第二十七話 カイル現る
「すいません!閉じ込められました」
そうモモカさんの声が聞こえてきたのは、モモカさんが道の先に進んでからしばらくたってからだった。
俺とユイは顔を見合わせ、道の先に進もうとしたその瞬間、部屋に骸骨の群れが現れた。もう一つの道の方からだ。
「こちらには敵が!モモカさん、スキルは?」
「使っています。こちらには敵が出てくる気配はありませんし、特に問題ありません」
とりあえず、俺は『平均化』を使用。
防御力は問題なく上昇しているようだ。
あれかな?カイルはあそこに閉じ込めれば俺のスキルが使えなくなると思ってたのかな?それだったら考えが甘い。このぐらいの距離なら問題ない。俺の『平均化』の範囲内だ。
「『狂化』でいきます?『大剣化』でいきます?」
ユイが俺にそう尋ねてくる。どちらを使うのが適切かの判断を求めているんだろう。
敵の数はそれほど多くはない。ただ、上位種がそろっていて、この部屋で使用できるようなレベルの『大剣化』では一撃で倒すことはできそうにない。
「とりあえず、『狂化』でいこう。敵の数は多くない。俺と二人でやればそれほど時間はかからないと思う」
そう言って俺たちはいつものように『狂化』で攻撃を始める。
2分が過ぎて『狂化』の効果が切れる頃にはだいぶ数が減ってきている。正直、何の芸もない。正直言って手ごたえがない。
「うーん。こんなんでいいんだったら、問題ないんじゃないですか?やっぱり、どこまでいっても魔物は魔物。簡単に倒せちゃいますよ!」
ユイはテンション高めでそんなことを言っている。
「うーん……。それは確かにそうだよな。これがこのまま続くんだったら、何の問題もなく突破出来そうだ」
俺は、同じことを考えていたので素直に同意する。
それから、もう一度『狂化』を使って部屋の中の大軍を一掃するとそのまま次の部屋へと進む。次の部屋に敵はいないようだ。
「どうします?どっちの部屋に行きますか?」
次の部屋は、道が二手に分かれている。これは元々の情報通りだ。
右の道はすぐに次の部屋があり、左の道は少し進まないと次の部屋にはたどり着かないはずだ。
「まぁ、次の階層への道は右の道につながっているはずだし、普通にそっちに行けばいいだろ。正直、行く必要のない部屋に行くのはさっきのでこりごりだ」
もし左の部屋に、さっきモモカさんが行った部屋みたいに罠が仕掛けられていたら困る。俺たちは二人いるから何とか戦えているけれど、これ以上分断されるのは困る。そうなった場合の策も考えていないわけではないけれど、できる限りこのまま二人で進んでいきたい。
「『平均化』での守備力は、まだ問題なさそうだな」
正直、そろそろ『平均化』の範囲外になってしまうんじゃないかと思っている。そうなったら、守備力が低い状態で戦わなければいけない。そうなると、少し心もとない気はする。
「大丈夫ですよ!実際まだまだ問題ないんですから安心して進みましょう!」
ユイの言葉に押されて俺たちは、右の道へと進む。そこには、敵の集団が待ち構えていた。
数はさっきよりも少し多い。やっぱり、『大剣化』よりも『狂化』を使った方がよさそうな敵の割合だ。
「じゃあ、さっきと同じようにいこうか」
そう言って、さっきと同じ作業を始める。
そう、はっきり言ってここまでくるとただの作業だ。敵が襲ってくる。それを倒す。また敵が襲ってくる。またそれを倒す。その繰り返し。全く面白みもないただの作業。
……その油断がよくなかったんだろう。
ちょうど、2分が経ち、『狂化』が切れるその瞬間。
一気に敵が突っ込んできた。
その敵の勢いに俺はそのまま押し流されてしまう。攻撃するが、『狂化』が切れた状態の攻撃力では一撃で倒すことはできないようだ。
ユイの方も、同じような感じだ。
俺は瞬間的に『平均化』を攻撃力の部分だけ解くことにする。この状態でたたくのは得策ではないという判断だ。
俺は押し流されながらユイの方を見る。ユイの攻撃力は戻ったようで普通に攻撃が劇散るみたいだ。
「え?あれ?」
戸惑った顔をしているが仕方がない。俺はそのまま、部屋の外に押し出されてしまった。
その瞬間、部屋と道の境目に鉄格子が落ちてくる。
部屋の中にはユイと骸骨の群れだけが取り残されているようだ。
「コウヘイさん!大丈夫ですか?」
ユイの声は聞こえるが、俺は中に入ることはできない。またもや分断されてしまった形だ。
「だ、大丈夫だ。ユイは?」
「私は、別に!骸骨だって攻撃力が戻れば敵じゃないですし」
そう言って攻撃を繰り返している。
確かに、心配なさそうだ。
「ん?」
ユイが攻撃している様子を眺めていると、突然後ろで物音が響いた。俺が振り返ると、敵が迫ってきているのが分かる。
左側の道の方からやってきているんだろう。
「思いのほかうまくいきましたね」
「カイル……」
カイルは左側の道の先にいたらしい。後ろの方から奴がやってきた。
「そちらの道に進んでいただいて助かりましたよ。左側の道に進まれたらどうしようかと思っていましたから」
そう言って奴は微笑んでいる。
「俺たちを分断しただけでいい気になって出てきていいのか?このまま、俺がお前に攻撃を仕掛ければ終わりだぞ?」
俺は、そう言ってカイルの空虚な目を見つめる。
「そうはならないことが分かっているからこうして出てきたのですよ。皆様が分断に弱いということは知っています。実際、こうして敵が大勢現れたのにあなたは攻撃を仕掛けないでしょう?」
そう言って笑うカイル。
だけど、別にこちらの戦い方は変わらない。
このぐらいの距離なら問題はない。俺のスキルの範囲内だ。
「ユイ!『狂化』だ!」
「はい!」
ユイはそのまま『狂化』を使い、攻撃力を高める。
それに伴って俺も攻撃力が上がる。
その攻撃で目の前の骸骨を攻撃すれば……。
そのまま俺は剣を振り抜く。
俺の攻撃は敵に当たり、そのまま次の敵を攻撃する。
今までと何も変わらない。
こうしていればそのうち道は開けるだろう。
そのまま攻撃を続けるがしばらくすると違和感に気づく。
敵が……減ってない……?
「かかか。こちらはあなたがそのスキルでどの程度の攻撃力になるかは分かっています。それさえ分かっていれば対処は容易い」
カイルがそう言っているが構わず俺は攻撃を続ける。一回攻撃を当てるが、相手は倒れない。
いや、何度も何度も攻撃しているが倒れる気配がない。
……どういうことだ?
「不思議そうですね。今までは倒れていた敵が倒れない状況が」
「どういうことだ……?」
「あなた方のスキルは、純粋に攻撃力を高めるだけ。それなら、こちらはそれを上回る防御力を手にすればいい。それだけのことですよ」
「つまり、防御力の強い骸骨を生み出したってことか?」
「そういうことになりますね。まぁ、1日で作らなければいけなかったので、それほど多く作るわけにはいきませんでしたが……」
そうだ。ユイの方は……?
俺は後ろを振り返る。
どうやら、ユイの方は問題なく敵の数が減っているみたいだ。
「皆様のパーティーの要はあなたでしょう。あなたが指示を与え、あなたがスキルを使う。それにより、それぞれの実力の調整をしているように見受けられます。それなら、あなたさえ抑えればこちらは勝ったようなものだ」
どうやら、狙いは俺だったらしい。
俺を部屋から押し出し、ユイと分断したのは、俺が1人の状況を作り出すため。
そして、その状況を作り出したら、カイルが作り出したという防御力の高い骸骨を使って、俺を殺すってことか……。
「お察しの通り、私もスキルを持っておりまして。その内容は、指揮する者と感覚を繋げる『繋魂』と仲間の魂を犠牲にして新たな仲間を作り上げる『結魂』でして。『繋魂』で敵の能力の隙を見つけ、それに合わせた個体を『結魂』で作り上げる。そうやって我らの軍隊は生き残ることができているんですよ」
カイルはそう言って嬉しそうにしている。
何が、生き残ることができているんですよだ……。
俺はどうすればいいんだ。




