私は皆に認知されているようだ
うるさい非常勤魔術師たちが消え、私も彼女たちに続いて魔法陣に入ろうとした。そんな私を、
「エルザ」
ダミアンが呼ぶ。
私は恐る恐る後ろを振り返った。ここで振り返らず、帰れば良かったのだ。だが、茶虫妹ではなく名前で呼ばれたものだから、驚いてしまったのだ。
ダミアンはまっすぐに私を見て、よく通るその声で告げた。
「お前が欲しい」
「……は!? 」
「お前が欲しいつってんだよ!! 」
ダミアンは微かに頬を染め、そっぽを向く。だが私は、正規団員になるつもりはない。スタンが悲しむだろうから。だから今日みたいに、後方から精一杯の支援をする。いや、次はもう少し手加減して支援しよう。
いつの間にか、私の周りを正規の魔術師たちが囲んでいた。皆が驚いた顔で私を見ている。
そして……
「エルザ!! 」
お兄が満面の笑みで私を見る。
「お前ならやってくれると思った!! 」
そうか。私、まんまとお兄に乗せられたのだ。お兄のあの魔法陣は、明らかに二人詠唱のものだったから。
「もうやらないからね!」
私は笑顔でハイタッチを交わしていた。
私たちを取り囲んでいる正規団員を、
「お前らも帰れ帰れ」
ダミアンが追い払う。
「今日は俺の奢りで一杯やるぞ?
茶虫兄妹もな」
残念ながら、非常勤の私は行くつもりはないのだが。
こうして大平原には、ダミアンとお兄、そして騎士たちと一部の神官が残された。神官は皆が真剣な顔をして、傷ついた騎士たちを治療している。大神官ロランも全力で治療に加わっていた。
そして……
「エルザ!! 」
私を呼ぶ、大好きな声が聞こえる。先ほどまで猛剣を奮っていた彼は、その強さからは考えられないほど弱々しい笑みで私を見ている。
彼を見て、きゅんきゅん胸が鳴ったのは間違いない。その強くてかっこいい姿に悶絶した後だから、余計に、だ。
だが彼は、子犬のように私に走り寄り、ぎゅうぎゅうに抱きしめる。容赦なく抱きしめられるものだから、押しつぶされそうだ。
「ちょ、ちょっと、スタン!苦しいよ……」
真っ赤になりながら呻く私にかかる腕を、罰が悪そうに緩めるスタン。それでもまだ彼に抱きしめられていることに変わりはない。
(みんな見ているのに……)
それなのに、スタンは騎士モードにすらなれない。次は私にぺったり頬を付けて、甘い声で言う。
「ありがとう……助けてくれて、本当にありがとう……」
スタンの体は、微かに震えていた。騎士団長だから、部下を守るためにも戦わねばならない。だが、スタンほどの腕を持っても、怖いものは怖いのだ。
そして、その震えは私にも伝わってくる。
「スタン……生きてて良かった……」
あの時、スタンの死を感じた。スタンを失う恐怖を、今更ながらに感じる。
「スタンさん、エルザさん」
不意に名前を呼ばれ、顔を上げる。すると目の前には、なんと聡明叡智の黄虎、ロランが立っているではないか。
(お、おまけに!私、認知されてるー!! )
飛び上がりそうだったが、スタンに抱きしめられているため、身動き一つ取れない。
「あなたがたは、直接騎士団の宿舎に飛ばしましょう。
あなたたちを正門前に飛ばすと、取り囲まれるでしょうから」
「うん。……ありがとう、ロラン」
スタンはそっと礼を告げる。
「それと……エルザさんには、ダミアンさんから話があるようで……」
「えっと……正規団員にはなりません」
ぴしゃりと告げると、ロランは少し楽しそうに笑った。その頭の良さそうな瞳が、半月型に歪む。
「違うんです。茶虫さんとエルザさんのご両親のことで、ダミアンさんが確認したいらしくて……」
(お、お兄だけ茶虫になってる!! )
思わず吹き出すと、スタンも釣られたように吹き出す。だが、ロランは真顔のままだ。本気でお兄の名前を茶虫と思っているのだろうか。
「後ほど、ダミアンと茶虫さんが、騎士団へ伺うようです」
「ふふ、分かったよ」
スタンは面白そうに笑い、そしてまた私をぎゅっとする。抵抗出来ない私は、そんなスタンに身を任せるしかなかった。
(今日だけは、甘えてもいいよね? )
眩しい光とともに、私たちは騎士団の宿舎へと飛ばされる。目を引くと、見たことのある大きな部屋に立っていた。席には疲れ切った顔の騎士たちが座り、中には呆然と宙を見つめている者もいる。
だが、光とともにスタンが現れると、
「団長!! 」
ホッとした表情で口々に上司を呼ぶ。
「団長……良かったッ……!! 」
「今度こそ、団長が死ぬと思ったッ!! 」
そんな部下に、スタンはほっとした顔で告げた。
「まだまだ死なないよ?
茶虫兄妹が、僕を守ってくれたんだ」
彼はそういうと、背中から茶色く光るうちわを取り出す。
(まっ、まさか!!
ずっとそれを背中にさしていたの!!? )
それは、魔術師団内でも話題になるわけだ。スタニスラス様が、茶虫うちわを持っていたと!!
わなわなと震える私に、嬉しそうにうちわを差し出すスタン。その綺麗な青い瞳に、いたずらな輝きを讃えながら。
「これからは全力で推させてもらうから覚悟してね、エルザ」
「や……やめてぇぇぇえええ!! 」
私は断末魔の叫び声を上げていた。
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