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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第二章

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推し変したことに嫉妬される

 街灯の灯りに照らされた道を、騎士服姿のスタンと並んで歩く。それが信じられない。

 普段はあんなに囲まれているのに、あんなに近付けないのに、今は彼がすぐ隣にいる。


 何度も彼を見上げて、彼の本当の姿を見る。銀色の髪に、透き通るような肌。整った顔。

 スタンは人に見せない、ふにゃっとした笑顔を浮かべる。


「そんなに見ないでよ」


 だけど、見せて欲しい。いつもは見られないのだから。


「スタニスラス様を独り占めだね」


 くくくっと笑うと、スタンも幸せそうに笑う。そして、甘ったるい声で告げる。


「何言ってんの。僕はとっくにエルザのものなのに」


「……え!? 」


 動揺する私を、彼は切なげに見つめる。その青い瞳に吸い込まれそうになる。


「エルザだって……ダミアンのものにならないでよ」


「えっ!? 」


「僕は弱くて頼りないかもしれないけど、ダミアンよりもエルザを大切に出来るよ? 」


 その言葉が嬉しくて、胸が熱くて。だけどこれ以上雰囲気にのまれてはいけないとも思う。万が一スタンと何か間違いが起これば、後悔するのは私だ。


「ふふ、ありがとう」


 さらっとかわそうとする私に身を寄せ、スタンはそのマントの中に私をすっぽりと包む。スタンの体温と鍛えられた肉体に包まれた私は、頭が沸騰して倒れてしまいそうだ。


「エルザ」


 甘い声で囁かれると、体に震えが走る。


「僕だけ見ていてよ……」


 切なげに告げられると、頷かずにはいられない。こくりと頷く私を見て、スタンは満足げに笑った。そしてマントに私を包んだまま、その立派な建物の扉を開けた……





 立派な扉から光が漏れ……


「団長、お帰りなさい!! 」


夜中だというのに、元気な騎士たちの声に迎えられる。


「あぁ」


 スタンは静かに返事をして、そのまま歩き去ろうとするが……痛いほど視線を感じる。そして騎士たちは、わざとこっちを見ないように目を逸らすのだ。


 (もしかして私、嫌われてる!? )


 一瞬そう思ったが、それは間違いだということにすぐに気付く。というのも、ドキドキしっぱなしで頭が真っ白になっていたが、私は今すごい状態なのだ。

 スタンにぎゅっと抱き寄せられ、そのマントにすっぽりと入っている。


 その状況を理解するや否や、慌ててスタンから離れるが、時すでに遅しだ。騎士たちは真っ赤な顔でいそいそと掃除をし始めるし、焦ってガシャーンとグラスを割るし。これがあのかっこいい騎士たちかと思うと驚きを隠せない。だが、原因がスタンにあるのは明らかだった。




 そんな騎士たちに、スタンは告げる。もちろん、騎士モードの凛とした声で、だ。


「事情があり、今夜一晩彼女を泊めることになった。

 誰一人として、彼女に指一本触れないこと」


「「はっ!! 」」


 騎士たちは敬礼するが、目が完全に泳いでいる。そして私はなんだか恥ずかしくなる。

 スタンはちらりと扉を見て、鍵が閉まっていることを確認する。そして、幾分柔らかな声で告げた。


「……それでは、ただいまから休憩時間に入る」


 スタンは途端に気が抜けた表情になる。その素のスタンに動揺を隠せない。だが、動揺しているのは私だけのようだ。


「酷いんだよ。

 ダミアンがエルザの家を乗っ取って、エルザを家から追い出したんだよーッ」


 完全ないつものスタンに、騎士たちは動揺一つしない。途端に砕けた表情になり、尊敬する騎士団長に茶々を入れる。


「マジっすか? ダミアンさん、相変わらずの暴君っすねー」


「それよりも団長、彼女に会えて良かったですねーッ。

 団長が入ってきた時、痴漢かと思いました」


 (な、何なんだこのフレンドリーな雰囲気は。そして、スタンを痴漢呼ばわりしている。

 さっきまでの張り詰めた空気が一瞬で緩んでしまった)


 ぽかーんとする私を前に、コントみたいなやり取りが繰り広げられる。


「あっ、でも彼女、ダミアン推しなんでしょ? 」


「しーッ!! 団長がまた荒れ狂っちゃいますから」


「みんな……うるさいよ本当に。

 僕、泣いてもいい? 」


 スタンはぺたんと机にへばりつき、へたれた表情で目を閉じる。

 完全にいつものスタンなのだが、大丈夫なのだろうか。そして、青狼スタニスラスのへたれた姿が目に毒すぎる。だが、騎士たちは受け入れているようだし、楽しそうでもある。


「団長、今日も頑張って騎士団長しましたねぇー」


 騎士たちはスタンの頭を撫で回す。まるで犬でも撫でるように。


「俺たちは、団長の勇姿に笑いをこらえるので精一杯でしたー!! 」


「わんっ!! 」 


 最後のわんは、もちろんスタンだ。なんだか眩暈がしてきた私は、ふらふらと部屋の端の壁にもたれかかった。


 (スタンの本性は知っていたけど……

 本性を知っているのは私だけかと思っていたけど……

 騎士団の内部が、まさかここまで狂っているだなんて)


 もう、騎士を憧れの目で見られないような気さえした。そう、もっと身近で親しみのある目で見てしまいそうだ。





 げんなりする私に、近くにいたグレイという名の騎士が教えてくれる。


「団長はいつも外では気を張っていますから、内輪ではリラックスして欲しいんです」


 彼は優しげな瞳で、ヘタレているスタンを見ている。

 

「団長から聞いていますか?

 私たちは市民の信頼を得るため、外では立派な騎士でなければなりません。

 ですが、私たちもただの人間なのです」


 グレイさんの言葉はもっともだ。そして、騎士団長スタニスラスとして、感情を押し殺して必死に仕事をしているスタンもよく知っている。だからこそ、私はスタンの癒しの場であり、ヘタレたスタンも受け入れるべきなのだろう。


 そんなことを考えると、目の前で繰り広げられる大騒ぎが愛しいものだと思えてくる。騎士として頑張った団員は、こうしてただの人間に戻るのだ。


「団長がここに連れてきた女性は、エルザさんが初めてです。

 だから団長を……お願いします」


 その言葉が嬉しかった。私は満面の笑みで、彼に返す。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 

 




いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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