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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第二章

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推しと外でイチャついてはいけません

 ニーズの街は治安悪化のため、四六時中軍が交代で見張りをしている。夜は家々の扉はぴしゃりと閉ざされ、人っ子一人見当たらない。外にいるのは犯罪者か、軍関係者かのどちらかだ。

 もちろん私も夜に外出するのは初めてで、ひっそり静まり返った道を歩くのは怖かった。だからお兄にひっつきながら歩く。




「……たく、ダミアンもクソだな。

 俺はともかく、エルザまで家から放り出すなんて」


 お兄の言葉も理解出来るが、私はなんだかピンときた。


 (ダミアンは、私とスタンを見て楽しんでいるんだ。

 だから、私に赤うちわを持たせたまま外に出して……)


「あー……本ッ当嫌な人だね」


 私はぼやいている。


「あれ? エルザ、ダミアンのファンじゃなかったのか? 」


「もうファン辞めるよ」


 そして、大神官ロランを推そうと思う。知的で温厚なロランは、ダミアンみたいな難ありの性格ではないはずだ。


 そう思うが、今の私は赤うちわを持っている。そしてそれは、暗闇の中でピカピカ光続けるのだ。うちわが光るから、私は犯罪者の標的になってしまう恐怖すら感じる。だが、このうちわは厄介なもので、光が消えないよう私が全力で魔法をかけたのだ。私ですら、この光を消すことが出来ない。


「お兄、この光、何とかしてよー」


 お兄に泣きついた時、通路の向こうから歩いてくる人影に気付いた。






「だ、誰か来る!」


 焦る私は、お兄のローブを掴む。だが、見張りなんて慣れっこのお兄は怖がりもしない。


「騎士団の奴だろ」


 面倒そうに言いながらも、私を守るように手を回した。このお兄の手に、どれだけ安心したものだろう。お兄は茶虫のくせに、ちゃんとした魔術師なのだから。



 前方からゆっくり歩いてくる男性が近付くにつれ、彼が騎士服を着ていることが私にも分かった。長いマントが風に揺れ、服が街灯の光の下青白く光っている。そして照らされるその髪も、青白く輝いた。


 (スタン……)


 彼を見るたびドキドキする。いつもの変装したスタンではなく、ありのままのスタンに。




 スタンはゆっくりこちらへ近付いてきて、お兄は立ち止まって敬礼する。すると、スタンもお兄に敬礼を返す。その姿が凛々しくて、悶えてしまう。……と同時に、私は赤うちわを背後に必死に隠した。


「エルザ。何をしているの? 」


 いつものほわっとした声ではなく、落ち着いたトーンの声で彼は聞く。それにドキッとしてしまって、私はそわそわしながら答えた。


「あ、あの!……お兄と見守り……してます」


 しかも、不自然に敬語になっている。

 騎士団長スタニスラスの前では敬語にならざるを得ない、なんてことはないのだが。


 そんな私の隣で、これまたお兄は真っ赤になってカチンコチンに固まっている。


 (ダミアンのことはあんなにもナメているのに、スタンにはこれなの!? )


 驚きを隠せない。と同時に、お兄は真っ赤な顔で私に聞く。


「知り合いか!? 」


「ち、ちょっとね……」


 私は絶妙にはぐらかす。


 だが、スタンは隠すつもりもないらしい。私の前に身をかがめ、少し柔らかな声で告げた。


「知ってるでしょ? 今女性が外に出るのは危険だ。

 家に入れないの? 」


「だって……」


 私はうちわを後ろでぎゅっと握りしめながらスタンに告げる。


「だっ……ダミアンが家で寝てるんだもん」



 その瞬間、スタンは酷く落ち込んだ。頭を抱え、項垂れている。


 (あ、いつものスタンだ)


 そう思うと、少しだけ安心してきた。スタンはスタンなのだと思って。


「あの馬鹿、殺してもいいですか? 」


 スタンは頭を抱えたまま、震えながらお兄に聞く。するとお兄は敬礼したまま答えたのだ。


「はい喜んで!! 」


 その瞬間、思わず吹き出す私。気が緩んで、安心して。すると、スタンも面白そうに笑う。その笑顔を見てホッとした。


 (いつも通りでいいんだ)


「お兄様、エルザは預かってもいいですか?

 いくら魔術師が一緒とはいえ、彼女を外に出しておくわけにはいきません。

 ダミアンが起きるか夜が明けたら、僕が必ずエルザを送り届けます」


 思わぬ言葉ににやついてしまう私。私はその美しい青狼を見上げて言っていた。


「スタンと一緒にいられるなんて嬉しい」


 すると、甘い瞳で私を見下ろすスタン。

 そんな瞳で見つめられると、私だって誤解してしまう。私のことを、大切だ、好きだと言っているようで……ーー


「エルザ、そういうこと、僕以外の人に言っちゃダメだよ」


 スタンはそっと私の髪を撫で、そこに唇を落とす。それでまた飛び上がりそうになった。


 (夜だからなのかな?

 それとも、騎士モードだからかな?

 今のスタンは、酷く甘くて愛しい……)


 

 甘々モードになっていた私は、お兄の刺すような視線を感じて我に返る。


 (スタンとの関係は秘密だったんだ)


 だが、お兄だからいいやと諦める。そしてお兄は真っ赤な顔で口元を押さえ、そしてかろうじて告げるのだった。


「す……スタニスラス騎士団長。

 お……愚かな妹ですが、よろしくお願いします」



いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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