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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第一章

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11/29

怪しい男≒推しの来店

 今日もいつも通りの日々を迎える。カフェでひたすら仕事をして、帰って寝る。それだけだ。


 買い出しの帰りに、人だかりが出来ていた。きっとそこに、スリースターズの誰かがいるのだろう。人だかりの多くが青色のうちわを持っているということは、そこにいるのは彼だ。


 逃げるようにして去る私は、遥か遠くに彼の姿を捉えた。

 輝く銀色の髪の先は、少し青味がかっている。ブルーグレーの騎士服を着て、ぴんと背筋を伸ばしている。そしてその顔は美しく、無表情でもある。

 彼は私がいなくても、いつも通りの日々を送っている。所詮私なんて、ただの都合のいい友達だったのだろう。


 (もうそろそろ、彼のことを忘れなきゃ、ね)


 そう思ってカフェの扉を開くと、そこには騎士服姿の見慣れない男性が立っていた。




 ブルーグレーの服に、長いマント。腰には輝く剣を差している。


 (彼と同じだわ)


 無意識に、彼のことを思い出してしまう。



 騎士は私を見るなり、ぶっきらぼうに告げた。


「団長が、オムライスをご所望だ」


「……えっ!? 」


 思わず固まる私。そして顔を引き攣らせながら、かろうじて聞いた。


「あの……団長って……」


「スタニスラス騎士団長に決まっているだろう」


 (スタンが……)


 私はふふっと笑ってしまった。そして、腕まくりをして魔法陣を描き始める。


 (推しに食べ物を差し入れるのは、迷惑なことだ。

 だけど、推しが望んでくれるのなら、いいよね? )


 魔法でオムライスを作る私を、騎士は驚いて見ていた。そしてオムライスをパックに詰め、最後の魔法をかける。パックを開いた時にオムライスが温められる、火の魔法だ。


 (きっとスタンは任務で疲れているだろうから、温かいオムライスを食べさせてあげたい)


 騎士に手渡す前に、ふと思った。


 (ファンレターくらい、いいよね)


 そして、パックにマジックで小さく書いた。


 『勤務、頑張ってね』


 出過ぎたマネだと分かっている。ただのファンに戻るべきだとも、分かっている。だが、スタニスラスではなく、スタンが頭に浮かぶのだ。あの太陽みたいな笑顔だとか、ぷーっと頬を膨らませた顔だとか。



 このオムライスを見て、彼が微笑んだこと。

 そして、涙を必死にこらえ、美味しそうに食べていたことなんて、私が知るはずもなかった。





◆◆◆◆◆




 次の日。



「エルザ、怪しい人がいるんだけど」


 困った顔のアリスさんが私に言う。


「男性が店の前を行ったり来たり……もう、百往復くらいしてるんじゃないの? 」


「えぇーッ!? もしかして、強盗とかじゃないですか!? 」


 この街は物騒だから、危険な人たちがたくさんいる。スリなんて多発しているし、強盗だって入ることもある。それは、スタンと街歩きをした時にも、襲われた時にもよく分かった。


 (スタンか……何してるんだろう)


 なんて邪なことを考えながら私は店外に出て、怪しい男を退治するために小さく魔法陣を描いた。

 素早く描かれた魔法陣からは、凄まじい雷が放出される。そして、目の前にいるその怪しい男をに襲いかかった。


「うぎゃああああ!! 」


 断末魔の悲鳴を上げて倒れるその男性を見た私は、息を呑んだ。


 そこにいたのは、いるはずのない人だった。茶色い髪に、健康的な肌色。清潔な白いシャツ。それらは私の雷によって、黒く焼けこげている。


 私は思わず彼に駆け寄って、何度も謝っていた。


「す、スタン!ごめんっ!!」


「スタンだと思わなかった!」


「本ッ当にごめん!強盗だと思ったの!! 」


 スタンはうっすら瞳を開け、幸せそうに私を見上げる。そして、いつものふわっとした声で囁いた。


「エルザだ……エルザがいる……」


「うん、いるよ!? 」


 その手がそっと伸び、私の頬に触れる。つーっと一筋の涙が頬を伝う。


「元気にしてるか心配になって、見に来ちゃった……」


 (あぁ……もう駄目だ)


 離れようと思っても、スタンのことばかり考えていた。実際に会うと、会えなかった分気持ちが大きくなっているのに気付く。

 私は、覚悟を決めるしかないのだろう。


 本当は強いのに、こうやってわざと私のへなちょこ魔法に撃たれるのだから。手の届かない人なのに、私を見て嬉しそうに笑うんだから。


「あのね、エルザ」


 ふんわりとした声で、スタンが私の名を呼ぶ。その声を聞くのが、心地よいと思ってしまう。


「エルザに話したいことがあるんだ」


「うん……私も……」


「一緒だね」


 スタンは嬉しそうに太陽みたいに笑い、そっと私の髪に触れる。ぴりりと電流が流れるのは、雷が残っていたからではないらしい。雷よりももっと強く、甘い電流が体の中を駆け回る。


 スタンはそっと立ち上がり、私の手をぎゅっと握る。その大きくて優しい手を、私も握り返していた。



 


いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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