怪しい男≒推しの来店
今日もいつも通りの日々を迎える。カフェでひたすら仕事をして、帰って寝る。それだけだ。
買い出しの帰りに、人だかりが出来ていた。きっとそこに、スリースターズの誰かがいるのだろう。人だかりの多くが青色のうちわを持っているということは、そこにいるのは彼だ。
逃げるようにして去る私は、遥か遠くに彼の姿を捉えた。
輝く銀色の髪の先は、少し青味がかっている。ブルーグレーの騎士服を着て、ぴんと背筋を伸ばしている。そしてその顔は美しく、無表情でもある。
彼は私がいなくても、いつも通りの日々を送っている。所詮私なんて、ただの都合のいい友達だったのだろう。
(もうそろそろ、彼のことを忘れなきゃ、ね)
そう思ってカフェの扉を開くと、そこには騎士服姿の見慣れない男性が立っていた。
ブルーグレーの服に、長いマント。腰には輝く剣を差している。
(彼と同じだわ)
無意識に、彼のことを思い出してしまう。
騎士は私を見るなり、ぶっきらぼうに告げた。
「団長が、オムライスをご所望だ」
「……えっ!? 」
思わず固まる私。そして顔を引き攣らせながら、かろうじて聞いた。
「あの……団長って……」
「スタニスラス騎士団長に決まっているだろう」
(スタンが……)
私はふふっと笑ってしまった。そして、腕まくりをして魔法陣を描き始める。
(推しに食べ物を差し入れるのは、迷惑なことだ。
だけど、推しが望んでくれるのなら、いいよね? )
魔法でオムライスを作る私を、騎士は驚いて見ていた。そしてオムライスをパックに詰め、最後の魔法をかける。パックを開いた時にオムライスが温められる、火の魔法だ。
(きっとスタンは任務で疲れているだろうから、温かいオムライスを食べさせてあげたい)
騎士に手渡す前に、ふと思った。
(ファンレターくらい、いいよね)
そして、パックにマジックで小さく書いた。
『勤務、頑張ってね』
出過ぎたマネだと分かっている。ただのファンに戻るべきだとも、分かっている。だが、スタニスラスではなく、スタンが頭に浮かぶのだ。あの太陽みたいな笑顔だとか、ぷーっと頬を膨らませた顔だとか。
このオムライスを見て、彼が微笑んだこと。
そして、涙を必死にこらえ、美味しそうに食べていたことなんて、私が知るはずもなかった。
◆◆◆◆◆
次の日。
「エルザ、怪しい人がいるんだけど」
困った顔のアリスさんが私に言う。
「男性が店の前を行ったり来たり……もう、百往復くらいしてるんじゃないの? 」
「えぇーッ!? もしかして、強盗とかじゃないですか!? 」
この街は物騒だから、危険な人たちがたくさんいる。スリなんて多発しているし、強盗だって入ることもある。それは、スタンと街歩きをした時にも、襲われた時にもよく分かった。
(スタンか……何してるんだろう)
なんて邪なことを考えながら私は店外に出て、怪しい男を退治するために小さく魔法陣を描いた。
素早く描かれた魔法陣からは、凄まじい雷が放出される。そして、目の前にいるその怪しい男をに襲いかかった。
「うぎゃああああ!! 」
断末魔の悲鳴を上げて倒れるその男性を見た私は、息を呑んだ。
そこにいたのは、いるはずのない人だった。茶色い髪に、健康的な肌色。清潔な白いシャツ。それらは私の雷によって、黒く焼けこげている。
私は思わず彼に駆け寄って、何度も謝っていた。
「す、スタン!ごめんっ!!」
「スタンだと思わなかった!」
「本ッ当にごめん!強盗だと思ったの!! 」
スタンはうっすら瞳を開け、幸せそうに私を見上げる。そして、いつものふわっとした声で囁いた。
「エルザだ……エルザがいる……」
「うん、いるよ!? 」
その手がそっと伸び、私の頬に触れる。つーっと一筋の涙が頬を伝う。
「元気にしてるか心配になって、見に来ちゃった……」
(あぁ……もう駄目だ)
離れようと思っても、スタンのことばかり考えていた。実際に会うと、会えなかった分気持ちが大きくなっているのに気付く。
私は、覚悟を決めるしかないのだろう。
本当は強いのに、こうやってわざと私のへなちょこ魔法に撃たれるのだから。手の届かない人なのに、私を見て嬉しそうに笑うんだから。
「あのね、エルザ」
ふんわりとした声で、スタンが私の名を呼ぶ。その声を聞くのが、心地よいと思ってしまう。
「エルザに話したいことがあるんだ」
「うん……私も……」
「一緒だね」
スタンは嬉しそうに太陽みたいに笑い、そっと私の髪に触れる。ぴりりと電流が流れるのは、雷が残っていたからではないらしい。雷よりももっと強く、甘い電流が体の中を駆け回る。
スタンはそっと立ち上がり、私の手をぎゅっと握る。その大きくて優しい手を、私も握り返していた。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!




