情熱の赤獅子、ダミアン魔術師団長
私が、絶対零度の青狼、スタニスラス騎士団長と友達であることは、私と彼だけの秘密だ。
そう、アイドルとプライベートで親しくするには、匂わせないのが一番だ。
……ということで、とうとうやってみました、『推し変』。
私は赤いうちわと赤いペンライトを持って進軍を見守った。
いつものように彼は無表情を貫くが……
(うっ、めちゃくちゃ見られてる。これは思い過ごしではなく、本当に見られている。
……しかも、怒っている!! )
「ねー、今日のスタニスラス様、いつも以上に怖かったよね」
「あれじゃあ怖くて近付けないわよね」
人々の噂話を聞きながら、スタンごめんと心の中で謝る。
(私は決してスタンを嫌いになったのではなく、匂わせないようにしてるんだよ……)
だが、スタンもそのほうが嬉しいのではないか。私がスタニスラスを推すたび、スタンは複雑な顔をしていたのだから。
「それにしても、今日もスタニスラスはかっこよかったわねー!! 」
アリスさんの話に、相槌を打っておく。
「今日はスタニスラスの機嫌が悪いって噂だけど、あれでいいのよ!
スタニスラスが笑ってたら、私ファン辞めるかも」
「そ……そうですね……」
同調しながらも、スタンごめんと心の中でまた謝る。
真実を知ってから、スタンとの関係性も変わりつつある。さらに、推しと繋がってしまった者として、匂わせないようにと精一杯頑張っている。
そんな私の事情を知らないアリスさんは、怪訝な顔で私に言う。
「エルザ、最近ドライになったよね」
ぎくっ。飛び上がりたい気持ちでいっぱいだ。
「前はあんなにスタニスラスにベタ惚れだったのに」
(ですよねー……)
だが、匂わせないようにと心の中で必死に言い聞かせる。そして私は考えたのだ。
「だって最近、ダミアン推しですから!」
ダミアンとは関わりのない私は、純粋にダミアンを推すことが出来る。ダミアンに対しては妄想を述べられるし、ベタ褒めすることも出来る。
(スタンをベタ褒めするのは、なんだか恥ずかしいんだよね……)
「そっか、ダミアンねー」
アリスさんはぼんやりと空を見上げながらぼやいた。
「ダミアンもいいけど、やっぱりスタニスラスよ。
でも、ダミアンの推しが増えて、魔術師団員が増えるといいよね」
そうきたか。そして、忘れていた事実を思い出した。
(私は魔術師団に勧誘されないよう、ダミアンから逃げなければいけなかったんだ。
それなのに、間違って推してしまった……)
「ダミアン推しなら、入ったら? 」
案の定アリスさんに聞かれ、
「絶対嫌です」
ぴしゃりと跳ね除けた。そしてさらに追い打ちをかける私。
「アリスさんも、私がいなくなったら困りますよね? 」
だが、アリスさんの反応は予想外だったのだ。
「困るけど……魔術師団員が減ってるから、軍が本当に苦労してるみたいなのよね。
魔術師団がしっかり後方支援をしてくれないと、前線にいるスタニスラスたち騎士団が苦しい目に遭う」
「えっ!? 」
驚く私に、アリスさんは慌てて付け加えた。
「まあ、スタニスラスは強いから、後方支援がなくても大丈夫だろうけど……」
「そうなんですね……」
複雑な思いだ。
スタンには元気でいて欲しい。だが、魔術師団には入りたくない……だけど、スタンの役には立ちたい……
思考はその堂々巡りを繰り返していた。
アリスさんの話が気になりすぎた私は、帰ってからお兄に聞いていた。
「魔術師団の茶虫、フィリップ様、教えて? 」
「はぁ!? 誰が茶虫だ? 」
なんて言いながらも、お兄は私の話を聞いてくれる。そしてその通りだと唸るのだった。
「魔術師の不足は確かにある。危険だし、地味だし。
それに最近は『革命派』が増えていて、入軍希望者自体が減ってるからな」
お兄がいつにもなく難しい話をするため、ついていけなくなった私。私は思わず聞いていた。
「革命派!? 」
するとお兄は相変わらず悩ましげな顔で答えるのだった。
「現在の政治体制に不満があり、新たな王を擁立しようとしている奴らのことだ。
奴らは魔術師を頂点とした国家を作りたいらしくて……」
そこで、急に厳しい顔になる。
「エルザ。お前、両親の言いつけ、破っていないだろうな? 」
「うん? 例の石のこと、誰にも言ってないよ。
それに、気安く名字も名乗ってない」
すると、お兄はほっとした顔になる。その理由が分からずなぜかとお兄に聞くが、お兄はそれ以上教えてくれなかった。そして、
「お兄のケチ!! 」
部屋の中で、いつものように魔法が炸裂することとなる。
お兄とじゃれ合っていると、不意に扉がノックされた。覗き穴から外を見ると、そこには意外な……というより、会いたくない人物が立っていた。
「だ……ダミアン……」
思わず彼の名を呼んでしまうと、
「は? ダミアン!? 」
身を起こすお兄。そしてそのまますたすたと扉に歩み寄り、がちゃりとそれを開けた。
扉の向こうには、やはりダミアンが立っていた。赤みがかった髪に、アーモンド型の瞳。それはまさしくスリースターズのダミアンなのだが……
「づ……づかれだ……」
ダミアンはよろよろと部屋に入り、お兄が張った結界に弾き飛ばされる。アイドルにあるまじき姿だ。挙げ句の果てに、倒れたまま声を張り上げる。
「はぁ!? フィリップ、お前、またややこしい結界張りやがって」
「団長のくせに、だらしないな」
お兄が渋々結界を解除すると、ようやくダミアンは部屋に入ることが出来る。そして、当然のようにソファーに寝転がった。
そんなダミアンを見ている私の目は、点だ。
(ダミアンって、もしかしてお兄にすっごくそっくりなの!?
赤獅子ではなくて、赤虫なの!? )
「結界張るのは仕方ねーよ。
うちには可愛い駄々っ子エルザがいるし、街も物騒だろ? 」
「まあ、そうだな」
そしてダミアンはようやく私がいることに気付き、寝転がったまままじまじと私を見る。そして、当然のように告げた。
「俺、疲れたから、フィリップ勤務変われや。団長命令だ。
良かったら妹ちゃんも着いてったら? 」
(……はぁ? )
「スタンも今夜、勤務だろ。あいつ荒れ狂ってたけど、お前なんかしたのか? 」
鼻で笑う。そしてぽかーんとしている私に、彼は面倒そうに再度告げた。
「スタニスラスだよ」
その名を聞いて、飛び上がりそうになった。
(スタンと何かあった?
何もしていないんだけど……)
だが、はっと気付いた。進軍の時、私がダミアングッズを持っていたから……スタンはめちゃくちゃ怒っていたのだった。
しかも、部屋にあるダミアングッズを本人に見られるのは困る。必死に隠そうと赤うちわを手に持った。
だが、時すでに遅し。彼はぼんやりとダミアングッズを見ながら嬉しそうに告げた。
「お前、俺のファンなのか!! 」
(いや、ファンのふりですが……)
「嬉しい。これからも応援してくれよな」
こういう神対応だから、ダミアンのファンが増えるのだろう。そしてそのファンは、ダミアンが寝そべっているのを見るとどう思うだろう。
(その本性を知らなかったから推せていたけど、もう推す気にもならないよ……)
こうして私はダミアングッズを手に、逃げるように屋外へと出た。ダミアンと部屋の中で二人きりになりたくなかったからだ。
(何もない自信はあるけど、ファンに誤解されても困るからね)
そして、面倒そうに赤いローブを羽織って歩き始めるお兄の後を追ったのだ。
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