何もない!? ……一晩篭っていたのに!? 」


 彼らはあきれたような表情を浮かべる。


「マジで!? 」


「やっぱり団長、天然記念物だわ」


 そんな部下に向かって、


「うるさいなぁ!! 」


声を張り上げるスタン。そして、


「もう、今日こき使ってやる!絶対こき使ってやる!! 」


 ぶつぶつ呪文のように唱え始める。


 そんなスタンを見ながらも、少しずつ距離が近付いていることを感じている。はじめは信じられなかったが、今はスタンの気持ちだって信じることが出来る。私もスタンに大好きだと伝えたい。


 だが、推しとそういう関係になってしまったら……その最後のひと踏ん張りが踏み出せない。


 だからもう少し、このままの関係でいさせて……ーー


いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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