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第二十六話 罠だとしても……

 私たちは、気合いを入れ直して下の階へと向かうことになった。

 9階層にはカイルが待ち構えていることは分かっている。しかも、相手は相当準備をしていることだろう。

 それに対してこちらは準備ができてはいない。特に、リョウコちゃんのスキルとコウヘイさんのスキルとの相性に関しては全く確認できていない状況だ。

 明らかに不利な状況なのは間違いない。

 ただ、こちらはリョウコちゃんのスキル自体は知っている。けれど、それを向こうが知っているとは思えないのは明らかに有利なところではあるはず……。


「ただ、昨日の話を聞いてエビルゴーストへの対抗手段を持たずにここに私たちが来ているとカイルが考えているはずがありません。つまり、リョウコちゃんが魔法を使えるということは想定しているはずです」


 私はそう見解を話す。

 そう。それに関しては間違いないと思う。というより私だったらそう判断をするはずだ。エビルゴーストについての話が真実であれ嘘であれ、それを判断する術を私たちは持っていない。それなら、その対策をしてくる方が自然。

 そこに現れた新しい仲間。その仲間は物理攻撃以外の攻撃手段を持っていると考えるのは当然のことだ。


「それと、リョウコちゃんのスキルに頼りっぱなしなのは一番いけません。その後にエビルゴーストとの戦いが控えていますから……」


 コウヘイさんがずっとリョウコちゃんのことを見ていることには気づいていた。

 確かにリョウコちゃんのスキルなら最終的に危険になったときに骸骨(スケルトン)軍を一掃することぐらいは簡単そうだ。だけど、そもそもエビルゴーストは私たちだけでは倒せないからリョウコちゃんを仲間にしたわけで……。


「ということは、できる限り俺たちで倒していき、リョウコのスキルは本当にヤバくなったときに頼る形にするのが理想か……」


「ええ。ただ、リョウコちゃんのスキルに関する検証はしたいと思うのでその辺のタイミングも考えながらやらなければいけませんね」


 そもそも、カイル戦を突破できるのかという不安があることは間違いない。だけど、その後のことも考えておかなければエビルゴーストに簡単にやられてしまう。それだけは避けなければならない。


「……意外と大変そうだな」


「なんとかなりますって!今までだってなんとかなったんですから!」


 さすがはユイさん。

 そう言うと思っていた。


「ボクは、何をすればいいですか?」


 リョウコちゃんがそう尋ねてくる。


「リョウコは、俺が指示したときに魔法を使ってくれればいいよ。確か、頭に思い浮かぶんだったよな」


「はい。その場に合ったものがパッと思いつきます」


 どういう効果が発揮されるかは実際に使用してみないと分からないのだろう。

 昨夜本人に少し話を聞いてみたがそのような返答だったことを私は思い出していた。


「じゃあ、行くか」


 コウヘイさんの言葉に私たちは一歩を踏み出した。


 たどり着いた9階層は、静かなものだ。

 すぐに向かってこないとも限らないから、警戒していたんだけど、全く襲ってくる気配がない。

 相手は骸骨(スケルトン)。奇襲ができるタイプの魔物ではない。

 とりあえずこの最初の部屋にはいないようだ。


「よし、とりあえずこの部屋にいないんだったらモモカさんにはこの部屋にいてもらう戦略が取れるな」


「そうですね……」


 私がどこにいればコウヘイさんの『平均化』の範囲内に入るかはここに来る前に確認を済ませておいた。その実験は敵がいなくても行うことは可能だったから。この9階層の広さだったら、最初の部屋にいてもとりあえず4つ先の部屋までは届くことになる。前に進んでいき、1つずつ部屋を前に進めていけば、私のスキルの範囲に入ることなくユイさんたちは攻撃を行うことができる。

 鉄壁の防御を保ったまま攻撃をすることができる以上、普通にやったら負けるはずがない。


「これだといつもの戦略が使えるから、骸骨(スケルトン)なんかに負けるわけない気がするんですけど……」


 ユイさんも私が考えた通りのことを考えているみたい。どんな罠が待ち受けていたとしても、基本的にはこちらの戦略は変える必要があるとは思えない。逆に少し変えたほうがそこを付け込まれてしまう気がする。

 そう、相手は策略を立てるのが得意なようだ。そういう相手はこちらが警戒していることを逆手に取った戦法を考えてきていてもおかしくはない。


 ただ、そこから先も問題なく進めているようだ。ユイさんとコウヘイさんが戦っている声さえ聞こえてこない。その間もリョウコちゃんとは一緒にいる。

 基本的には私の近くにいたほうが安全だから、それでいいのだけれど、戦う人はできればコウヘイさんのもとにいてほしいんだけどな……。


 しばらくするとコウヘイさんとユイさんが戻ってきた。


「少し、モモカさんにも確認を取ってほしい事態に直面しまして……」


 そうコウヘイさんが言っている。

 最初の部屋から三部屋目。昨日来た時には一本道だったそこの部屋に分かれ道ができていたらしい。それは確かに気になる……。


「どう思います?」


「うーん。罠なのは間違いないと思います。ただ、たった一日でいくら魔物とは言ってもしっかりとした部屋を作るなんてできるのか分かりません。そうなると、ただの行き止まりという可能性も……」


 行き止まりだとしても、行った方がいいのは間違いないと思う。ここでの私たちの役目は骸骨(スケルトン)軍の討伐。いる可能性があるところを避けて通ることはできない。

 ここは……。


「私が行きます」


 私はそう言って手を上げる。


「し、しかし……」


「大丈夫です。たとえ罠だったとしても、私であればスキルで全て防ぐことができます。皆さんはここにいてください」


 そう。ユイさんやコウヘイさんが行くよりもリスクは少ないと思う。私であればどれだけの大軍勢が襲ってきても基本的にダメージを負うことはない。完全に持久戦に陥ってしまう可能性はあっても、少なくとも私が死ぬことはない。まぁ、それはお互い様なわけだけれど。


「この場合、最も被害の少ない道を考えるべきですから。これが正解です」


 私のその言葉にコウヘイさんは静かにうなずいてくれる。


「じゃあ、お願いします」


 私のことは信頼してくれているようだ。本当にありがたい。


「待ってよ、モモカさん……」


 私が分かれ道の先に歩を進ませようとすると。リョウコちゃんがしがみついてきた。

 今まで一緒にいたのにここで離れるというのは心細いのだろう。気持ちは分からないでもない。


「リョウコ、気持ちは分かるけど……」


「いや。モモカさんが行くっていうならボクもついていく!」


 完全に駄々っ子だ。まぁ、でも子供だから仕方がない面もあるのかもしれない。

 困ってしまうけれど、ここは私が行くのが最善策なのは間違いない。私が行かないわけにはいかない。


「じゃあ、リョウコちゃんもついてきて」


 仕方がない。苦肉の策だ。


「ごめんね……」


 リョウコちゃんは謝るけどから私から離れるつもりはなさそうだ。

 とりあえず仕方がないからリョウコちゃんを連れて私は道の先に向けて歩き出す。

 当然私のスキルの範囲内にいてくれればリョウコちゃんもダメージを受けることはない。そういう意味では安全だ。攻撃が必要な時はリョウコちゃんにお願いすればいい。

 さっき、私自身が却下したリョウコちゃんに頼る戦い方を自分が考えてしまったことに少し苦笑するが仕方がない。


 分かれ道の先を進んでみるけれど、しばらく何もない。すぐに行き止まりというわけでもなかった。

 スキルを使用しながら警戒を怠らずに前へと進んでいくが、骸骨(スケルトン)一匹も出てこない。

 これは何もないのか?いや、そんなはずは……。

 そう思っていたところ、前方に扉が見える。鍵穴のついている形式の扉だ。


「モモカさん、あれ……」


「うん。怪しいね……」


 明らかに罠ですよと扉自体が言っている。しかし、罠だとしても飛び込んでみないと始まらない。鍵穴がついているということは、どこかに鍵があるということ。たとえ開いていないとしてもその鍵を探せばいい。


 私は扉に近づいて、そのまま扉を押す。鍵は開いているようだ。


「大丈夫?リョウコちゃん。中に入るよ?」


 私の問いかけにうなずくのが見える。

 そして、私は意を決してその扉の中に入った。


 すると、ガシャンという音とともに扉が閉まってしまった。

 閉じ込められた……?


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