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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第二章

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情熱の赤獅子、ダミアン魔術師団長

 私が、絶対零度の青狼、スタニスラス騎士団長と友達であることは、私と彼だけの秘密だ。

 そう、アイドルとプライベートで親しくするには、匂わせないのが一番だ。



 ……ということで、とうとうやってみました、『推し変』。

 私は赤いうちわと赤いペンライトを持って進軍を見守った。


 いつものように彼は無表情を貫くが……


 (うっ、めちゃくちゃ見られてる。これは思い過ごしではなく、本当に見られている。


 ……しかも、怒っている!! )





「ねー、今日のスタニスラス様、いつも以上に怖かったよね」


「あれじゃあ怖くて近付けないわよね」


 人々の噂話を聞きながら、スタンごめんと心の中で謝る。


 (私は決してスタンを嫌いになったのではなく、匂わせないようにしてるんだよ……)


 だが、スタンもそのほうが嬉しいのではないか。私がスタニスラスを推すたび、スタンは複雑な顔をしていたのだから。



「それにしても、今日もスタニスラスはかっこよかったわねー!! 」


 アリスさんの話に、相槌を打っておく。


「今日はスタニスラスの機嫌が悪いって噂だけど、あれでいいのよ!

 スタニスラスが笑ってたら、私ファン辞めるかも」


「そ……そうですね……」


 同調しながらも、スタンごめんと心の中でまた謝る。


 真実を知ってから、スタンとの関係性も変わりつつある。さらに、推しと繋がってしまった者として、匂わせないようにと精一杯頑張っている。

 そんな私の事情を知らないアリスさんは、怪訝な顔で私に言う。


「エルザ、最近ドライになったよね」


 ぎくっ。飛び上がりたい気持ちでいっぱいだ。


「前はあんなにスタニスラスにベタ惚れだったのに」


 (ですよねー……)


 だが、匂わせないようにと心の中で必死に言い聞かせる。そして私は考えたのだ。


「だって最近、ダミアン推しですから!」


 ダミアンとは関わりのない私は、純粋にダミアンを推すことが出来る。ダミアンに対しては妄想を述べられるし、ベタ褒めすることも出来る。


 (スタンをベタ褒めするのは、なんだか恥ずかしいんだよね……)


「そっか、ダミアンねー」


 アリスさんはぼんやりと空を見上げながらぼやいた。


「ダミアンもいいけど、やっぱりスタニスラスよ。

 でも、ダミアンの推しが増えて、魔術師団員が増えるといいよね」


 そうきたか。そして、忘れていた事実を思い出した。


 (私は魔術師団に勧誘されないよう、ダミアンから逃げなければいけなかったんだ。

 それなのに、間違って推してしまった……)


「ダミアン推しなら、入ったら? 」


 案の定アリスさんに聞かれ、


「絶対嫌です」


ぴしゃりと跳ね除けた。そしてさらに追い打ちをかける私。


「アリスさんも、私がいなくなったら困りますよね? 」


 だが、アリスさんの反応は予想外だったのだ。


「困るけど……魔術師団員が減ってるから、軍が本当に苦労してるみたいなのよね。

 魔術師団がしっかり後方支援をしてくれないと、前線にいるスタニスラスたち騎士団が苦しい目に遭う」


「えっ!? 」


 驚く私に、アリスさんは慌てて付け加えた。


「まあ、スタニスラスは強いから、後方支援がなくても大丈夫だろうけど……」


「そうなんですね……」


 複雑な思いだ。

 スタンには元気でいて欲しい。だが、魔術師団には入りたくない……だけど、スタンの役には立ちたい……

 思考はその堂々巡りを繰り返していた。





 アリスさんの話が気になりすぎた私は、帰ってからお兄に聞いていた。


「魔術師団の茶虫、フィリップ様、教えて? 」


「はぁ!? 誰が茶虫だ? 」


 なんて言いながらも、お兄は私の話を聞いてくれる。そしてその通りだと唸るのだった。


「魔術師の不足は確かにある。危険だし、地味だし。

 それに最近は『革命派』が増えていて、入軍希望者自体が減ってるからな」


 お兄がいつにもなく難しい話をするため、ついていけなくなった私。私は思わず聞いていた。


「革命派!? 」


 するとお兄は相変わらず悩ましげな顔で答えるのだった。


「現在の政治体制に不満があり、新たな王を擁立しようとしている奴らのことだ。

 奴らは魔術師を頂点とした国家を作りたいらしくて……」


 そこで、急に厳しい顔になる。


「エルザ。お前、両親の言いつけ、破っていないだろうな? 」


「うん? 例の石のこと、誰にも言ってないよ。

 それに、気安く名字も名乗ってない」


 すると、お兄はほっとした顔になる。その理由が分からずなぜかとお兄に聞くが、お兄はそれ以上教えてくれなかった。そして、


「お兄のケチ!! 」


部屋の中で、いつものように魔法が炸裂することとなる。





 お兄とじゃれ合っていると、不意に扉がノックされた。覗き穴から外を見ると、そこには意外な……というより、会いたくない人物が立っていた。


「だ……ダミアン……」


 思わず彼の名を呼んでしまうと、


「は? ダミアン!? 」


身を起こすお兄。そしてそのまますたすたと扉に歩み寄り、がちゃりとそれを開けた。



 扉の向こうには、やはりダミアンが立っていた。赤みがかった髪に、アーモンド型の瞳。それはまさしくスリースターズのダミアンなのだが……


「づ……づかれだ……」


 ダミアンはよろよろと部屋に入り、お兄が張った結界に弾き飛ばされる。アイドルにあるまじき姿だ。挙げ句の果てに、倒れたまま声を張り上げる。


「はぁ!? フィリップ、お前、またややこしい結界張りやがって」


「団長のくせに、だらしないな」


 お兄が渋々結界を解除すると、ようやくダミアンは部屋に入ることが出来る。そして、当然のようにソファーに寝転がった。

 そんなダミアンを見ている私の目は、点だ。


 (ダミアンって、もしかしてお兄にすっごくそっくりなの!?

 赤獅子ではなくて、赤虫なの!? )


「結界張るのは仕方ねーよ。

 うちには可愛い駄々っ子エルザがいるし、街も物騒だろ? 」


「まあ、そうだな」


 そしてダミアンはようやく私がいることに気付き、寝転がったまままじまじと私を見る。そして、当然のように告げた。


「俺、疲れたから、フィリップ勤務変われや。団長命令だ。

 良かったら妹ちゃんも着いてったら? 」


 (……はぁ? )


「スタンも今夜、勤務だろ。あいつ荒れ狂ってたけど、お前なんかしたのか? 」


 鼻で笑う。そしてぽかーんとしている私に、彼は面倒そうに再度告げた。


「スタニスラスだよ」


 その名を聞いて、飛び上がりそうになった。

 

 (スタンと何かあった?

 何もしていないんだけど……)


 だが、はっと気付いた。進軍の時、私がダミアングッズを持っていたから……スタンはめちゃくちゃ怒っていたのだった。

 しかも、部屋にあるダミアングッズを本人に見られるのは困る。必死に隠そうと赤うちわを手に持った。


 だが、時すでに遅し。彼はぼんやりとダミアングッズを見ながら嬉しそうに告げた。


「お前、俺のファンなのか!! 」


 (いや、ファンのふりですが……)


「嬉しい。これからも応援してくれよな」


 こういう神対応だから、ダミアンのファンが増えるのだろう。そしてそのファンは、ダミアンが寝そべっているのを見るとどう思うだろう。


 (その本性を知らなかったから推せていたけど、もう推す気にもならないよ……)


 


 こうして私はダミアングッズを手に、逃げるように屋外へと出た。ダミアンと部屋の中で二人きりになりたくなかったからだ。


 (何もない自信はあるけど、ファンに誤解されても困るからね)


 そして、面倒そうに赤いローブを羽織って歩き始めるお兄の後を追ったのだ。




いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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