推しの笑顔は最高だ
「わぁ、すごい!!
お花畑、綺麗だね!」
私は一面に広がる白い花畑を見て、声を上げていた。
この都会に、こんな場所があるだなんて。そして誰もいないということは、誰も知らない場所なのかもしれない。
「エルザなら喜んでくれると思った」
スタンはしゃがみ込み、白い花をぽきっと折る。そしてそれを器用に編み込み始めた。そんないつも通りのスタンにほっとする。
スタンは下を見て花を編みながら、消え入りそうな声で告げる。
「ごめん……声が震えちゃって。
なんだか、エルザを見ることも出来なくって……」
「うん……」
私は、小さく身を震わすスタンの横にしゃがみ込む。そして、次第に長くなっていくその花を見ていた。
「言わないといけないと思ってても、怖くて言えなかった。
エルザはきっと幻滅するだろうし、僕から離れていくだろうと思って……」
私は抵抗するように、首を横に振る。
「本当の僕は、かっこよくもなんともない。
弱くって、臆病で……」
「そんなことないよ」
下を向いてもじもじ花を編んでいるスタンに、抱きつきたい衝動に駆られる。
不安を感じていたのは私だけではなく、スタンだって同じだったのだ。
「あの時は、助けてくれてありがとう。
スタン、すっごくかっこよかったよ」
「えっ……」
上げられた茶色の瞳から、目が離せなくなる。微かに青みがかった、綺麗な茶色い瞳から。そして、その健康的な肌色の頬は、微かに赤みを帯びている。
「でも私、ありのままのスタンが好きなの。
優しくって、おっちょこちょいで、わざと雷に撃たれたりして……」
「ありのままの僕が、好き……なの? 」
スタンに聞かれると、我ながら何てことを言ったのかと恥ずかしくなる。
好き、だ。私の好きは、スタンの好きとは違うかもしれない。だけど、それでいい。こうやって友達として隣にいられるだけで、私は幸せだ。推しだからではなく、スタンという一人の人物と共にいたい。
「そっか。ありがとう、エルザ」
眩しいほどの笑顔で、スタンは私を見た。その顔からは、さっきまでの弱々しくて暗い表情が消える。
憑き物が取れたように、すーっと。
「改めて自己紹介するね。
僕の名前は、スタニスラス・シュヴァリエ。首都ニーズの騎士団長。
好きな食べ物はエルザの作ったオムライスで、趣味はエルザと街を歩くこと」
「私ばっかりじゃん」
思わず吹き出す私と、幸せそうに笑うスタン。彼は編み上がった花冠を、そっと私の頭に乗せる。
「だって、僕もエルザが好きなんだもん」
その好きは、私の好きとは違っている。だけど、それでいい。こうして彼が隣にいてくれるだけで、私は幸せだ。
頬を染めながらスタンを見ていると、突っ込まずにはいられなかった。ずっと気になっていたことを、私はとうとう聞いてしまう。
「スタン……騎士団長のスタンとは、全然違うよね? 」
「あー……絶対突っ込まれると思ってた」
先ほどまでの甘い表情は消え、スタンはすでにいつも通りのスタンに戻っている。その様子に安心する。
(だって、あんなに甘い瞳で見られると、勘違いしそうになってしまうよ)
スタンはいたずらそうに笑いながら教えてくれた。
「僕は遠方の出身だから、ここではあの髪色肌色が珍しいらしくって。
目立つから悩んでいたら、神官のロランが魔法のピアスを作ってくれたんだよ」
「ロランって……」
スリースターズのロランだよね? なんて言いそうになる私を、スタンはわざとらしく遮った。
「ほら!」
スタンはその左耳のピアスの飾りを、すっと引き抜いた。すると、スタンの周りに青いもやが現れる。ぐるぐる渦巻くようなもやに囲まれながら、その姿が変化する。
髪は白銀に輝き、先に微かな青色が灯る。健康的な肌色は、すっと色素が抜けたような薄い色へと変わる。そして茶色の瞳は深い青色へと変化する。
一瞬にして現れたのは、他でもないスタニスラスだった。その美しさに失神してしまいそうだ。
彼は決して公の場では見せない笑顔を浮かべる。まるで太陽のように、優しくて眩しい笑顔だ。その笑顔に、胸のときめきが止まらない。
「エルザ、ありがとう。僕と仲良くしてくれて」
推しに言われると、ぶっ倒れてしまいそう。いや、少なくとももうすぐ鼻血は出るはずだ。
「これからも、ずっと一緒にいてね」
白い花畑の中にいる、光り輝くようなスタン。これは幻だろうか。いや、幻のはずがない。スタンと一緒にいるということは、この姿にも慣れないといけない。
(そ……そんなの無理だ……)
アイドルオタクとしては、頭を抱えて叫びたい気持ちでいっぱいだった。
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