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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第二章

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茶虫兄妹、大健闘

 魔法陣によって飛ばされた先は、場所も知らない大平原だった。そして、どんよりとしたその大平原に、ずらっとやる気のない非常勤の魔術師団員たちが並ぶ。その多くは、遥か離れた先で繰り広げられる戦闘に慄いていた。




 遥か先には、首が五つに分かれた巨大なドラゴンが見える。そのドラゴンの前に、鶴翼の陣形を描いた騎馬隊が見える。その最前線に、彼はいた。

 ドラゴンがあまりにも大きいため、騎士たちは豆粒のようだ。



 ドラゴンは騎士たちに向かって灼熱の炎を吐き出している。騎士の数人が落馬し、隊列もばらけていく。そして、周りの非常勤魔術師たちは、魔法を唱えることすら出来ず、ただ震え上がってその光景を見ているのだ。


「帰られるかたは、ここからお帰りくださーい!! 」


 後ろから神官の声が聞こえるや否や、三分の一ほどの非常勤魔術師が逃げるように魔法陣へと走っていく。そして三分の一はなんとか推しの姿を見ようと、震えながらも前線を見ている。

 さらに残りの三分の一は魔法を唱えるが……お粗末この上ない魔法だった。多くが小さな花火や水を垂らすだけで、到底魔物まで届くはずもない。悪いことに、間違って正規の魔術師団員の上で魔法を炸裂させることもある。


 それを知っているのだろう。数人の正規の魔術師団員が後ろを見て、暴発した魔法を消していた。


 (ありゃー……足引っ張ってるよ)


 だが、難しい試験を突破した正規の魔術師団員たちは違っていた。一斉に魔法陣を描き、騎士たちの前に頑丈なバリアを張る。そして、一斉にドラゴンに遠方攻撃を加える。




 いつの間にか私は頼りない非常勤たちを掻き分け、正規の魔術師団員の最後尾につけていた。そこからは、前方の様子がよく見える。


 魔術師団の先頭に、赤茶色の髪のダミアンがいた。彼は数々の魔法陣を作り出し、強烈な魔法を放っている。その多くがドラゴンを直撃し、確実にダメージを与えている。そして別の魔法陣からは、騎士たちを守るヴェールが送られている。


 ダミアンの隣にはお兄がいた。なんとお兄は両手で四つの魔法陣を描いているのだ。


 (何だ、あれ!? )


 だが、茶虫は本当に凄かった。もとから凄かったのだが、魔術師団の訓練によってさらに強くなったのだろう。ダミアンの数倍の威力の魔法を繰り出し、ドラゴンの一つの首を焼き切った。


 だが、それがドラゴンの怒りを誘ったらしい。ブチギレたドラゴンは、残りの四つの頭から四方八方に炎を吐く。

 その炎は数人の騎士を焼いたが……彼は違った。ブルーグレーのマントを翻し、彼は軽々ドラゴンの頭によじ登る。そして、荒れ狂うドラゴンをものともせず、その青光りする剣で首をスパッと斬り落とした。


 (か……かっこいい……)


 そう思ったのは私だけではない。後ろから、非常勤魔術師たちの黄色い悲鳴が聞こえてくる。


 (あれじゃあ、ファンが増えてしまうよ)


 だが、残り三つの頭を持つ巨大なドラゴンだ。怒り狂ったドラゴンはスタンに狙いを定め、集中攻撃を始めたのだ。スタンはさらりとそれを交わすが、攻撃が当たるのは時間の問題かもしれない。


 さすがの魔術師たちも、素早く移動するスタン付近に魔法を撃つことが出来ず、ドラゴンの足を狙い始めている。

 だが、茶虫のお兄は違ったのだ。


 お兄はしっかりとスタンを見据え、魔法陣を描く。お兄の描く見たことない魔法陣に、周りがざわめいた。だが、私はこの魔法陣を知っている。昔から、お兄とよく描いた魔法陣だ。


 私はお兄に合わせて魔法陣を描いた。特殊な陣形で、模様にも細心の注意を払う。そしてピッタリ重なったお兄の魔法陣と私の魔法陣が、同時に虹色に輝いた。



「「!!!? 」」


 人々は息を呑む。大地は巨大な地響きを起こし、地面が割れる。そして空からは、無数の流星群。


「「メテオ!! 」」


 お兄と私が詠唱すると、流星群がドラゴンに降りかかった。絶妙にスタンを避け、ドラゴン全体を攻撃する。


 こうして……何ともお兄に釣られて、特大呪文を使ってしまった。おまけに『二人詠唱』などという、通常では考えられない行為とともに。

 




 ドラゴンはばったりと倒れ、戦いの場は騒然とする。私は逃げたい一心だ。こんなところで目立ちたくないし、ひっそりと支援するはずだったのに……

 だが、やられていく騎士たちや、一人で戦っているスタンを見ると、どうしても力になりたいと思ってしまった。


「うっわー!! すっごい!! 」


「伝説の呪文メテオ、初めて見た!! 」


 私は瞬く間に魔術師たちに取り囲まれ、崇められる。


「茶虫兄妹、万歳!! 」


 (ちょ、ちょっと待って。私まで茶虫になってしまったの!? )


 酷く動揺する私。最近の私は茶虫を推していたが、まさか自分を推すことになってしまうだなんて。




 魔術師たちに囲まれる私は、一刻も早く逃げたい。だが、人が押し寄せて身動き一つ取れない。こんな私を助けてくれたのは、他でもないダミアンだった。


「おい、お前ら帰れ」


 ダミアンは非常勤魔術師たちに大声で指示する。だが、団長の命令にも従わないのが非常勤だ。


「きゃー、ダミアン様!! 」


「かっこよかったですぅ」


 一斉に推しにアピールを始める。すると、ダミアンは困った顔で告げたのだ。


「お前らがここにいると、正規団員が帰れないだろ?

 帰ったら良くしてやるから、先に帰っててくれよな」


 そして、アイドルさながらのウインクを送る。この悩殺ウインクにやられたのだろう。彼女たちは目をハートにして、我先にと魔法陣へ飛び込んでいった。


 (うわー……ダミアンって、アイドルの檻だわ)


 このダミアンのファンサービス目当てに来ている女性も少なくないのだろう。




いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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