閑話 心に差した光 (スタンside)
父の教えは、『強く優しく』だった。
それは、僕のこのなよなよした性格を直せということではなく、『大切な人を守れる強い人になれ』ということだった。父は僕のこの性格について、特に意見することはなかった。むしろ、優しくていい子だと褒めてくれていた。だから僕は、このヘタレた性格は褒められるものだと思っていた……
父は今でこそ別の仕事をしているが、若い頃は騎士をしていた。僕は小さな頃から、そんな父親に剣術を叩き込まれてきた。父の教え『強く優しく』に則って。
僕には父譲りの運動神経があった。そして、英才教育のおかげか、剣術も群を抜くものがあった。そのため、何の疑いもなく家を出て、首都の騎士団に所属した。
剣術こそ得意であったが、このなよなよした性格は治らなかった。実家では、とやかく言われたことがなかったからだ。だが、首都ニーズの騎士団に入った瞬間、上長から厳しく叱られた。
「シャンと背筋を伸ばせ!」
「ヘタレるな!」
「その泣きそうな表情はなんだ!? 」
そして最後に、諦めるように告げられた。
「スタニスラス、君は騎士になったんだよな?
騎士がそんなに弱々しかったら、市民はどう思う?
きっと、この騎士には治安維持を任せられないと思うだろう。
そんなに弱い騎士だったら、少しくらい悪事を働いても許してもらえると思うだろう」
それで僕は反省した。騎士として常に堂々と振る舞い、人々を安心させるために尽力した。
僕の血筋は、元を辿ると北の国にあるようだ。
故郷でも稀な肌色髪色だったが、首都ニーズで同じ人種に出会ったことがない。そのため、騎士としてもすぐに目立ってしまう。幼い頃から培ってきた剣術も奏功し、いつの間にか騎士団長になっていた。
それが悪夢の始まりだった。
同期のダミアンとロランは、二人とも人気を絶していた。そこに僕が入り込んでしまったのだ。僕もいつの間にか崇められ、僕たちはスリースターズなどという信じられない名前で呼ばれ始める。
人々の前で油断できない僕は、酷く疲れていた。それとともに、落ち込んでもいた。
僕を崇めてくれている人は、この本性を知ると離れていくに違いない。それは、騎士として信頼出来ないからだと言われれば、それまでだが……
こうして、一瞬も気が抜けない日々が続いた。そして、とうとう見かねたロランが、姿変のピアスをくれた。
ロランのピアスのおかげで、僕はプライベートでは自由に過ごすことが出来た。だが、決して騎士団長のスタニスラスだとはバレないようにしていた。バレた瞬間、僕の信頼度はがた落ちだと思ったから。
こうしてオフの時は茶髪姿で過ごしていた僕は、ある日偶然エルザに会った。空腹で死にそうだった僕に、食べたことのない美味すぎる料理を食べさせてくれたのだ。オムライスを食べた時、天使に出会ってしまったと思った。
おまけに、エルザは僕が買い占めたテイクアウトのオムライスを運ぶのを手伝うと言ったり、さりげなく魔法でオムライスを軽くしてくれたりした。
いい子なんだな、と思った。
そして、僕はエルザの店に頻繁に通うことになる。オムライスが美味しすぎたのと、試作といってこれまた美味しすぎる食べ物を食べさせてくれたためだ。
僕はエルザの料理に、いつの間にか胃袋を掴まれていたのだ。
薄々気付いていたが、エルザは『スタニスラス騎士団長』に、やはり周りと同じ期待を抱いていた。かっこいい騎士団長が好きなのだ。
進軍の時にエルザが僕を輝く瞳で見ているのも知っている。嬉しいはずなのに、複雑だった。
だから、僕が騎士団長だとバレた時……絶望した。なよなよしてヘタレな僕が、スタニスラス騎士団長だ。きっとエルザは僕に幻滅しただろうし、嫌いになったに違いない。騎士としても信用してもらえないだろう。もう、笑顔で話すこともないのだと思うと、胸が張り裂けそうだった。そして、そんなエルザに合わせる顔がなかった。
それなのに……
何を思ったのか、部下がエルザの店でオムライスをテイクアウトしてきた。そのパックには、可愛い字で書かれていたのだ。
『勤務、頑張ってね』
それを見た時に、泣きそうになった。僕、弱虫だとバレたのに、嫌われていないんだと思って。
気になりすぎて店を覗きに行った僕を見たエルザは、いつも通りだった。いつも通り僕のことをスタンと呼び、倒れている僕を心配してくれた。
そんなエルザは、「ありのままのスタンが好き」だとも言ってくれた。完璧な騎士ではなく、弱くてヘタレな僕が好きなのだ。その瞬間、暗かった気分がすーっと晴れていくのが分かった。
(いいんだ。僕は、僕のままでいいんだ……)
僕はずっと、この言葉を言われるのを待っていたのかもしれない。
皆が完璧な騎士団長を期待しても、本当の僕を好きでいてくれる人がいる。その事実が、どれだけ僕を安心させ、僕を僕らしくさせてくれるのだろう。
気付くと、エルザのことばかり考えている自分がいた。
(あぁ、重症だな……)
頭を抱えながらも、ニヤついてしまった。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




