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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第二章

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私は皆に認知されているようだ

 うるさい非常勤魔術師たちが消え、私も彼女たちに続いて魔法陣に入ろうとした。そんな私を、


「エルザ」


ダミアンが呼ぶ。


 私は恐る恐る後ろを振り返った。ここで振り返らず、帰れば良かったのだ。だが、茶虫妹ではなく名前で呼ばれたものだから、驚いてしまったのだ。


 ダミアンはまっすぐに私を見て、よく通るその声で告げた。


「お前が欲しい」


「……は!? 」


「お前が欲しいつってんだよ!! 」


 ダミアンは微かに頬を染め、そっぽを向く。だが私は、正規団員になるつもりはない。スタンが悲しむだろうから。だから今日みたいに、後方から精一杯の支援をする。いや、次はもう少し手加減して支援しよう。




 いつの間にか、私の周りを正規の魔術師たちが囲んでいた。皆が驚いた顔で私を見ている。


 そして……


「エルザ!! 」


お兄が満面の笑みで私を見る。


「お前ならやってくれると思った!! 」


 そうか。私、まんまとお兄に乗せられたのだ。お兄のあの魔法陣は、明らかに二人詠唱のものだったから。


「もうやらないからね!」


 私は笑顔でハイタッチを交わしていた。




 私たちを取り囲んでいる正規団員を、


「お前らも帰れ帰れ」


ダミアンが追い払う。


「今日は俺の奢りで一杯やるぞ?

 茶虫兄妹もな」

 

 残念ながら、非常勤の私は行くつもりはないのだが。


 こうして大平原には、ダミアンとお兄、そして騎士たちと一部の神官が残された。神官は皆が真剣な顔をして、傷ついた騎士たちを治療している。大神官ロランも全力で治療に加わっていた。


 そして……


「エルザ!! 」


私を呼ぶ、大好きな声が聞こえる。先ほどまで猛剣を奮っていた彼は、その強さからは考えられないほど弱々しい笑みで私を見ている。


 彼を見て、きゅんきゅん胸が鳴ったのは間違いない。その強くてかっこいい姿に悶絶した後だから、余計に、だ。


 だが彼は、子犬のように私に走り寄り、ぎゅうぎゅうに抱きしめる。容赦なく抱きしめられるものだから、押しつぶされそうだ。


「ちょ、ちょっと、スタン!苦しいよ……」


 真っ赤になりながら呻く私にかかる腕を、罰が悪そうに緩めるスタン。それでもまだ彼に抱きしめられていることに変わりはない。


 (みんな見ているのに……)


 それなのに、スタンは騎士モードにすらなれない。次は私にぺったり頬を付けて、甘い声で言う。


「ありがとう……助けてくれて、本当にありがとう……」


 スタンの体は、微かに震えていた。騎士団長だから、部下を守るためにも戦わねばならない。だが、スタンほどの腕を持っても、怖いものは怖いのだ。

 そして、その震えは私にも伝わってくる。


「スタン……生きてて良かった……」


 あの時、スタンの死を感じた。スタンを失う恐怖を、今更ながらに感じる。





「スタンさん、エルザさん」


 不意に名前を呼ばれ、顔を上げる。すると目の前には、なんと聡明叡智の黄虎、ロランが立っているではないか。


 (お、おまけに!私、認知されてるー!! )


 飛び上がりそうだったが、スタンに抱きしめられているため、身動き一つ取れない。


「あなたがたは、直接騎士団の宿舎に飛ばしましょう。

 あなたたちを正門前に飛ばすと、取り囲まれるでしょうから」


「うん。……ありがとう、ロラン」


 スタンはそっと礼を告げる。


「それと……エルザさんには、ダミアンさんから話があるようで……」


「えっと……正規団員にはなりません」


 ぴしゃりと告げると、ロランは少し楽しそうに笑った。その頭の良さそうな瞳が、半月型に歪む。


「違うんです。茶虫さんとエルザさんのご両親のことで、ダミアンさんが確認したいらしくて……」


 (お、お兄だけ茶虫になってる!! )


 思わず吹き出すと、スタンも釣られたように吹き出す。だが、ロランは真顔のままだ。本気でお兄の名前を茶虫と思っているのだろうか。


「後ほど、ダミアンと茶虫さんが、騎士団へ伺うようです」


「ふふ、分かったよ」


 スタンは面白そうに笑い、そしてまた私をぎゅっとする。抵抗出来ない私は、そんなスタンに身を任せるしかなかった。


 (今日だけは、甘えてもいいよね? )




 眩しい光とともに、私たちは騎士団の宿舎へと飛ばされる。目を引くと、見たことのある大きな部屋に立っていた。席には疲れ切った顔の騎士たちが座り、中には呆然と宙を見つめている者もいる。


 だが、光とともにスタンが現れると、


「団長!! 」


ホッとした表情で口々に上司を呼ぶ。


「団長……良かったッ……!! 」


「今度こそ、団長が死ぬと思ったッ!! 」


 そんな部下に、スタンはほっとした顔で告げた。


「まだまだ死なないよ?

 茶虫兄妹が、僕を守ってくれたんだ」


 彼はそういうと、背中から茶色く光るうちわを取り出す。


 (まっ、まさか!!

 ずっとそれを背中にさしていたの!!? )


 それは、魔術師団内でも話題になるわけだ。スタニスラス様が、茶虫うちわを持っていたと!!


 わなわなと震える私に、嬉しそうにうちわを差し出すスタン。その綺麗な青い瞳に、いたずらな輝きを讃えながら。


「これからは全力で推させてもらうから覚悟してね、エルザ」


「や……やめてぇぇぇえええ!! 」


 私は断末魔の叫び声を上げていた。



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