アイドルに寝込みを襲われた!?
騎士団のゲストルームは、とても豪華で広い。ここに要人が泊まったりもしているのだろうか。
スタンに言われた通りにベッドに潜り込むが、頭の中を様々な思いが過って眠れなかった。
今日のスタン、かっこよかったなぁ。とか、
スタンは、本当にスタニスラス騎士団長なんだ。とか。
だが、最後にはやはりこの思考に辿り着く。
(魔術師団……)
大好きなスタンと、その周りの楽しい騎士たちの役に立ちたいと思う。それがたとえ、わずかだとしても。
東の空が明るくなる頃、ようやく私は眠りについた。そして夢の中で、ふと騒がしい声が聞こえる気がした。
(なんだろう……)
軽く目を開くと、目の前には赤茶色の髪のダミアンが立っている。
(……う、うわぁ!! )
青ざめて慌てて飛び起きると、ダミアンの後ろに立っていたスタンが顔を歪めて吐き出した。
「だから!! 寝込みを襲わないの!!勝手に開けないの!!
もう、本ッ当にやめて!!」
するとダミアンは振り返り、ニヤリと笑うようにスタンに言う。
「襲ってねーよ。
あ、でもこの娘、俺のファンだわ。
一緒にベッドに入ろうかなぁ」
「入らないでよ!! 」
スタンは本気で怒っていたのだろう。なんと、ダミアンを軽々投げ飛ばしていた。その予想外の腕力に驚きを隠せない。そして、騎士団長に投げ飛ばされたダミアンは、無様に床に寝そべっている。
(アイドル二人の絡みを見られるなんて、眼福……)
なんてのんきなことを考えていられないのも事実。癖ありのダミアンに隙を見せるのはいけないし、スタンも悲しむだろう。
「くそッ……スタン、お前覚えてろよ!」
「もう忘れた」
「お前なんか、俺の魔法でイチゲキなんだからな!! 」
ダミアンはイラついたように魔法陣を描き始める。だから私は焦って、その二倍の速さで魔法陣を描いた。
「もう、やめてよ!! 」
私の描画速度のほうが速かった。私の魔法陣から吹き出した花びらが、ダミアンの魔法陣をかき消す。そしてダミアンは、花びらに押されてまた倒れ込んだ。
「くっ……くそッ!! 茶虫妹め。
お前も規格外の能力持ちか!! 」
この様子を見ていて、私の能力は本当に凄いのだと思い知る。そして、スタンを守るためとはいえ、安易に魔法を繰り出した自分を恨んだ。
(それにしても、ダミアンがお兄のことを茶虫と言っているなんて……
お兄、もしかして自らを茶虫と言い回っているのかな)
考え込む私を前に、体をさすりながら立ち上がるダミアン。そして、彼はアイドルスマイル全開で私に告げた。
「茶虫妹。お前、魔術師団に入れよ!」
(えっ……)
予想外の反応に驚きを隠せない。私が魔導師団の勧誘を受けるかもしれないと悩んでいたのは確かだが、まさか本当に勧誘されるなんて。通常であれば、厳しい入団試験が待ち受けているというのに。
ぽかーんとする私と、アイドルスマイルのダミアン。そしてその後ろには、思いっきり顔を歪めるスタン。その綺麗な顔が台無しだ。
「お前が魔術師団に入ったら、一生俺のそばにいられるぞ? 」
「いや、いたくないから」
ぴしゃりと跳ね除ける私。スタンを悲しませたくないという思いでいっぱいだ。だが、スタンの力になりたいのも事実だ。
「でも……魔術師団には入りたい……です」
ダミアンに言いにくそうに告げる。
「私は魔術師団に入って、少しでもスタンの力になりたいの。
……スタン、許して? 」
だが、スタンは泣きそうな顔で私を見る。そして、弱々しく友人に言った。
「ダミアン……頼むよ。
僕はエルザを危険な目に遭わせたくないんだよ……」
「そうか……」
二人は喧嘩をしていたはずなのに、ダミアンは悩ましげにスタンを見ている。ダミアンは傲慢で自己中でだらしない人なのかと思っていたが、意外にもいい人なのかもしれない。
「でも、茶虫妹が魔術師に入ったら、お前ら騎士団は助かるだろ? 」
そして、彼は衝撃的な言葉を吐いた。
「茶虫のフィリップが入団した時も、一瞬で話題になっただろ?
この娘はそのフィリップの妹なんだ」
(えっ、そうなの!? )
お兄のあの豪語は、嘘ではなかったのだ。そして騎士団のスタンでさえ、お兄の存在を認知していたことに驚きを隠せない。
「でも……」
それなのに、尚もスタンは浮かない顔をしている。そんなスタンを見て、ダミアンはため息混じりに答えた。
「お前がそんなに嫌がるなら、非常勤の魔術師でもいいんだぞ? 」
「非常勤!? 」
予想外の言葉を聞き返す私。そんな私を見て、ダミアンは頷く。そして心なしか、スタンの表情が明るくなる。
「非常勤の魔術師は、招集された時だけ勤務する。
最後尾に配されて、かなり安全な遠方から魔法を使う」
(へぇー……この世界にも、アルバイトみたいなものがあるんだね)
思わず感心してしまう私。
「非常勤の魔術師は最後尾だから、敵に魔法を当てる技術も必要だ。まぁ、大概の非常勤の奴らは、全く役にも立っていないんだけどな。
でも、お前ならそれも問題ないだろう」
「そう言われると、自信もないんですけど……」
そう、戦場に出たこともない私は、いまいち自分の力も分かっていない。周りの魔法使いの力すら分かっていないのだ。
「まあ、そんなこと言うなよ」
ダミアンはにっと笑い、一枚の紙を差し出した。
「非常勤魔術師の契約書だ。これにサインをすれば、茶虫妹は非常勤魔術師として魔術師団に所属することになる」
ごくりと息を呑む。
「ここにお前にサインをして……保証人のところは、茶虫にでもサインしてもらうか」
ぼやくダミアンをまっすぐ見て、スタンは告げた。
「僕がサインする」
(え……? )
「エルザが魔術師団に入ったのも、僕のせいだ。だから僕は、この罪を背負って生きていくよ」
「スタン。お前……大袈裟だな」
ため息を吐くダミアンの前で、スタンはさらさらとサインをした。『スタニスラス・シュヴァリエ』綺麗な字で書かれたその名を見て、改めて彼がスタニスラスなのだと感じた。
「さあ、エルザ。家まで送るよ」
スタンは弱々しく告げ、左耳のピアスの飾りをカチッとはめ込む。瞬時にその髪が茶色く変化し、肌がトーンダウンする。目の前には慣れ親しんだスタンが立っていて、私は笑顔でその手を握っていた。
(この姿のほうが、身近に感じて安心する。
だって本当の姿は、綺麗すぎるんだもん)
スタンを見上げると、その茶色い瞳で私を見て笑ってくれるのだった。
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