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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第二章

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茶虫グッズを作りましたが、売れません

「そんなわけで、魔術師団の非常勤団員となりましたぁ!! 」


 勇んでアリスさんに報告すると、アリスさんは倒れそうになっていた。


「え、エルザ!? 魔術師団に入れるなんて、凄いじゃん!

 ……って、非常勤は試験無しだっけ? 」


 そんなアリスさんに、ダミアンから直接勧誘を受けただなんて言えるはずもない。加えて、スタニスラス騎士団長と街歩きまでしてしまった。静まり返った夜中とはいえ、誰にも見られていないことを祈るばかりだ。


「アリスさん、時々店を空けることになってしまってすみません」


 私がいかにこの店で活躍しているかは、よく知っている。今や人気のカフェ(と、ファンショップ)となってしまったこの店を、アリスさん一人に押し付けるのは申し訳なくも思う。だが、やはりスタンの役に立ちたいのだ。


「そんなこと気にしないでよ」


 アリスさんは裏のない笑顔で、ぽんぽんと私の肩を叩く。


「エルザが魔術師団に出勤している時は、うちは補償金ももらえるしさぁ。

 そのお金で、エルザがいない間だけ臨時職員も雇えるし!」


 さらに、彼女は頬を染めて言ったのだ。


「何より、ダミアン直筆のサインをいただけたことに泣きそうだわ!」


「さ……サイン……」


 ダミアンは、なんという自信過剰男だろう。アリスさんにサインを送るだなんて。

 青ざめる私の思い込みは、すぐに勘違いだと分かる。


「補償金の契約書に、ダミアンのサインがあっただけよ」


 それを聞いて心底ほっとした。それとともに、ダミアンとの話はますます話せなくなってしまうのであった。





 いつ呼ばれるのかとビクビクしていた私だが、いつまで経っても『招集の魔石』は赤く光ることはなかった。その間にも軍の出陣はあり、スタンやダミアンを陰から見送った。そう、彼らが通り過ぎる瞬間、人の陰に隠れて。


 私が招集されないのは、ダミアンが気を遣っているのかもしれない。形だけの契約なのかもしれない、とまで思うようになっていた。




 招集に呼ばれずソワソワする私は、暇つぶしに新たなグッズを開発した。その名も『茶虫グッズ』だ。青狼、赤獅子、黄虎と並んで置かれた茶虫グッズだが、それだけ驚くほど売れない。挙げ句の果てに、


「茶虫ってなに〜」


「茶虫って誰? 」


なんて馬鹿にされている始末だ。


 (お兄、ごめん。

 お兄は無名なのに、スリースターズと並んで発売したのが間違いだった)


 あまりにも売れないため、お兄が気の毒にも思えた。そのため、私は茶虫グッズを持って街を歩き始める。

 いい宣伝になるとも思ったのに、人々にくすくす笑われ、


「茶虫のファン、初めて見た」


なんて陰でこそこそ言わるだけだった。


 こうして茶虫グッズは大失敗となる。





 いつものように働いていると、時々スタンが来てくれた。もちろん、茶色い髪の変装姿で、だ。

 スタンは満面の笑みでオムライスを頬張り、幸せそうに目を閉じる。


「んまぁーいっ!!

 いつ食べても、エルザのオムライスは美味しいなぁ〜」


 スタンが美味しそうに食べてくれるのが、とても嬉しい。推しに手料理を食べてもらえるなんて夢のまた夢だけど、これは現実だよね!?




 スタンに見入っていると、


「春だねぇ〜」


アリスさんに意味深な目で見られる。


「ち、違うんです、これは!! 」


 私は必死に言い訳をするが、何が違うのか分からない。しかも、アリスさんの言っていることは、あながち間違いではない。


 スタンをただの市民と思い込んでいるアリスさんは、スタンに向かって言い放ったのだ。


「お客さん、いつもありがとう!

 エルザってさぁ、いつもスリースターズの追っかけばっかりで。現実では恋出来ないのじゃないかと思ってたのよ」


 (ちょ、スタンに向かって何言ってるんですか!? )


 だが、彼が絶対零度の青狼、スタニスラスだと言えるはずもない。そしてスタンは、相変わらずにこにこして話を聞いている。

 アリスさんは、さらに恥ずかしいことを言い始める。


「スタニスラスから始まって、ダミアンになって……今は茶虫よ? 」


「茶虫……ですか? 」


 スタンは戸惑うようにアリスさんを見上げる。すると、アリスさんは困ったように告げたのだ。


「茶虫なんて、どこの誰なのかも分からないのにね。

 それでも、お客さんみたいな人が出来て良かった」


 アリスさんの心はとても嬉しい。だが、色々と間違っている。ドキドキハラハラする私の前で、


「僕も嬉しいです」


スタンは笑顔で告げた。


「それに僕も……茶虫、結構好きかも」


「それなら、お客さんも茶虫グッズ買ってってよ!

 在庫過多で困ってて!! 」


 アリスさんは、ここぞとばかりに茶虫グッズをスタンに押し付ける。


「ちょ、ちょっと!彼に押し付けるの、やめてくださいよ」


 私は大慌てでアリスさんを止めるが、スタンはお金を払いながら嬉しそうに茶虫グッズを手に取った。


「実は僕もちょっと、こういうのを持って街を歩いてみたかったんです」


 (そうだったのか……)


 愕然とする私。だが、茶虫グッズはやめておいたほうがいい。だって、笑い者にしかならないのだから!!

 スタニスラスが茶虫グッズを持っていると知れば、ファンががっかりするに違いない。


いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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