第二十五話 ダンジョン再々挑戦
俺たちは次の日、早速ダンジョンへと向かった。
昨日の話し合いで、とりあえず実戦で試してみないことには俺たちのスキルがどうかみ合うかがわからないという結論になった。
だから、今日はギルドに寄ることもなく、起きたらすぐにここへ来た。
「とりあえずまずは、リョウコちゃんが冒険者になるために5回層に行かないとですね!」
ユイはテンション高めにそう言っている。
「まぁ、それはそうだけど、どちらにしても5階層には行くじゃないか。当然」
「違いますよ!こういうのは気分が大切なんです!5階層が途中でしょうがなく立ち寄る場所って考えるより、目的地だって考えた方が気分が上がるでしょ!」
うーん……。そうか?
ちょっとピンと来ないけど、まぁ、ユイはその方がいいって言うんだったらそういうことにしておくか……。
そんな感じで妙にテンションの高いユイのことは放っておいて、そのままダンジョンの中へと歩みを進める。
中は、昨日までと全く変化がない。
まぁ、変化があるとしたら7階層辺りからだろうから、そこは予想通りだ。
リョウコのスキルとの相性確認はまだしない。正直、リョウコのスキルは低階層で使うには危険すぎるような気がした。
実際、魔力を『平均化』で4分割したとしても、どれだけの威力になるか分からない。
それなら、強い魔物相手に使った方がいいだろうという判断だ。
「うーん。やっぱりここまでは当たり前に進むんだよなぁ」
俺たちはなんの苦労もなく5階層に到達していた。
本当に何の苦労もない。
いや、なさすぎるぐらいだった。
魔物の数は昨日以上に少ない。
「むしろ、少なすぎませんか……?」
モモカさんがそうつぶやく。
「確かに……」
実際、少しおかしな気配は感じていた。
元々5階層まではそれほど魔物が多くはない。ただ、それは多くの冒険者がこのダンジョンを訪れていて、倒しているからだ。
けれど、俺たちのベヒーモス、骸骨将軍軍の発見以来、ギルドはここを冒険者たちに勧めていない。
むしろ、昨日のリョウコへの対応からわかる通り新人への紹介は完全にストップしている。
だから、今ここにいる冒険者たちは、他の街でここのダンジョンを勧められて、ここまでやってきたような人たちや、事情があって来ている俺たちのようなのしかいない。
つまり、かなり数が少ない。
それなのに、昨日来たときよりも魔物の数が減っているというのは……。
「えー。いいじゃないですか。楽なのが一番!リョウコちゃんもこれぐらいなら一人でだって来れたかも知れないね!」
「え……ボクは、えっと……」
「リョウコが困ってるぞ。ユイ。というか、さすがに一人では無理だろう」
リョウコの攻撃方法は、自分のスキルを利用しても魔法攻撃のみ。
それは完全に即気絶技だから1人の時に使用することはまず不可能だ。
更に、リョウコは村で出現した魔物と戦うときにも、その戦いに参加していなかったらしくレベルが上がっていないことから、魔力以外の能力は低い。というか、並の同じ歳の子よりも低い。言ってしまえば幼児程の実力しか持っていない。
そうなると、このダンジョンに1人で来た場合、5階層まで突破することは困難。というよりも1階層を抜けられるかどうかも正直言って危ういぐらいだと思う。
リョウコは一撃必殺の魔法はあれど、その使い道を持っていないんだ。
「とりあえず、このまま先に進むぞ。リョウコのスキルを使ってみるにも8階層まで行かないことにはしょうがないし……」
確かに、魔物が少ないことは気になるが、ここで留まるわけにはいかない。
どうせ9階層の骸骨軍を討伐して、そのまますぐにエビルゴーストと戦わねばならないんだ。
まぁ、6階層以降だったら少しは魔物も現れるだろう。
と考えて7階層にたどり着いたのだが……。
「やっぱりおかしいですよ……。ここに来て更に魔物の発生が少なくなるなんて……」
そう。5階層より下に来て、更に魔物の発生が少なくなった。
というよりも、ほぼ0に近い。
「これは……カイルの仕業と考えた方がよさそう……だよな」
カイルが何を考えているかは分からない。
しかし、この異常事態は間違いなくカイルの仕業だろう。
ここにくるまでに骸骨とも遭遇したが、普通の下位種だった。そのせいで油断していたが、あれに何か意味があったと見る方が自然だ。
「何を考えていてもいいじゃないですか!そんなもの全部迎え撃って倒しちゃえばいいんですから!」
ユイはそう言うが、ああいう軍師みたいなやつに好き勝手やられるのは怖い
今回、こちらは向こうについて何も情報がない。
それなのに、向こうは何故だかこちらのあらゆる情報を握っていて、準備を整えられてしまっているというのは相当危険だと思う。
「モモカさん……どう思いますか?」
「心配な点はいくつかありますが、まずここまでリョウコちゃんのスキルとの相性確認が全く出来ていません。それが一番心配でしょうか……」
確かに、それはそうだ。
結局、ここまでそれほど強い敵が現れなかったせいで、リョウコのスキルは使えていない。
このままだと、8階層も似たような状況だった場合はぶっつけ本番でやるしかない。
そうなったら……。
「ボク、やっぱり……」
おっと、こんな話をしているとリョウコがこのパーティーにいていいのか不安になってしまう。
それはよくない。
「大丈夫だよ。うまくいくって」
「そうですよ!そもそも、コウヘイさんは私のスキルを試したときだってぶっつけ本番だったじゃないですか!うまくいきますって!」
「……そうですね。ユイさん。ありがとうございます」
モモカさんがユイに礼を言っている。
まぁ、心配していても仕方がないというのは事実だしな。
やっぱりこういうときのユイは頼りになる。
「じゃあ、行くぞ?」
とりあえず、8階層を見てみないと話にならない。
そっちが昨日と同じ光景だったら、そこで試せばいいんだしな……。
と、8階層にたどり着いた俺たちを待っていたのは……。
「お待ちしていましたよ。皆さん」
カイルただ1人(?)だった。
「おや。可愛らしいお嬢さんをお連れのようだ。皆さんは子守でもされるようになったのですか?」
そんなことを平然とした調子で言っている。
こいつは……何を企んでるんだ?
「リョウコは俺たちの新しい仲間だ。で?これはどういうことなんだ?」
「どういうこと?本日は皆さんが昨日話したことの答えを聞かせていただけると思い、歓迎の準備を進めていただけなのですが……何かご不満ですか?」
歓迎……?
どういうことだ?
「何言ってるんですか?歓迎って」
ユイが何も気していないような調子でそう尋ねる。
「え?そちらが私の提案を受け入れていただけたときのことを考えて、このように8階層まで危険のない状態にすることも可能であることをお見せしたのですが……ご不満でしたか?」
「それは、つまり、昨日の提案を受け入れれば、このような状態にダンジョンを変えてしまうことができるってことを見せてくれたわけか?」
「ええ……。というよりも、私どもに管理を任せていただければ各階層の魔物の数など簡単に調整できるということをお見せして差し上げたんですよ。どうです?何の危険もなくここまでたどり着くことができたでしょう?」
確かに、カイルの言う通りだ。ここまで危険はなかった。しかし……。
「それは、つまりこういう状態に出来るけれど、逆の状態にするのも簡単だということでは?」
モモカさんがそう尋ねる。
そういうことだ。ダンジョン内の魔物の配置を自由に出来るということは、簡単に昨日の8階層のような状態にも出来るということに繋がる。それでは決して安全ということにはならない。
「ほう……。こちらは誠意をお見せしたつもりなのに、随分と好戦的なとらえ方をされるのですね……。残念です」
心底残念そうな調子でそうカイルはつぶやく。
本当に、何を企んでいるの全く分からない。
「カイル。歓迎してくれたのに申し訳ないが、昨日話をギルドに持ち込んだ上での回答を聞かせたい。こちらとしてはお前の提案は飲めない。お前たちは討伐させてもらう」
「……そうですか。予想はついていましたが……。それで、その少女は皆さんへの助っ人ですかね?まぁ、分かりました。それでは、私も9階層に戻りましょう。交渉決裂は残念ですが、9階層にて更なる歓待の準備をしてお待ち申し上げております」
カイルは、去り際に「かかか」と笑い声を上げるとそのまま下へと降りていった。
「どうやら、準備は万端って感じみたいだな……」
あの余裕の雰囲気、完全にこちらへの対策はできているんだろう。そうなると……。
「リョウコ、君のスキルにかかっているかもしれない」
カイルは余裕そうだったが、あいつにとってもリョウコのスキルは未知のもののはず。隙があるとすれば、そこをつくしかないだろう。
「は、はい……」
リョウコは緊張しているようだ。
「大丈夫ですよ!準備したって私たちには通用しないってことを見せてやりましょう!」
ユイはいつでも元気そうだ。
「まぁ……行くしかありませんからね」
モモカさんも覚悟を決めた様子だ。
よし。行こう!




