部下から愛されるアイドルたち
「今回の戦い、俺たち必要なかったんじゃないですか? 」
「それな!」
そんな話を聞きながらも、今回は相手が悪すぎたと思ってしまった。難敵だったからこそ、非常勤魔術師も招集されたのだろう。
「団長がドラゴンに登った時、やめてくれと思いました」
スタンはぺたーっと机に伏せながら、弱々しく告げる。
「だって、エルザにかっこいいところ見せたいじゃん」
私はビクッと飛び上がる。
(まさかあの捨て身の行為は、私に自己顕示するためにしたってこと!? )
「す、スタン!!
私はスタンが強くてかっこいいことを知ってるから、命を大切にしてね!」
「ほんとに? 僕、かっこいいの? 」
「か……かっこいいよ」
それは眩しいくらいに!!
神々しいほどの彼の姿に見惚れている私の近くで、
「うぜー」
団員たちがぼやく。
「団長、マジでうぜー……」
「こいつがうぜーのは分かるけど、騎士たちは絶対必要なんだよな」
聞き慣れた声がして顔を上げる。すると、いつの間にかそこには、ダミアンとお兄が立っていた。
(そういえば、私の両親について確認があるとか言ってたっけ……)
考え込む私を前に、ダミアンは言う。
「魔術師だけじゃ、魔物に勝てないもんな。
俺たち騎士みたいに力は強くないし、近距離にまで迫られるとおじゃんだ」
そして付け加えた。
「それでもまあ、伝説の呪文メテオなんて唱えられりゃあ、一撃だろうけど」
「えっ!? メテオ出来ないんですか!? 」
思わず聞いた私に、ダミアンは顔を歪めて吐き出す。
「出来るわけねーだろ。喧嘩売ってんのか茶虫妹は!! 」
茶虫妹に戻っていて心底ホッとする。
「……たく。お前ら、どんな魔法教育受けてんだか」
ぼやくダミアンに、お兄は答えた。
「物心ついた頃には出来たんだよな。
俺たち僻地で暮らしてたから、毎日魔法打ち合って遊んでて」
「そうそう!間違えてメテオで山一つ潰しちゃったり、イクリプスで広いクレーター作っちゃったり」
懐かしむ私たちを見て、ダミアンとスタンは口をぽかーんと開けている。二人だけでなく、聞いていた騎士たちも。そこで、私たちの普通が全く普通でないことに気付いてしまった。
マウントを取るつもりは全くないので、慌てて付け加える。
「でも!お兄の言う通り、この街ではおとなしくしていました!!
派手に魔法を使うと目立ってしまうと聞いていまして……」
「そうだな」
ダミアンは面白そうに宙を見つめ、その日のことを思い出していた。
「フィリップは、ものすごい登場の仕方をしたもんな。
空飛ぶ雲に乗って魔術師団に現れて、派手に花火を撒き散らしながら、『雇ってください!俺、ものすんごいですから!!』って」
(あちゃー……)
私は頭を抱える。お兄は馬鹿なのだろうか。そして、そんな変人を雇ったダミアンも凄い。
「フィリップはすげぇのに、魔術師団長も変わってくれない」
「それは当然だ。俺にはお前らのファンを上手く操ることなんて出来ないし、団長の仕事も大変そうだし」
(そうか。お兄は魔術師団長まで打診されていたのか)
それでやはり、私たちは滅茶苦茶な魔法を使っていたことを思い知る。そして、自分よりも強い部下を受け入れてくれているダミアンも、実はいい人なのだろう。
ダミアンはぐるりと辺りを見回し、歩き始めた。そしてその後にお兄が続く。
「茶虫妹よ。この続きは企業秘密になるから、奥のゲストルームで話そう」
そんな言われ方をすると、ダミアンについていくしか出来なくなる。続いてダミアンは、スタンを見る。
「スタン。お前が本気で茶虫妹の身を心配するのなら、お前もこの話を聞いておいたほうがいいだろう」
スタンはこくりと頷き立ち上がる。その顔からはいつものふにゃーっとした雰囲気は消え、むしろ騎士モードの時のように引き締まっている。
こうして、ダミアンは私たちをゲストルームに招き入れ、私たち兄妹ですら知らなかった話を話し始めるのであった。
広いゲストルームの応接セットに、私たちは座っていた。神妙な面持ちのスタンは、守るように私に寄り添っている。どんな話をされるのかビクビクしたが、スタンの隣にいると気分も落ち着いた。
そして静まり返った部屋の中、ダミアンがお兄に聞いた。
「お前の名は、フィリップ・リリ・エールではなく、フィリップ・リヴィエールなのか? 」
お兄は少し気まずそうに私を見る。それで、私もはっと我に返った。
私は、両親の言いつけを守っているはずだった。人にはむやみやたらに本名を名乗らず、エルザという名前のみを名乗っていた。だが、魔術師団の契約書には本名を書いていたのだ。
(信頼出来る人には名乗っていいって言われていたよね。
だから、この人たちは大丈夫だと気を許してしまったのだ。
まさか、それがいけなかったのだろうか)
青ざめる私の隣で、スタンが頷いている。
「僕はエルザの姓に一瞬目を疑ったけど、気にしないことにしてた」
どういうことだろう。私たちの姓が、どうしてスタンやダミアンを驚かせるものなのだろう。そしてそれは、嫌な予感しかしないのだ。
(スタンに嫌われたらどうしよう)
「あ……あのッ!! 」
私は必死で言い訳をしていた。
「私たち、小さい頃に両親と離れ離れになってしまって!!
それだから、あまり両親のことを知らないというか……」
それでも微かに覚えている。お父さんはいつも窓際で本を読んでいて、お母さんは泣いている私をぎゅっと抱きしめてくれたっけ。
私たちの使う魔法は、お父さんお母さんが教えてくれたものだとか、それを見よう見まねでマネたものだとか。
両親を思うと、胸がぎゅっと締め付けられるのだった。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




